第7話 地の戦天使 桜庭 大地 【前編】
カフェ「空の庭」で珍しく客足が落ち着く時間帯になった。
4人は作業をしながら、最後の仲間の予想談議をしていた。
「地の力の人なら、やっぱり防御に特化とか頼もしい感じの人かな?」
「あー、まあイメージ的にはそんなタイプだよな。
俺たちの属性も割とイメージ通りだし…柔道部とか当たってみるか」
キラと烈也は守りタイプを予想するが、颯が反論する。
「いや、地の力には花の力も含まれるだろ?可憐な女性かもしれない。
でも安心しろ。俺はミズキ一筋だからな!」
「いや、別に分散した方が楽だわ」
ミズキはそっけなく突き放す。
そのとき、控えめにカフェの扉が開いた。
黄色いオーラが視界に差し込む。
「こ、こんなところに洒落たカフェがあったなんて…」
190cmを超える影。鍛えられた肩幅。
けれど扉を閉める指先だけは、妙にそっと優しい。
(((て、典型的な地属性の人が来たー!)))
「あれ?お前、桜庭大地じゃねーか?」
「同じクラスの火渡烈也だな。すまないが注文はする。
その前にここで少し仕上げさせてもらっていいか?
妹への誕生日プレゼントを家で隠れて作るのも限界になってきてな…」
鞄から出したのは、愛らしいくまのぬいぐるみ。
「すげえ…桜庭そんなの作れるのか!?プロみたいだな!
俺も弟妹に作ってやれたらいいけど…できそうなのあるか?」
「いや、プロなんてそんな…。フェルトでよければ教えるぞ」
「マジか!サンキュー!」
「あの…大地くん、スイーツとかも作れたりする?」
キラはダメ元で聞いてみた。
「ああ、たまに夢中で作ってしまう時があってな。最近はこのタルトとか」
スマホに表示されたのは、宝石のように苺が輝くタルト。
「…これはすごいよ!大地くん、なんて素敵なギャップなんだ!」
「…この見た目で乙女趣味なんて、気持ち悪くないか?」
「「全然!!かっこいい!!」」
キラと烈也の声が揃った。
「ありがとう…家では祖父に見つかるとできないから、ここで言ってもらえると嬉しい」
大地は照れたようにはにかむ。
(なるほど…強そうなのに、笑うと子どもみたいな目だ)
ミズキは、ふっと肩の力が抜けた気がした。
そのやり取りを聞きつけ、透が滑り込むように大地の前に現れる。
「素晴らしい!ぜひ、うちのカフェで好きなだけ作っていかないか?」
いきなりのスカウトに4人は驚くが、大地だけは「好きなだけ」に目を輝かせた。
「まさかの乙女男子パターンだったか…。キャラ立ってるな」
颯は冷静に分析するように呟いた。
大地は家に着き、今日の出来事を思い返していた。
(今日は……楽しかったな。
俺の“好き”を否定しない人たちがいる。
それだけでこんなに嬉しいなんて)
あとはラッピングだけ。
大地は足早に自室へ戻ろうとした――。
「大地。
……お前は、まだそんな女のようなものを作っているのか?
そういうのはやめろ」
最も会いたくないタイミングで、祖父に出くわしてしまった。
「そ、祖父さん……。これは、美咲へのプレゼントで……」
すると、絶妙に良いタイミングで妹の美咲が飛び出してくる。
「おにいちゃん!
かわいいくまさんだー!ありがとう!!」
祖父の眉が、ぴくりと揺れる。
「ふん……。
今回は美咲に免じて見逃すが、もうそういう趣味はやめろ。
柔道に打ち込みなさい。
わしはな、大地――
お前が弱く見られるのが、悔しいんだ」
そう言って背を向けた祖父の顔は、ほんの一瞬だけ寂しそうに見えた。
「お兄ちゃん。美咲、お兄ちゃんの作るかわいいもの大好きだよ?」
ぎゅっと抱きしめてくれる美咲。
「ありがとう……美咲は優しいな」
だが、階下では祖父の怒鳴り声が響きはじめた。
「大地を甘やかすから、あんな女々しい趣味に!
強くいるのが男だろう!!」
「お、お父さん……。
今は令和ですし、いろんな価値観が……」
「黙れ!
お前が柔道をやめたから、大地を後継ぎにせねばならんのだ!」
父は、もう何も言い返せず俯いた。
(……俺のせいで、父さんも母さんも怒られてる。
見た目通りに生きた方が、誰にも迷惑かけないのかもしれない)
胸が、ぎゅっと痛んだ。
***
次の日。
「……す、少しだけ。お手伝いに来ました」
空の庭へ現れた大地を、透が両腕を広げて迎える。
「よく来てくれた!
はい、材料はこれ全部!思いきり作ってくれ!」
溢れんばかりの製菓材料が作業台を埋め尽くしていた。
「……充実してます!ありがとうございます!」
大地は次々とスイーツを仕上げていく。
その手際は、プロ顔負けだ。
「このショートケーキ!甘いのに全然くどくない!最高!」
「パンケーキもかわいすぎ!罪!ぺろりといけちゃう!」
お客さんからの歓声に、キラが誇らしげに微笑んだ。
「すごいよ大地くん!
このカフェもっと人気になるね!」
大地は胸をなでおろした――その時。
「大地!!」
重い声が店内を揺らす。
祖父がやって来たのだ。
「菓子など作って……!
お前はそれでも男か!帰るぞ!!」
厨房へ踏み込もうとした祖父の前に、烈也が立ち塞がる。
「おっさん!
大地の菓子で、こんなに笑顔が溢れてんだぞ!
頭ごなしに否定なんて、やめてやれよ!」
キラも続いた。
「今日だけって内緒で手伝ってくれたんです。
ごめんなさい。でも……
大地くんを、否定しないであげてください。
大事な友達です」
周囲の客も、祖父を咎めるように見つめる。
「な……わしを悪者みたいに……!
好きにしろ!知らんからな!」
祖父は逃げるように店を出て行った。
静まり返ったフロア。
その中心へ、ミズキがすっと立つ。
「驚かせて申し訳ありません。
でもご安心を。
ここには――
可憐なお姫様を守るナイト達が控えておりますので」
ウィンク一つ。
女性客から黄色い歓声が上がる。
「……ミズキ。腕上げたな」
颯がこっそり感心していた。
烈也はぽりぽり頭をかきながら言う。
「わりぃ、大地。カッとなっちまって……」
「ありがとう。烈也、キラ。
でも……祖父は俺に柔道を継いで欲しいんだ。
体格だけは恵まれたから。
この見た目じゃなければ……女なら……
祖父も諦めてくれたかもしれない」
うつむく大地。
烈也は、拳をぎゅっと握りしめながら言った。
「見た目なんて関係ねえよ。
俺は不良だから絡まれやすいけど、
最近はキラが“本当は優しい”って肯定してくれたから
自分を好きでいられる。
ミズキは美人なのに強いし、ちょい口悪いけど面倒見がいい。
颯はチャラついてても、本気でミズキ守るやつだ。
人間って、意外性がある方がおもしれーじゃん。
だから――
自分が好きなお前でいろよ、大地」
意外性があって、おもしろい――。
誰にも言われたことのない言葉だった。
(俺を……肯定してくれる人がいる)
目頭が熱くなる。
「……ありがとう。烈也。みんな。
俺は、料理も裁縫も好きだ。
でも、柔道も好きだ。
みんなを守れる強さも、持ちたい」
その言葉に、仲間は一斉に笑顔になった。
「大地、ようこそ空の庭へ!」
温かな輪の中へ、大地は迎えられる。
***
だがその一方――。
祖父を見下ろす“怪しい影”が、
静かに口元を歪ませていた。
不穏な気配だけを残して――。
(続)




