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人生の初期設定を自分で選べるなら

作者: 生きてる水

 人生の初期設定を、自分で選べるとしたら。


 そんな馬鹿げた話を、俺はこれまで何度も考えたことがある。


 そして今――

 俺の目の前には、“神”を名乗る存在がいた。


 名前はミコト。


 冗談のような光景なのに、なぜか笑えなかった。


「人生を、最初からやり直してみませんか?」


 ミコトは、まるでスーパーの特売を勧めるみたいな軽さで言った。


「顔や体、才能、生まれる場所。あなたの人生を、好きなように設計できます」


 俺は答えなかった。


 答えられなかった、の方が正しい。

 



 

 俺の年齢は23歳。飲み遊んでいた大学生活が終わり今年の春から就職。

 大学からのギャップか多忙な日々に追われている。


 仕事が終われば帰宅し、シャワーを浴びて眠る。

 目を覚ませば、また出勤だ。


 土日の休みは遊ぶ気力がなく、家の中でまったりと過ごす。

 彼女もいなければ、趣味なんかもない。

 大学の頃にたくさん遊んだ友達とも連絡を取らなくなり、生き甲斐と呼べるものが無くなってしまった。


 俺って何を生きがいに生きているのだろう……?


 学生時代は楽しかったよな〜。

 

 小学校の頃は都内の狭いアパートで父と母と3人暮らし。

 親は仕事のため朝早くから夜遅くまで働いているため、休みの日以外はそんなに話すことがない。

 そんな日常を淡々とこなすだけの日々。


 中学時代には運動をやりたいということで前々からやりたかったサッカー部に所属。

 サッカー部といっても初心者から入るものは少なく、万年補欠。

 でも、意外と楽しかった。


 高校時代もサッカー部に所属。

 でも、公式戦に出ることなんてほとんどなかった。


 でも、人生で1番楽しかったのはこの高校生時代だった。

 高校二年生の頃にサッカー部のマネージャーと付き合うこととなった。


 告白というのはこれまでに4回ほどしてきた経験があるが実ったのはこの1回だけ。

 まさに唯一の青春だった。

 その彼女とは高校を卒業して2ヶ月ほど経ったら振られてしまった。

 泣きに泣いたが……今となっては懐かしいなくらいしか思わない。


 そして、大学時代は遊ぶだけの日常。

 Fランには行きたくなくてそれなりの勉強をしてFランに頭を掠めるような大学に合格した。

 楽しかったはずなのに特に印象的な出来事が一つもなかった……。


 就活ではとりあえず早期で受かるならどこでも良いと志願書を出しまくって見事合格。


 今は社畜の生活だ。


 たかが会社の一員だ。

 

 人からも特に必要とされていない。

 会社の飲み会で、同期が昇進の話をしていた。

 俺の名前は、誰の口からも出なかった。



 そんな俺の前に神、ミコトは突然現れた。

「人生を1から……初期設定を好きに決めてやり直しませんか?」


 最初は乗り気じゃなかった。


 でも、ミコトは半ば強引に進めてくる。


「自分の好きなように生まれられるのですよ!顔や体……運動神経、頭……場所、家や立地など……。自分の好きに作り変えることができます!」


 それを聞くと俺は少し、いいかもって思った。


 俺は今まで自分を好きだと感じたことがなかった。

 顔は下の上か中の下くらい……。

 学力は偏差値50よりは下。

 運動神経は目立って良くはない。

 それ以外にも細かく言えば嫌なところはまだまだある。


 歌は下手で、鏡に映る自分はいつも中途半端だった。


 体毛は濃く、肌は荒れ、

 どれだけ歯を磨いても自分の匂いが気になった。


 背は高くも低くもなく、足だけが、なぜか短い。


 あげればきりがない。


 ミコトは言った。


「そのような悩みも初期設定で改善することができますよ!だからきっと自分のことを好きになることができるでしょう!」


 ミコトは俺にタブレットらしき物渡してきた。


 画面にはトモ○チコレク○ョンの人を作り出す時の画面のようなものが出ている。


「さあ、好きなように自分を作ってください!」


 こんなの嘘だろっと冗談半分ではあったが俺は自分を作ることとした。


 まずは顔から――

 

 目がぱっちりの二重。

 鼻は高く。

 口は特に選ばなかったが――補足分を記入というスペースに(笑った時に顔がクシャッとなりたくない)と書いておいた。

 

 髪質はサラサラ。

 でも、サラサラすぎるとワックスとか付けても固まらない場合があるから……ほどほどのサラサラで!


 顔つきはロックミュージシャンのボーカルのようなイケメン。

 アイドルっぽいイケメンは何となく、なりたくなかった。

 どちらかというと男も惚れるようなイケメンの顔つきにした。


 身長は高め。

 20歳で180センチになるように設定。


 体重は重くなく痩せていないくらいに設定。

 そして、食べても食べても太らない体――と。


 体毛は一切無くす。

 ヒゲとか剃りたくないし、青髭とか嫌だし。


 肌荒れはしない身体に!

 肌荒れは無縁!


 視力が落ちることのない目!

 ずっと2.0。


 歯が真っ白。


 足のサイズとかも決められるらしいが……ここはめんどくさいな!将来的に27センチくらいでいいかな?


 一通り、外見の設定が終了した。


 うん……狙っていた通りに男にも女にも惚れられるような顔立ちだ。

 正直にこんな人になれたのなら……どんな生活が待っているのだろう……。


 

 次は能力的な設定だ。


 とりあえず……運動神経はできるだけ高く。


 そして、歌も上手く!絶対音感も欲しい。

 声もイケボで……。


 学力も良いと設定したかったのだが、それはできないらしい。

 学力は覚えていくものだから……そこは関与することができないらしい。


 そのため、記憶力を最大限に設定した。

 これで一度見たものは一瞬で記憶できる超人だ。


 芸術的なセンスも飛び抜けたい……。

 絵なんか上手く描けたらいいしな……。


 後は何があるだろう……。

 とりあえず、こんなところかな……。


 次は生まれる場所や親や兄弟の設定だ。


 生まれる場所は……今世は都会だったから、何となく田舎の方に生まれてみたいな……。

 それに毎日、美味しいご飯が食べたいということで……新潟あたりが良いだろう。


 親の職業……どうしようかな。

 お金があるに越したことがない。

 けれど、家族との時間が取れないのは嫌だな……。


 とりあえず……これをそのまま書き出す。


 ――――お金があり、家族との時間が取れる。そして、俺が幸せになれそうなもの――――


 と入力すると、何かを読み取るように機械は動き始めた。


 すると、俺が書いた欄にある文字が出てきた。


 両親は旅館の従業員。


 これが幸せなのか?

 少し疑問を持ったが俺は『詳しく』と書かれた欄をタップした。


 『あなたの祖父にあたる人物が旅館の経営者。そして、あなたの両親はその旅館にお勤めしています。そのため、あなたは旅館の子供ということになります。そうなることによって毎日あなたは暖かい温泉に浸かることができます。それにスキー客のご来店が多い旅館ですので経営が傾くことはないでしょう。』


 う〜ん……完璧な設定だ。

 まさに望んでもないことだ!


 家族構成は――父、母、兄、祖父、祖母。

 兄弟というのに少し憧れがあったからな!

 頼れる兄がいてくれたらいいよな!


 場所も生活も完璧だ。


「友達なんかも自分で決められるのか?」

「それは出来ません。初期設定から先は自分次第ということとなります!」


 う〜んそういうことね。

 あくまで生まれながらの才能的な部分だけを決めることができるということか。

 でも、これだけの才能があるなら良いな!


「他に何か決めることとかあるのか?」

「かなり細かく設定されているので大丈夫だと思いますよ!」


 ミコトは俺の設定を確認してそのようなことを言った。


「じゃあこれで!」

「わかりました。それでは最後にお名前と生年月日をお選びください」


 そこまで決めれるのか……。


 名前は……何かかっこいい名前がいいよな……。


 氏名――風巻 謙信。


 ちょっと狙いすぎかな?

 まあ、いいだろう。

 キラキラネームでは無いし……。


 そして、生年月日……。


「生年月日って……いつでも大丈夫なのか?」

「はい!1000年代でも4000年代でも大丈夫ですよ!」


 1000年代でも4000年代でも……?


 いや、別に着物を着て蹴鞠をしたいわけではない!

 戦国武将とかは多少は興味があるけどそこまでしてあいたい存在では無いしな……。


 それに4000年……。

 未来は見てみたい気もするけど……4000年に人類ってまだいるのかな?

 俺はそんなチャレンジングなことしたくない……。


 もう1度人生をやり直すなら……2002年生まれの俺は2002年に設定した方が同じ感じでやり直せる。

 でも、それじゃあなんか勿体無い気がする。


 

 生年月日――2004年――8月11日。


 特に目立った理由はないが……2004年生まれってなんかエリートな感じがする。

 有名女優や俳優が多数出ている。

 俺も2004年に生まれればエリートの仲間入りって感じがする。


 そして、誕生日は適当に決めたが……まあ、誕生日が夏休みっていうのがちょうど良い気がする。

 みんなに祝ってもらえそう。


 逆に学校がないから誕プレとかもらえない可能性があるのかな?

 まあ、そこまで気にすることでもないだろう……。

 だって俺は完璧なのだもん。


「設定しましたよ!」


 そう言うと俺はミコトにタブレットを渡した。


「かしこまりました……。それではこちらで作成させてもらいます!」


 と言うけど……本当にできるのかそんなことが……。


 ミコトの格好は確かに背中に翼があり、明らかに人間ではないことがわかる。

 でも、そんな馬鹿げたことがあるのか?


「なあなあ……本当に生まれ変わるのか?これに?」

「ええ!そうですよ。こちらとしてあなたは生まれ変わることとなりますよ!」


 いざ言われると、何となく惜しい気もする。


「ただいま作成されました……。それではここにあなたの魂を注ぎ込みますね!」

「作成されましたと言われれも……どこにもも当たりませんけど……」

「2004年に作成されたのでここにはありません。それではあなたの魂をこれから引き抜きますね!」


 ミコトは笑顔でそう言った。


 おいおい……。

 何だこいつ!サイコパス野郎なのか……?

 笑顔で魂を引き抜くだと……。


「今すぐにか……?」

「はい!今すぐにです!」

「ちょっとまだ……心の準備が…………グフウ……?!」


 ミコトの指が、静かに俺の胸を貫いた。


 苦しい……。

 とんでもない痛みが襲いかかってくる。


「ちなみに言い忘れていましたけど……記憶等は一切残りません……まあ関係ないでしょう……人間は、何も覚えていなくても、ちゃんと同じ過ちを繰り返しますから」


「記憶……は…………残らないのね……グホオオ…………」

 俺の何かが弾けたんだ。




 

 暗い暗い空間に落ちていく感じがする。

 何だこれは……?

 俺は何者だっけな……?


 というか俺って……。


 おれ……おへ……ふえ……。


 ぐあろももも〜うう〜……あうう……う〜〜。







 


「生まれました〜。元気な男の子ですよ〜!」

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