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第2話 解けない恋の方程式 (1)

折角の夏の補習は最終日の4日目を迎えていた。

 最終日ともなると再テストの繰り返しで合格点の60点を越えられないヤツなんていなかった。オレを除いては。

 

 2日目からは杉崎センセーの顔もまともに見れなくなっていたのに、やっぱりこの空間で先生を感じたいという気持ちが勝ってここにいる。

 

 セミの鳴き声がジージーと耳について、ジリジリと焦らされているような頭に血が上る感覚が募った。

 

 教卓に肘をついて顎を乗せ、再テスト中のオレに話しかけた。

「なぁ葉山はやま、お前はどういうつもりなんかな?」


 

「…どういうつもりって言われても、何がですか?」

オレはセンセーが目の端に入るかどうかの角度でチラッと顔を向けた。

 

「お前、2年の選択科目で物理取ってるよな?それも1学期の成績トップだった…」


 オレはぐっと言葉に詰まった。


「葉山、中学の頃は、明らかに数学得意だったしな。ちょっと俺みたいなヤツがいるなって思ってた」

 

空っぽの教室に向かって、独り言みたいに続けた。

 

「お前は自分で気付いていたか知らないけけど、難問解いてる時のお前は生き生きしててさ、楽しそうに見えたんだよ」

ちょっと目線を上げながら、懐かしいシーンを見てるのが分かった。にこやかな表情が、きっと過去のオレに向けられていた。

 

「俺はさ、その時はもう教員免許終盤って頃で。でも『取り敢えず先生にでもなるか』みたいにふんわり決めてたんだけどな、葉山を見てさ、こんな子に教えてやりてぇなって思った。数学ってもっと広くて、面白いんだぜって」

 

 オレは胸がぐわっと熱くなって涙が溢れそうだった。ちゃんとセンセーを追っていると口から出そうだった。堪えるように、鉛筆をぐっと握った。

 

「それから教師って悪くないなって思えたんだ。情熱を注げる仕事だと思えた。葉山、どんな理由があって数学だけ出来ない選択を取っているのか分からないけどな、何かあればちゃんと相談に乗るからな」

 

 

 オレは何をしていたんだと後悔をした。

オレは答案用紙に目を落としたまま、頷いた。


 その日の補習最後の再テストは満点を取って終了した。

 

 

「能ある鷹は爪を隠すとは言うけど、急に爪出してきたな」

杉崎センセーは笑いながら嬉しそうだった。

 

「…ちょっとベクトルを変えようと思ったから」

分かりやすい行動に気恥しさもあったけれど、こんなところで足踏みしている場合じゃないと分かった。

 

「おぉ、そっか。葉山がんばれよ」

そう言って、オレの頭をガシガシと手荒に撫でた。

 

 オレは嬉しい半面、オレを子供としてしか見ていない先生の大人な手が、遠くて苦しかった。

 

「先生、オレ…、先生に追いつくから見てて」


「…おう、エンジン掛かったみたいだな。ちゃんと見ててやる」

 

 

 年はどうやっても追いつくことは出来ないけれど、ただ認められるだけではなくて、いつか肩を並べられるような存在になりたいと思った。

 




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