第1話 片想いの条件式 (2)
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オレが中学2年の夏休み、友達の紹介で最寄り駅にあった集団塾の夏期講習に入会した。
そこは大学生もアルバイト講師として沢山いた。
その1人に杉崎晃惟先生はいた。大学4年生だった。
分かりやすくて、優しい先生で人気だったけど、オレの数学担当は別の先生で、ほんの数回だけ授業は受けたことがあっただけだった。
授業とは別に、出入り自由の自習室があり、そこでは先生に質問して教えて貰えることが出来た。
「…あの、すみません、この問題が分からないんですけど…」
「…どれどれ…?うんうん…これかぁ!君結構難しい問題チャレンジしてるんだね、これはさー…───」
杉崎先生は隣に座って、じっくり教えてくれた。やっぱり分かりやすくて、優しかったし、オレからしたらとても大人で憧れた。
何度か自習室でそんなことがあって、先生とは打ち解けて話せるようにはなってきていた。
この頃の『オレ』は、地味な髪型に度の強い眼鏡をして、友達もあまり多くなく目立たないタイプだった。勉強はまあまあ出来る方ではあったけれど、自分が納得出来るほどではなく、何にしても中途半端な気がして自信も大して持てなかった。
ある日の塾帰りだった。雨がザーザー降りになり、親が車で迎えに来てくれることになって、少し遅くなるからと、塾内で待たせてもらえることになった。
その時、授業が終わった杉崎先生と自習室で二人きりになった。
「…あれ?まだ帰らないの?」
「あ、雨が酷いので親が車で迎えに来てくれることになったんです。少し待つようで、ここで待たせて貰えることになったんです」
「そういうことか、俺も雨宿りしてから帰るかな。ネットで調べたら、1時間しないでこの辺の雨は弱くなるって出てたからさ」
自習室は個別になるように左右に仕切りのされた机が並んでいて、先生はそこに入り込むように隣の席の椅子を引き寄せ足が当たりそうなほど近付いて座った。
「迎え来るまで数学見てあげようか?」
「……今日はもう疲れてしまったんで…」
「そっか、…うーん、じゃあさ、中2じゃまだ早いかもしれないけど、何処の高校行きたいとか考えてるの?」
「まだ分からないです。何をしたいかも全く分からないのに、先に進路を決めていかなきゃいけないシステムもよく分からないです」
「まぁ、それは確かにそうだよね」
「それに、何が好きとか、得意とかさえも分かってない。…先生は夢とか、何がしたいとか決まってるんですか?中学の時にはもう考えてたんですか?」
「中学生の頃は自分は数学がどうやら好きそうだと思って、でも、調べると数学のみでなれるような職業は少なくてさ、とりあえずは自分に合いそうな高校を探したかな…」
「僕には好きも得意も無いです。クラスでも滅多に1番になれない。人に自慢出来るような完璧な部分なんて無いんです」
「…君は完璧主義なのかー…。俺としてはさ、完璧な人間はいないし、もし完璧な人間だったらそれじゃつまらないと思ってるよ。伸び代があるわけだし、その人を知る楽しみがあると思わない?数学って全て論理的に解かれていると思ってる人もいると思うけど、数式にもさ、未だに誰も解くことが出来ないそんなのもあるんだよ。論理的に攻めているはずなのに、まだ誰も歯が立たない。謎が多いし、完壁に解かれている訳じゃないんだ。数学のそういうところに惹かれたところもあるなぁ…」
「…そういう面白さ…」
オレにとっては新鮮だった。完璧な美しさではなく、不完全な美しさ。何かわくわくした。そして、この話をしていた先生の楽しそうに輝く眼差しが美しいと思った。その瞬間胸が高鳴った。




