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灰色の翼をもつ天使と僕の聖戦  作者: 小田原 純


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第26話 灰翼の王、産声を上げる

母の手で海へと突き落とされ、ロザリオの導く青い光の道をひた走ったミズキが辿り着いたのは、天界の華やかさとは無縁の、砂埃が舞う廃墟のような街だった。


ここは本当に天界なのか?

辺りを見回しながら歩みを進めると後ろから突然声をかけられた。

「なんだ、よそ者が紛れ込んだのか?」 最初に声をかけてきたのは、山のような体躯たいくに黒髪をなびかせた男だ。

「俺は長のクロガネ。ここは荒くれ者の溜まり場だ。嬢ちゃん、命が惜しければお家に帰りな」

クロガネはミズキを挑発するように見下すがミズキは真っすぐにクロガネを見据えて怖気づかなかった。

「……帰る場所なんて、もうない」

「ここに住むのに許可がいるなら、お前を倒せばいいんだろ?」


その直後だった。周囲にいた不良天使たちが、嘲笑いながらミズキに襲いかかった。今のミズキに彼らを退ける力はなく、無慈悲な拳が彼女を地面に叩きつけた。


次に目を覚ましたとき、そこは清潔なベッドの上だった。 「気がついたかい? 無茶をするね」 傍らにいたのは、穏やかな笑みを浮かべた青年天使だった。 「俺はサリエルだ。まあ傷が癒えるまでゆっくりしな」

ミズキはピクリと反応した。

「サリエル…もしかしてお母さんに食糧とかを送ってくれたのはあんたか?」

「ああ、やはりその青いロザリオ…ミズキだな。よく、生き延びたな」

「サリエル…さん。助けてくれてありがとう。私…お母さん、カンナは助けられなくて…」

ミズキは安心したのか涙がポロポロと溢れてきた。

「泣くことを我慢しなくていい。ずっと頑張ってここにたどり着いたんだろ?よく来てくれた…」

涙が落ち着いたミズキは母とのこれまでの生活と事件のことまでポツポツと話した。そしてここでしばらく身を隠したいので住まいと、クロガネに負けたままでは悔しいので勝つまでリベンジすることを話した。

「それならここにいたら良い。そしてサリエルて名前は何か厳かだからよ、透てこれからは呼んでくれ」

「透…ありがとう!これだけの本、強くなる方法の本もあるか?」

「おお、それならこの辺だな。お前は偉いよ。先人の知恵を借りる事は自分の成長に不可欠だからな」

ミズキは透の本を参考に修行をしていった。


透との生活は持ちつ持たれつになってきた。


ある日透は机に向かったまま三日間動かなかった。

ミズキは黙って洗濯物を干し、鍋に火をかけ、

透の手元に冷めたパンを置いた。

「……あ、もう朝か?」

「三日目だよ」



そしてクロガネには毎日決闘を申し込んでいた。

「クロガネ! 勝負だ!」

「また来たのか……」

少しずつ拳や蹴りの精度は上がるが、経験の場数の分いつもクロガネが優勢だった。

「くそっ、もう一度勝負だ!」

「おいおい、綺麗な顔が台無しだぞ?もうこの辺で明日また来い」

クロガネの言葉通り、ミズキの顔はアザと傷だらけだった。自覚のないミズキに呆れつつもクロガネは日を改めさせるよう促した。

ミズキは何度吹き飛ばされても、泥を舐めても、また立ち上がった。


「今日は良いとこまで蹴りが入ったと思うんだけどな」

ミズキはいつの間にか作ったサンドバッグで練習をしていた。

そこに2つの影がミズキに近づく。

「…クロガネの取巻きか。何だ、私に追い打ちでもかけにきたのか?」

2人のヤンキーのようだが、返答は意外なものだった。

「お前、本気ですごいな」

「クロガネさんにここまで食らいつくやつ、初めて見たぜ」

クロガネの取り巻きたちが、ミズキに感心の声を漏らし始める。

だが、ミズキはそれを怒鳴りつけた。

「やめろ! 私はまだ勝ってないんだぞ!

お前らそんな簡単に私を認めるなよ!」

「(……め、面倒くさいやつだなー、こいつ)」「(頑固にも程がある)」

取り巻きたちは内心でツッコミを入れながらも、その不器用なプライドに惹きつけられていった。


「クロガネ……これで最後だ!」 ついに、ミズキの拳がクロガネの懐を捉えた。膝をつくクロガネ。スラムに衝撃が走った。

「参った。強くなったな、ミズキ」

「クロガネ、お前はとても強い。改めてありがとう!」

クロガネはまさか感謝されると思わなかったので、驚きでポカンとした表情になった。

「おいおい、戦った相手に感謝なんて聞いたことねえよ。どこか異国の文化か?」

するとミズキは懐に持っていた冊子を開き

「え、だってドラゴンボールでは闘った相手に敬意を払ってるぞ」とみんなに見せた。

「これ、透がたまに持ち帰ってくる人間界の『漫画』てやつか」

「すげえ!」「かっこいいな!」

そこから透の書庫に皆が寄り付き、貸し本屋のような状態になった。


しばらくしてミズキは漫画の知識なども参考にしながら住民たちの得意なことを見つけ出し役割を与えた。

「お前は鼻が利くから、市場の腐った食材を見分ける役だ。お前は足が速いから、隣町との連絡員になれ」

ミズキのその行いは住民一人ひとりに「居場所」を与えていった。

荒れ果てたスラムに、少しずつ笑顔が戻り始める。


そんな中、ミズキは自分と同じ、灰色の翼を持つ少年を見つけた。 少年は隅で縮こまっていたが、ミズキはその肩を強く抱き寄せた。 「いいか。この翼は汚れじゃない。天使と悪魔、両方を知る者だけの強さだ」

ミズキの瞳には、かつてない光が宿っていた。

「私が変えてみせる。天界で、私たちが肩身の狭い思いをしなくていい世の中を」


それが、ミズキが初めて「王」としての産声を上げた瞬間だった。


(続く)


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