第1話 片想いの条件式 (1)
夏休みに入り、外気は一段とうだるような暑さだった。
教室の大きな南向きの窓からは太陽の光が容赦なく燦燦と降り注ぐ。エアコンがついてるとはいえ、コスト削減、設定温度高めでは太刀打ちできず、汗が滲むくらいには暑かった。
そこに集められたのは学年の中でもやってしまった20人に満たない二年生だった。
その中でも髪色はオレンジ色で目立っていたし、違う理由でもオレはアイツからしたら目立ってしまっていた───。
「お前というヤツは凝りもせず、折角の休みを台無しにするのが好きなのか?去年の夏休みも、冬休みもいたよな?」
「うるせぇ、ほっとけ!」
「お前、逆に考えると実は数学好きなんじゃないか?補習出過ぎだろ!」
わざと豪快にオレを笑った。
「そうそう、大好きだからしょうがないだろー!ホント、ほっとけ!」
オレはそう言って、フンッと鼻を鳴らした。
この言葉にウソはなかった。
『……ばーーか!!オレが好きなのは勉強じゃなくて、アンタだよ、杉崎センセ…』
数IIの教科書を片手に広げオレの机の前に立つ、この男は杉崎晃惟。オレのクラスの副担で、数学を持っている。教師3年目。
ちょっと長めの前髪が黒縁のメガネに時々掛かって、邪魔なのか前髪を指先で払う癖がある。
高二の一学期は終わり、夏休みに入ったけれど、期末テストで英数国で赤点を採ったヤツは補習の対象だった。オレは数学以外の教科はクラスの上位に入るくらいは採れていたが、数学は惜しくも3点足りなかった。去年の冬休みも夏休みも3点足りなかった…。
「…センセ、ここ分からないでーす」
だらりと手を上げた。
「次行くからちょっと待ってな」
他の生徒の隣に座って問題を教えている。
補習は基本4日あって、最初の1日は復習問題。残りの3日は再テストで、60点以上採ったらそこで補習は終わりになる。60点採れないと次の日同じテストを受けるのを繰り返す。大抵は2回目でみんな合格点を超える。ほとんどが選択問題で覚えてしまうからだ。
今日は初日で復習問題をやりながら、分からないところを杉崎センセが教えてくれる。
「葉山、どこ分かんない?…ああ、ここね…」
オレの左隣の椅子をちょっと寄せて座り、プリントを覗き込む。
オレの顔の真横に先生の顔が近付いて、ふんわりと先生の体温と匂いに鼓動が早くなる。
「…で、こうなる訳だ。解かったか?」
目をしっかり合わせて言われ、恥ずかしさでオレはすぐプリントに目を逸らす。
「…んーー、ここがどうしてもよく分かんないっす」
するとまた説明してくれる。
隣に座る杉崎先生を堪能する。プリントに向けられた伏せた目は一段と切れ長に見えて好きな角度だった。シャーペンを握る指先は長くて繊細だった。
時々半袖の先の肘がオレに当たってドキリとした。
この時間のために、オレはわざと赤点を採った。
杉崎先生に教えてもらうようになってから、オレは数学が好きになった。1番得意な教科でもあり、本当なら100点をとれる。
杉崎先生は去年もオレのクラスの数学担当だったし、オレはもっと前から先生を知っていた。
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