第21話 回帰の狭間 -キラ、怒りを抱いて-
暗闇の中を歩き続けてようやく見つけたもう一人の自分。
しかしキラの前に立つ“それ”は、同じ姿をしていたが、黒く渦巻くオーラと目は禍々しいものだった。
「俺は――抑えられ続けてきたお前の怒りだ」
低く、噛みつくような声。
シャドウキラは、胸の奥に溜め込まれていた感情を一気に吐き出す。
「ずっと俺をなきものとして扱ってきやがった。
父を殺されたと聞いた時も、ミズキを連れて行かれそうになった時もだ!」
怒りの奔流が、空気を震わせる。
キラは一歩、後ずさった。
(こんなにも……怒りのエネルギーが)
全身が痺れるようだった。
これを、本当に自分は受け止められるのだろうか。
――どうして僕は、こんなにも怒りを抑えるようになったんだろう。
怒りが芽生えそうになると、決まって身体が固まる。
まるで金縛りに遭ったように、何もできなくなる。
(……そうだ)
記憶の奥から、父の声が滲み出る。
――怒りは相手にぶつけてはいけない。
お父さんに、そう教えられたから。
「キラ、怒りそうになったら深呼吸して、怒りさんを吹き飛ばしなさい」
穏やかな笑顔。
優しい声。
「父さんはね、怒りの感情を持ったから……大切な兄さんを――」
その先を、父は語らなかった。
その教えは、間違っていなかった。
けれど――素直だったキラにとって、それはいつしか“枷”になっていた。
(こんなに真正面から向き合われてるのに……深呼吸じゃ、飛ばないよ……)
胸が締め付けられる。
(どうしたらいいんだ……お父さん……)
その瞬間、別の顔が脳裏に浮かんだ。
――ミズキ。
山での修行。
焚き火の前で、ぽつりと零した自分の言葉。
「僕って……怒りの感情が欠けてるみたいなんだ。怒りが湧かないんだ」
その時、ミズキは首を横に振った。
「怒りがない人間なんていない」
優しい眼差しで、諭すように微笑んで。
「お前は……抑圧してるだけだ」
そして、静かに続けた。
「怒る自分を許してやるんだ。そして、その怒りに協力者になってもらえばいい」
「怒りも……自分を動かす原動力だ」
(……そうだ)
ミズキは、怒りを力にしていた。
守るために、立ち向かうために――必要な感情として。
ミズキが連れ去られた時。
あの瞬間、キラは確かに怒りに突き動かされてルシエルへ向かった。
(あれは……もう、答えだったんだ)
キラは、ゆっくりとシャドウへ歩み寄った。
「……君を」
震える声で、それでも目を逸らさずに。
「君を、良くないものだと思い込んで……消そうとしてしまって、ごめんね」
シャドウキラの表情が揺れる。
「いつも……僕を助けてくれようとしてくれてたんだね」
キラは、その存在を抱きしめた。
「これからは、君の声もたくさん聞く」
「僕の成長のために……大事なものだから」
静寂の中で、シャドウキラは微笑んだ。
「……気づいてくれて、ありがとう」
その身体が、ゆっくりと溶けていく。
「ずっと一緒だからね……」
次の瞬間、眩い光がキラを包み込んだ。
それは拒絶ではなく、受容の光。
怒りは、もう敵ではない。
共に歩む力として、キラの中に在った。
4つの扉の前でハルはじっと座って帰りを待っていた。
4つの扉に優しい光が灯った。
「…全員、帰って来れそうだ。もうすぐ行くからな、ミズキ!」
4人全員が無事に自分を統合でき、救出の活路が見えてきた。




