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愛せる要素が、殿下にありまして?

作者:
掲載日:2025/12/12

婚約破棄テンプレお借りしました。世界観はゆるふわです。

「ディアーナ、この場をもってお前との婚約は破棄させてもらう」


 煌びやかなシャンデリアに照らされ、豪華な食事が並び、着飾った貴族たちが談笑する王家主催のパーティーで響いた、大きな声。

 その声の主こと、この国の第三王子・テオドール様が更に言葉を続ける。


「お前は、公爵令嬢としての立場を笠に着て下位貴族であるアイリスを虐げていたと聞く。大方、私と親しくしていることが気に入らなかったからだろうが、嫉妬ほど醜い感情はないと知った方がいい」


 先ほどまで穏やかな談笑に包まれていた会場が、一気に静かになる。微かに聞こえるのは衣擦れの音のみだ。

 周囲からの視線を集めながら、私は仰々しくカーテシーをする。


「……殿下、ご機嫌麗しゅうございます。エスコートもなかったので今日はおいでにならないのかと思っておりましたが、出席なさっていたのですね。」


「これがご機嫌麗しく見えるのなら、お前は目までおかしくなっているようだな。先ほどの私の言葉が聞こえていたのか?婚約破棄をする、と言っているのだ」


「ええ、もちろん。この会場には相応しくない大きくて粗野な声でしたもの。しっかり聞こえておりましたわ。ふふ、でもあまりにも品のない声でしたので、荒くれものが侵入したのかと勘違いしそうになりましたわ」


「……っ何だと、この性悪女が。不敬罪で取り押さえられたいのか!」


 穏やかに微笑みながら言葉を返すと、殿下の声が一層大きくなる。


「あら。不敬罪と言うなら、殿下が捕まってしまいますわ。ご自分の尊厳を自ら傷つけているのですもの。高貴な方は、娼婦のような女性を腕にぶら下げて声を荒げてはいけませんわ」


 周囲からプッという声が聞こえる。あら、私をエスコートした後、飲み物を取りに行ったはずの従兄が視界の隅で震えているわ。


「な……っ娼婦とは、アイリスのことまで侮辱するのか!」


「アイリスさんとおっしゃいますのね。初めまして、私はディアーナ・ド・ヴァルモンと申します。以後お見知りおきを」


「何を白々しい。お前は今まで散々アイリスのことを虐げてきただろうが」


「いいえ?生憎、私に娼婦のお知り合いはいませんの。人違いでは?」


「だから!娼婦ではないと言っているだろう!!アイリスはれっきとしたフルーリエ男爵家の令嬢だ。同じ学園に通っているんだ、知らないわけがない」


「……フルーリエ男爵家、ですか。それは大変失礼致しました。フルーリエ男爵家は随分と個性的な教育をしてらっしゃるのですね……」


 だらしなく胸元が空いたドレスを着て、必要以上に上目遣いをしながら唇を尖らせ、殿下にぶら下がっている令嬢を見て、思わず感心する。


「あ、あと申し訳ありません。学園にはたくさんの方が在籍されているので、クラスの違う方はあまり存じ上げませんの。何か、高名な方なのでしょうか?」


「お前はどこまでも嫌味くさい女だな。アイリスのこの愛らしさを知らない生徒など、学園には存在しない。お前も愛らしく慈悲深いアイリスを少しは見習ったらどうなんだ?」


「……はぁ。いえ、私にはそのようなはしたないドレスを着る趣味も、人目をはばからず男性に侍るような願望もないのでご遠慮致します。あ、嫌味を言っているつもりはないのですよ?もし不快にさせてしまったのなら、重ねてお詫び申し上げますわ」


「な……っあなた、本当に失礼な人ね!!!」


 あら、やっとお声が聞けましたわ。何もおっしゃらないから、お話ができない方なのかと思っていましたが杞憂だったようですね。


「それで、なんでしたっけ。“婚約破棄”?ですか?“解消”ではなく?」


「あぁ!もちろん、お前有責での婚約破棄だ!」


「私有責とは……何故でしょうか?」


「先ほど言ったであろう!アイリスを虐げていたからだ!」


「アイリスさんとは今が初めましてなんですが……まぁ、お話が進まなそうなのでそれは一旦置いておきましょう。仮に私がアイリスさんを虐げていたとして、それが何か問題ありまして?」


 持っていた扇を広げ口元を隠し、殿下に問う。伺うようだった周囲の視線は、すっかりと好奇なものに変わっている。


「問題だらけだろうが!何を開き直っているんだ!」


「開き直りではありません。私は四大公爵・ヴァルモン家の嫡女であり嫡子。アイリス様はフルーリエ男爵家のご令嬢。確か男爵家には立派な嫡男であるエドワード様がいらっしゃいますから、跡継ぎでもない……。多少のおイタは許されてしまう立場ですわ」


「そういうところだぞ!大体、嫉妬に駆られて弱者を虐げるなど、王子妃としてふさわしいわけがあるか!」


「嫉妬……ですか。何故、嫉妬を?」


「だから!俺が!アイリスを寵愛しているからだ!」


「それで、何故私が嫉妬を?」


「俺のことを愛しているからだろう!」


「私が殿下を?愛しているのですか?」


「……え?」


「何故?」


「……え?だって、婚約者、だろう?」


「殿下は婚約者の私を愛していないのに?」


「……いや、でもお前は私を愛しているだろう?」


「いいえ?」


「……え?」


「愛していませんよ?」


「何故だ!!!!」


「何故、と言われましても……愛せる要素が、殿下にありまして?」


 プッ クスクス……と、周囲が静かな笑いで溢れる。


「愛して……いないのか?」


「愛していませんねぇ。顔を見れば嫌な顔をされ、定期のお茶会は無断欠席。エスコートや夜会のドレスはおろか、誕生日の贈り物すらもない…“婚約者”という名前がついた、ただの顔見知りですわ」


 まぁひどい……と今度は非難の視線が殿下に集まる。


「なら、嫉妬は?」


「していませんねぇ……むしろ、殿下がアイリス様を特別にご寵愛されていることすらも知りませんでしたわ」


「嫌がらせも……?」


「していません、と先ほどから申しておりますわ」


 そんな……と呆けた顔をする殿下がアイリス様の方を見ると、突然涙を流し始めた。


「テオ様ぁ。私、本当にいじめられていたんですよ?教科書を破られたり、歩いていたらいきなり上から水をかけられたりぃ……本当に怖かったんですぅ……。ディアーナ様……嘘ばかりつかないでください~」


 先ほどの大きな声とは違い、随分と可愛らしい声を出すアイリス様に、殿下が表情を取り戻す。


「そうだぞ!お前じゃないって言うなら、アイリスへの嫌がらせは誰がやったって言うんだ!」


「そんなことを言われましても、私は存じ上げませんわ。というか、そんなことも調べずにこの場であのような発言をされたんですか?」


「う……っ絶対に、お前だと思って……」


 あまりにも浅はかで、もう言葉が出てきませんわ……。ノエル兄様、そこでニタついていないでそろそろ話を終わらせてくださいませ。

 すっかりと観客気分で楽しんでいる従兄を視線で呼び寄せる。


「失礼します、殿下」


「ん?おお、ノエル殿。来ていたのか」


「ええ。可愛い従妹のエスコートが必要になりましてね」


「ぐっ……。それで、何の用だ?」


「いえ、先ほどからお話を聞かせて頂いていたのですが、そろそろまとめてしまってもよろしいかと思いまして。まず、殿下とディアーナの婚約は“破棄”ということでお間違いないですか?」


「あ、あぁ……。いや、しかし」


「婚約破棄の旨、承りました。こちら、急ぎ陛下と伯父上に伝えさせて頂きます。正式な書類での手続きは後日となりますが、現在ここにいらっしゃる皆様を証人として、婚約破棄は確定とさせて頂きますのでご安心ください」


パチパチパチ……と控えめな拍手が聞こえる。パーティー参加者からの、了承の意だ。


「ですが、ディアーナ有責という部分に関しましては、了承しかねます。客観的に判断しましたところ、殿下有責での婚約破棄となりますのでご了承ください」


「何だと!?」「何でよ!?」


 あら、声が重なりましたわ。本当に仲がよろしいこと。


「それは、きっとここにいる皆様も同じ判断を下されると思いますので後ほどご自分たちでご確認頂ければ、と思います。そして、殿下はディアーナと結婚をし、公爵家への入り婿となられる予定でしたが、もちろんそれもなくなります。臣籍降下先の爵位については、陛下にお聞きください」


「あぁ。まぁ、公爵位を与えられるだろうから、入り婿になぞならんでもいい」


「お前に与える爵位などないぞ」


 殿下の言葉の直後、威厳のある声が会場に響いた。


「父上っ」


「王国の太陽たる陛下にご挨拶申し上げます」


 突然現れた陛下に、私とノエル兄様はそれぞれ最敬礼をして挨拶を贈る。


「良い良い。2人とも面を上げてくれ。ディアーナ嬢、此度は愚息のせいで不快な思いをさせてしまい、すまなかった」


 心からこちらを気遣ってくださる陛下の視線に、こちらが居たたまれなくなってしまう。


「恐れ多いことでございます。勿体ないほど、ありがたきお言葉を頂けて光栄です」


「ふむ……。実はな、ディアーナ嬢とテオドールの婚約はもうじき解消される予定だったんだ。幼き頃、テオドールの将来を心配したこちらの都合で婚約を結ばせてもらったにも関わらず、こやつのディアーナ嬢への態度は酷いもんだったからな。公爵と内々で話をさせてもらっていたところだったのだが……こんな騒動を起こしおって」


「父上!それならそうと言ってくださればっ!あ、せっかくの機会なので紹介しますね。こちら、私の最愛の…」「黙れ!この、愚か者が!!!!!」


 ビリビリッと、陛下の声で会場が震える。


「こんな大勢の場で醜態を晒しおって……っ何故こんなことをした?ディアーナ嬢を辱めるつもりだったのか?」


「いえ、そのようなつもりは……っただ、ディアーナの本性を皆に知らせるいい機会かと、」


「証拠もないのにか?」


「しかし、アイリスが泣いていたのです……っ」


 陛下の視線が初めてアイリス様に向けられる。


「フルーリエ男爵家の娘か……今、男爵家に使いを出しているから直に迎えが来るだろう。そなたへの詰問は、それからだ」


「ヒッ」


「まず、テオドールよ。先ほどその娘が、お前の最愛と言いかけたな?」


「はい!ぜひこのアイリスとの結婚をお許し頂きたく…っ」


「よし、結婚を許そう。」


「「ありがとうございます!」」


「そのため、お前からは王族の身分を剥奪する。家を出たら平民になる娘との結婚に、身分は邪魔なだけだからな。平民として、その娘と結婚すること。尚、離婚すること・不貞することは許さん。無駄な争いをなくすため、子を作ることも許さん。これは王命だ」


「そんな、父上!平民としてなど、生きていけません!」


「何で私が平民になるのよ!」


 浮かれ気分から一転、絶望したような顔で陛下に詰め寄る2人の姿は…何というか、とても滑稽だ。


「本来、ディアーナ嬢と穏便に婚約を解消していれば子爵位を与える予定だったんだが」


「それでも子爵位ですか……?」


「公爵家への婿入りを蹴り、男爵家の娘と懇意にしていると聞いてな。高位貴族という立場が嫌なんだろう、という親心だ。子爵なら男爵家の娘を娶りやすいとも思ってのことよ。だが、ここまでの醜聞を晒してしまったら、もう無理だ」


「陛下、失礼致します。フルーリエ男爵家のエドワード様が到着致しました」


 どうやら、アイリスさんのお兄様がいらしたようね。


「王国の太陽たる陛下にご挨拶申し上げます。父が領地に戻っているため、私エドワード・ド・フルーリエが御前(ごぜん)を失礼致します」


 綺麗な最敬礼をするエドワード様。お兄様の方は、本当に立派な方のようなのに……何故妹はああ(・・)なってしまったのかしら。


「面を上げてくれ、エドワード。急な呼び出しに急ぎ駆けつけてくれ、感謝する」


「いえ、滅相もございません。ただ、本日は王家主催のパーティーということで、参加しているのは伯爵家以上の高位貴族の方々のみ。……のはずですが、アイリスの件でのお呼び出し、と聞いて私も事情を把握できておらず……」


 と、ここでエドワード様が殿下の横に侍るアイリスさんにやっと気付いた。


「アイリス……っお前は何をして……、っ隣におられるのは殿下ではないですか。……2人はどういった関係で?というか、何故このパーティーにアイリスが?」


「その件なんだが、エドワードよ。そなたの妹は、既に嫁ぎ先が決まっておったのか?」


「い、いえ。ですが学園を卒業する前に嫁ぎ先を決めないと貴族ではいられなくなってしまうので、懇意にしている令息ができたら報告するよう、伝えておりました。何も知らない相手より、アイリスが好いた相手の方がいいだろうと思い……」


「何とも妹想いの良き兄よ。それでな、懇意にしている男ができたそうなんだ」


「……え?まさか……殿下?いや、殿下には公爵家の婚約者がいたはずじゃ……?」


……目が合った。あら、お顔がどんどん青褪めてしまいましたわ。


「……っ申し訳、ございません……っ!!!!」


 突然膝をつき、頭を床にぶつけるのでは、というくらいの勢いで謝罪を始めたエドワード様に驚いてしまう。


「お顔をあげてください、エドワード様。謝って頂くことなんて、何もないですよ」


「ですが……っ我が家の愚妹が原因で、公女様の婚約が……」


「問題ありませんわ。むしろ、望まぬ婚姻をしなくて良くなり安堵しておりますもの」


「はぁ……?」


「慰謝料もたっぷりと頂きますし」


「えっ」


 あら?殿下、何故驚いていらっしゃいますの?殿下有責だもの、当たり前ではないですか。


「あぁ。慰謝料についてはテオドールの第三王子としての個人財産からしっかりと出そう」


「ち、父上……っ平民になる上に個人財産まで取られてしまったら、私はどうやって生きていけばいいのです!?」


「働けばいいだろう。それもこれも、全ては己で撒いた種だ。潔く受け止めるんだな」


「そんな……っ」


「本来なら男爵家にも慰謝料を頂きたいところですが……今回は、やめておきますわ」


「いえ、払います!そんなことで償えるとは思っておりませんが、父と相談した上でできる限りの償いを……っ」


「その気持ちで充分です。男爵家も、きっとこの後苦労なさると思います。……これだけの騒ぎになってしまいましたもの」


 周囲を見渡しながら、静かに伝える。


「ここにいる皆様には、エドワード様の誠意はしっかり伝わっていると思いますが……どうしても、口さがないことをおっしゃる方もいらっしゃいますから。何かお困りごとがあれば、いつでもご相談ください。その代わり、私が困った際にはぜひご助力頂けますと助かりますわ」


「は、はい……っ!ありがとうございます……っ」


「と、いうことで、このお話はここで終わりでよろしいでしょうか?陛下、お手を煩わせることになってしまい、申し訳ありませんでした」


「何を言う。元々は王家が起こした騒ぎだ、ディアーナ嬢は何も悪くない。公爵にもきちんと謝罪をせねばならんな……近々、話し合いの場を設けよう」


「はい、よろしくお願い致します」


「ちょっとちょっとちょっとーーーーっ待ちなさいよ!」


 ふふ、と和やかな空気が流れかけたとき、またもやこの場に相応しくない怒声が響いた。


「なーにいい感じに終わらせようとしてるのよ!私が平民になるってどういうことなのか説明しなさいよ!」


 ……この方はいくつの声帯をお持ちなのかしら。話し方も表情もコロコロ変わって……これは無邪気というよりも情緒不安定なのでは?というか、陛下もいる前でその勢いでお話されて大丈夫なのかしら……?


「こら!やめろアイリス!誰に向かって話してるかわかってるのか!」


 エドワード様、せっかく戻った顔色がまた真っ青ですわ。……いえ、真っ青を通り越して真っ白ですわ。お気の毒に。


「何で私が平民になるの!?王子様のお嫁さんになりたかったのに!!」


「こんな騒ぎを起こして、そんなことが叶うわけないだろ……っ命があるだけ、どれだけの慈悲をかけられていると思ってるんだ!」


「うるさいうるさいうるさーーーい!!!」


「ア、アイリス……」


 癇癪を起す幼子のようなアイリスさんに、殿下は戸惑い……というよりも、ちょっと引いてらっしゃいますね?


「フルーリエ男爵家の娘よ」


「は、はい……」


「そなたはテオドールを好いておるのか?」


「はい、大好きです!」


「どんなところが好きなのだ?」


「まずは見た目ですね、金髪碧眼で完璧。あとはすっごく優しいところ!欲しいって言ったものは何でもプレゼントしてくれるんですよ」


 あら、可愛い笑顔。さすがに陛下相手にはドスの効いた声は出しませんのね。先ほどの癇癪娘と同一人物とは思えませんわ。


「そうか。テオドールと結婚したいか?」


「したいです!」


「ア、アイリス……!」


 殿下のお顔がまた元気を取り戻しましたわ。やっぱり愛の力ってすごいのですね。


「だ、そうだ。エドワード、問題はないな?」


「はい、全て陛下の指示に従います」


「よし、衛兵。この者たちを連れて行け。宰相よ、平民地区に2人の家を用意してやってくれ」


「かしこまりました」


 衛兵たちが2人を囲い、宰相様の指示の元、会場の外に連れて行く。


「え、待ってください父上!」


「え、何?どういうこと?」


 まだ理解が追いついていない2人だが、抵抗しようとしても衛兵たちに力で敵うわけがない。


「住む家は餞別として受け取ってくれ。もう会うこともないだろう、達者で暮らせよ」


 2人を見送る陛下の顔は、穏やかではあるが少しだけ寂しそうでもある。……可愛がっておられましたものね、とても。だからこそ……あのような性格になってしまったのですけれど。


「長らくパーティーを中断してすまなかった。さぁ、パーティーを再開しよう。まだまだ時間はある、楽しんでいってくれ」


 陛下のその言葉を合図に、またパーティーの空気が戻る。明日にはこの騒動が王都中に回るだろう。少し面倒ではあるが、あの殿下との婚姻がなくなったことは素直に嬉しい。


「ではディアーナ嬢、また近日中に」


「はい、陛下。どうか今日はゆっくりとお休みくださいね」


「ありがとう」


 緩みそうになる頬に力を入れ、淑女の笑顔とカーテシーで挨拶をしながら陛下を見送る。……私も、今日はもう帰ろうかしら。

エドワード様も、もう立っているだけでやっとの状態ね。


「エドワード様、馬車までお送り致しますわ。ノエル兄様、行きましょう」


「はいよ、俺の可愛いお姫様」



 *

 ――さて、あの騒動から1ヶ月。私の生活は、何も変わっていない。

 だって元々殿下との関係は希薄でしたもの、いなくなって変わることなんて何もないわ。


 あの2人は、無事平民としての生活が始まったみたい。陛下がつけた監視係によれば、慣れない平民生活に苦労しながらも何とか頑張っているとか。ただ、アイリスさんの“本性”はやっぱりあっちだったらしく、頻繁に癇癪を起しては殿下……もとい、テオドール様を困らせている様ですわね。

 せっかく愛する人と結婚できたのだから、制限付きと言えども幸せに暮らしてほしいものだ。


「ディー、何を考えているんだい?」


「ノエル兄様、いえ、特に何も」


「ディー?そうじゃないだろう?」


「……ノエル。――やっぱり、まだ慣れませんわ…」


「ゆっくり馴染ませていこうね。だって僕たちは夫婦になるんだから」


 優しく微笑むノエル兄様。私の、新しい婚約者様。

 ずっと胸に秘めていた初恋の相手からの甘い愛に溺れるのは、まだ“これから”のお話。

初投稿作品、最後まで読んでいただきありがとうございました。


追記:誤字報告助かります。ありがとうございます。

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何とか頑張れるのスゴいな
処された方が幸せそうなお二人〈元王子と男爵令嬢(仮)
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