第22話 回帰の狭間、その後で
薄紫の空が広がり、雲のような大地に四つの扉が並んでいた。
その前で、ハルは静かに待ち続けていた。
様子を見に行きたい衝動を抑え、信じて待つと決めた。
神に祈るしかない――もっとも、すぐに会うことになるのだが。
その時、扉が赤、緑、橙、黄色の光を帯び、次々と開かれた。
「ハル! 戻りました!」
安堵と喜びが一気に込み上げ、ハルは思わず四人を抱きしめていた。
「生きてて本当に良かった。おめでとう!」
「おい、男に抱きつかれる趣味はねえぞ!」
颯が慌てて反論する。
「わ、悪い……って、そこまで嫌がるなよ」
自分の行動に、ハル自身が一瞬戸惑った。
(冷徹な上司と言われてた俺が、部下の達成を素直に喜べるとは……)
――俺も、変わったのかもしれないな。
「戦うと思ってたから体は疲れてねえけどさ」
烈也は自分の両手を見つめる。
「なんつーか……自分の中に開いてた穴が、埋まった感じだ」
「内省って大事なんだな」
大地が穏やかに頷く。
「ずっと置き去りにしてたものと向き合えたから、前を向ける」
その表情に迷いはなかった。
「その感覚、忘れるなよ」
ハルが静かに告げる。
「自分が思ったより進めない時ってのは、どこかに穴が開いてる状態だ。回帰の狭間は、その自己を見直すためにある」
皆が深く頷いた。
「俺はもう逃げねえ!」
颯がハルを指差す。
「ミズキのこと、絶対に諦めないからな!」
「……身の程を知れ。よし、もう一回回帰の狭間に戻るか?」
お約束の応酬に、キラは小さく笑った。
(怒りと共に、守るために進む……ミズキ、必ず助ける)
「さて」
ハルが場を切り替える。
「次へ行く前に、腹ごしらえだ」
案内された貯蔵庫には、林檎と水が用意されていた。
「天界の林檎って、アダムとイヴを連想して食べていいのか悩むな」
「肉や魚は殺生になるからダメってことか?」
物足りなさはあったが、食べ物があるだけありがたい。
「人間は自然の恵み以外に、何を食べるんだ?」
「魚や肉を焼いて食べるな。天界じゃ果実と野菜が主だろう」
異世界の食文化に、自然と会話が弾む。
「ミズキも林檎ばっか食べてたな。透とは何食べてたんだ?」
「それよりさ」
颯がニヤつく。
「俺は天界の恋愛事情が気になるな。ハル、ミズキと付き合ってたのか?」
「いや」
ハルは即答した。
「戦天使として生きてきたから、女性に興味を持ったのはミズキが初めてだ。その時はあくまで上司と部下だから接触もない」
「はぁ!?」
烈也が目を見開く。未経験で出せる色気ではないぞと。
「なんだ未経験か! じゃあ経験豊富な俺が――」
全員の冷ややかな視線が刺さる。
「……冗談だ。言ってみただけだよう」
半泣きで撤回した。
「じゃあ、お前たちは?どんな女性がタイプなんだ?」
ハルの問いに、三人は一瞬言葉に詰まった。
整った顔立ち、銀髪と青い瞳。男から見ても美しい存在が、未経験である事実が改めて衝撃だった。
「家事は俺がやる。芯の強い人がいいな」
烈也が考えながら答える。
「子どもが好きなら、千尋と真尋も喜ぶ」
「婚活かよ」
颯が茶化す。
「真面目に向き合わねえと、女性の時間は無駄にできねえだろ」
不良キャラはどこへ行ったのか。
「俺は……」
大地が続ける。
「俺の作ったスイーツを美味しそうに食べてくれて、花が好きな人」
小学生の頃、花をくれた少女が脳裏をよぎる。
「小学生の時にそんな子がいたんだ」
「そうなんだ、また会えるといいね」
穏やかな空気が流れた。
「僕は……空気感が似てる人かな」
キラが照れたように言う。
ハルは、ある人物を思い出していた。
「キラは、アイリス様に雰囲気が似ているな」
「ってことは、可愛い系か!」
笑い声が広がる。
戦いの前の、静かで温かな時間。
彼らは次の試練に備え、早めに休むことにした。




