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灰色の翼をもつ天使と僕の聖戦  作者: 小田原 純


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第4話 炎の戦天使・火渡烈也 【後編】

烈也は心当たりのある人影を見つけて表情が険しくなった。

「キラ、悪い。病院は先にある春日井病院だから、先に真尋と千尋とゆっくり歩いててくれ。すぐ追い付く」そう言い残して烈也は血相を変えて別方向に走っていった。


 烈也が人影に追いついた。その人物に対して怒りで顔をゆがませて叫ぶ。

「今までどこ行ってたんだよ…親父!!」

目の前の気弱そうな細身の男性が烈也たちの父である。

「烈也……本当に悪かった。借金、やっと返せたんだ。これで…お前たちを迎えに行けると思って……」

「そんな言い訳、今更聞きたくねえよ。母さんが過労で倒れてしまってどれだけ大変だったか…。今更家族ヅラして現れて来るな!」

自分の怒りを抑えられず言ってしまった言葉を烈也は後悔したがもう遅かった。

「そ、そうだよな。辛い思いさせてごめん…。でも、俺も家族を…」

そう言う父の周りに黒い霧が発生し、やがて激しい渦となった。

烈也は突然のことに狼狽えていると、アンドラスが不敵な笑みを作りやって来た。

「来たぜ!負の感情の爆発だ!やっちまえ!」

その呼びかけを引き金にして黒い渦から父に黒い霧が渦巻き魔物に変化する。

「な、なんだこれ…親父…おい!お前!?親父に何しやがった!?」

「俺はきっかけ与えたに過ぎないぜ。ただ大切に思ってた家族に「家族ヅラするな」って言われたのがとどめだったろうなぁ」

アンドラスの挑発とも取れる言葉にカッとなったが、自分の言葉が確かに原因だと烈也は自分を責めた。

(俺のせいだ…。親父を傷つけただけだ。怒りの感情を抑えて話を聞いていれば…)

「親父!俺、親父の言葉を少しでも聞けばよかったんだ。元に戻ってくれ!頼む!」

「無駄無駄。ただの人間のお前ではその魔物を止めることも元にも戻せねえ!残念だったな」

(こういう時…誰に助けてって言えばいいんだ…)


「にいに来ないね。大丈夫かな?」

真尋の言葉にキラも心配になる。その不安が的中したのか、ロザリオが光りミズキの声が聞こえてきた。

「キラ!聞こえるか?お前の反対側に悪魔が現れた。お前の同級生が捕まってる。すぐ来てくれ!」

(まさか…烈也くん…無事でいてくれ…!!)

しかしキラよりも早く真尋と千尋が「にいにの声だ!」と叫びながら走っていく。

「真尋くん!千尋りゃん!危ないよ!烈也くん、ミズキすぐ行くから!」


烈也の元に駆けつけたミズキは、すぐに魔物に攻撃を仕掛けた。

「やめろ、親父を傷つけないでくれ!」

烈也がミズキの蹴りを受けて倒れた。

「な、お前!?邪魔するんじゃねえ!」

そして倒れた烈也の元にアンドラスが近づき背後から捕獲する。

「そうだよなあ、親父を傷つけられたくないよな。今度こそ邪魔させないぜ、ミズキ。こいつがどうなってもいいのか?」

烈也を人質に抱えアンドラスが優位に見えたその時だった。

「人質の人選、ミスってるぞ!お前は絶対許せねえ!」

そう言うと烈也はアンドラスに思いっきり裏拳を入れた。

不意の攻撃のためアンドラスは態勢を崩した。

「よくやった。急いで逃げろ!そしてキラを呼んで来い!」

「なんだと!?俺の大切な友達を危険な目に合わせられるかよ。俺がやる!」

「今のお前じゃ役立たずなんだよ!さっさと言う通りにしろ!」

ミズキと烈也が口論に発展したがキラが運よく駆け付けた。

キラはロザリオを掲げて変身して魔物の前に立ちはだかった。

「烈也くん!2人を安全な場所に連れて逃げて!」

「キラ!その魔物、お前なら何とかできるのか!?俺の親父なんだ。どうやって助けたら…」

キラは 優しく微笑み「大丈夫。僕に任せて」と魔物に向かっていった。

(もうあの頃の力がなくて見ているだけしかなかった僕じゃない。烈也くんたちを助けるんだ)


しかしその隙に、アンドラスが真尋と千尋を捕らえる。

「人質の人選、今度は間違えねぇ。動けばこのガキどもの命はねぇぞ」

「真尋!千尋!頼む、そいつらには手を出さないでくれ!」

「聞けねえお願いだな。しかし人間というのは非力なもんだよな。力がないとそうやって乞う事しかできねえ。所詮お前の力は大切なものを守れねえんだな」アンドラスは烈也を嘲笑う。

烈也は悔し涙を流した。(くそ、俺の力っていうのは正当防衛しかできねえ。人を守る力が…欲しい)

ミズキは烈也に後ろ手でロザリオを渡して耳打ちをした。

「私が隙を作ってアンドラスを引き付けるから、キラのところにいる魔物を説得してこい」

魔物にはキラが応戦しているが中々苦戦を強いられている。

このミズキっていう女の言うことを聞いて俺にできることをするしかない。

「大切な人を守るためにお前は力を使える。キラを、私を信じろ!」

…俺の事も信じてくれている。俺は逃げない。まずは親父を信じてもう一度説得するんだ!

烈也は魔物に近づいていった。

烈也はツルに叩かれながらも父を説得する。

「俺が早とちりして責めてしまったせいだ。ごめん、親父。多分借金も清算したし病院代払うために来たんだよな。俺が傷つけた。ごめん。頼むから…戻ってくれ。親父に大切な家族を傷つけさせたくない…」

ツルにこぼれた涙に反応して魔物の動きが止まった。涙が地面に落ちた瞬間、そこから炎の花が咲く。

その炎は熱くない。赤く、柔らかく、どこか懐かしい匂いがした。

「れ…つ…や…、許してくれるのか…?」魔物の目の部分の黒い皮膚が剥がれ落ちて父の顔の一部分が出てきた。

「キラ、今だ!お前は魔物を浄化しろ!烈也!さっき渡したロザリオを今掲げるんだ!」

ミズキが叫び、キラは魔物に聖なる光を浴びせる。


「ルミナス・アリア!」


魔物は温かな白い光に包まれて、元の父の姿に戻る。

烈也はロザリオを掲げ赤い光に包まれていった。

「くそ、せめてあの男を殺して…」

ミズキの瞳が青く光る。

「――潮鳴の抱擁しおなりのほうよう!」

大地が震え、水が歌う。

アンドラスの足元に蒼い渦が走り、すくい上げた。

同時に、空から落ちてくる小さな影——真尋と千尋。

渦がほどけ、水流が天へと伸びる。

やさしい波が子どもたちを包み、ふわりと烈也の腕の中へ導いた。


「良かった、変身が間に合った」ミズキは安堵の表情を浮かべる。

真尋と千尋を抱えているのは、赤い炎の紋様があしらわれた白い軍服と白い羽で羽ばたく烈也だった。

烈也は元に戻った父と千尋と真尋を背で守りアンドラスと対峙する。

「よくもやってくれたな。お前となら楽しく戦えそうだ…俺と勝負しろ、烈也!!」

「大事な家族を危険にさらしたお前は、絶対に許さねえ!!」


紅蓮の炎が烈也の全身を包む。空気が揺れ、地面の砂が音を立てて跳ね上がる。

対するアンドラスの周囲には、黒い炎と瘴気が渦を巻いていた。まるで夜の闇そのものが形を持ったような圧力だ。

「面白い。怒りは炎を強くする……だが、俺の闇火には敵わねぇ!」

アンドラスが腕を振り上げ、黒炎の蛇が地面を這って烈也へ襲いかかる。

烈也はそれを正面から受け止めた。拳と蛇がぶつかる瞬間、赤と黒の火花が爆ぜる。

互いの熱が反発し、爆風が吹き荒れる中――烈也の声が響いた。

「俺の炎は……誰かを焼くためじゃねえ。守るためにあるんだ!」

その言葉とともに、烈也の背後に炎の羽が現れる。燃え立つような紅蓮の翼が、空気を裂きながら広がった。

アンドラスの瞳が一瞬だけ見開かれる。


紅蓮焔翼ぐれんえんよく――ッ!」

烈也が踏み込み、拳を突き出す。炎の翼が同時に弾け、巨大な炎流がアンドラスを包み込んだ。

爆音。閃光。アンドラスの身体が吹き飛び、地面を滑る。黒い煙が空へと立ち上る。

「くそ、今回はこれで引いてやる……だが次は絶対に倒す!烈也、次がお前の最後だ!」

霧が消え、静寂が訪れる。焦げた地面と、残る熱だけが戦いの激しさを物語っていた。

烈也は膝をつき、拳を地面に押しつけた。息が荒い。

キラがそっと近づき、優しく声をかける。

「烈也くん……ありがとう。君がいなかったら、誰も助からなかった」

「……俺は、まだ何も守れてねえよ」

「いいや。君の火は、誰かを照らす優しさの炎だよ。

 闇が戻ってきたときも、きっとその光が導きになるはずだよ」


烈也は少しだけ目を伏せ、照れくさそうに笑った。

「……お前、ほんと不思議なやつだな。怒ってるはずなのに、心が少し軽くなる」

キラは静かに頷いた。

夜の空には、まだ煙が立ち上っている。だが風が少しずつそれを散らし、空には星が顔を出し始めていた。


父が目を覚まし、そのまま真尋と千尋も連れて母の病室へ向かった。

母は穏やかな顔を烈也、真尋、千尋、そして父にも向けた。

「和解…できたのね。安心したわ。ありがとう、烈也」

父は行方不明であった理由をぽつりぽつりと話した。

「知り合いの借金を肩代わりしたんだ。家族に危害が及ぶかもしれないのを避けたくて、家を離れて漁に行っていたんだ。返済も終わり、母さんの病院の手がかりが見つかったから戻ってきたんだ」

お人好しな親父がマグロ漁なんてと烈也は少し呆れてしまった。

(でも、親父は自分で背負って家族を守ってくれてたのに、俺は…)

「烈也、家と家族を守ってくれてありがとう。これからはずっと一緒だ」父は烈也に感謝した。

真尋と千尋は烈也に抱き着いた。

「にいにカッコいい!ヒーローのように守ってくれる!」と目をキラキラさせている。

「あれ?今日はずっと涙が止まらねえ…ありがとう…みんな」

烈也の目には温かい涙がこぼれ落ちていた。

病院の窓から離れた木の上でキラとミズキがその様子を見守っていた。

「千尋ちゃん真尋くんは夢を見たと思ってるのかな」

「まあ、透の便利道具の一つ・記憶封印装置で記憶は消させてもらったからな。一応生活に支障が出ない方がいいだろ?」

さ、さすが天界。ファンタジーの成せる技だなと感心したキラであった。


次の日の放課後にキラは烈也を事務所に連れていき、透があらかた説明した。

最初は半信半疑だった烈也だが、赤い宝石の入ったロザリオを確認してあきらめがついた。

「しかし仲間探しってのは暇なミズキがやれよ。俺もキラも学校とか自分の生活で忙しいんだよ」

「…おい、私を暇って決めつけんじゃねえよ。私も本来の任務の警護で忙しいんだよ」

水と火で相反する属性同士だからだろうか、喧嘩を始めた2人の間に仲裁に入るキラ。

でも、ミズキも烈也も強くて自分の信念がしっかりある。

頼もしい2人の仲間がいればたくさんの人を助けられる。キラは希望を胸に抱いていた。


「……さっき、美しい女性を見かけた気がするなあ」

風が軽く颯の髪を揺らす。

彼は目を細め、街の向こうを見つめた。

「……また、風が呼んでる気がする」

そう呟くと、颯はポケットに手を突っ込み、歩き出した。

彼の行く先に、新しい出会いの気配があった。

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