第18話 回帰の狭間 -烈也、守るための強さ-
真っ暗だった。
光も、音も、気配すらない空間。
烈也は一歩、また一歩と慎重に歩を進める。
――その瞬間。
視界の外から、容赦ない衝撃が襲った。
防御が間に合わず、烈也の体は床を転がる。
「……っ!」
立ち上がろうとした烈也の前に、闇の中から人影が現れる。
それは――自分自身だった。
「戦おうぜ、烈也」
低く、嘲るような声。
「お前は正当防衛を盾にして、喧嘩を楽しんでただろ?」
「……楽しんでなんかない!」
烈也は叫ぶように否定した。
「俺は……強くなきゃいけなかったんだ!」
だが、シャドウは一歩踏み込む。
「じゃあなんでだ?
殴る時、あんなに迷いがなかったのは」
その言葉が、胸に突き刺さる。
――違う。
――俺は……。
烈也の脳裏に、忘れようとしていた光景が蘇る。
借金取りに囲まれ、殴られていた父の姿。
物陰から、それを見ていることしかできなかった幼い自分。
(強ければ……追い払えると思ったんだ)
クラスで喧嘩が強いと言われていた連中の後をついて回った。
殴り方を覚え、耐え方を覚え、勝ち方を覚えた。
(そうすれば、家族を守れるって……)
だが、父はある日、姿を消した。
家族を借金取りから遠ざけるために。
逃げたのだと思っていた。
弱いから逃げたのだと。
――違った。
(あれも……親父なりの「守る」だったんだ)
烈也の拳が、静かに震える。
「俺は……暴力的な強さが正義だと思ってた」
シャドウは、何も言わずに見つめている。
「でも今は違う。
真尋も、千尋も……守りたい存在がいる」
脳裏に浮かぶのは、キラの顔。
『君の火は、誰かを照らす優しさの炎だよ。
闇が戻ってきたときも、きっとその光が導きになるはずだよ』
初めて言われたその言葉が、胸を締めつける。
そして、もう一つの声。
「大切な人を守るために、お前は力を使える。
キラを、私を信じろ!」
ミズキの言葉が、背中を押した。
烈也は顔を上げ、シャドウを真っ直ぐに見据える。
「今の俺の強さは――
大切な人を守るための強さだ」
「過去に人を傷つけた分、今度は人を救う強さにしていく!」
シャドウ烈也は、ふっと微笑んだ。
「……それでも迷ったら、どうする?」
一瞬の沈黙。
烈也は拳を胸に当て、はっきりと答える。
「その時は、守りたい人の顔を思い出す」
シャドウは満足そうに目を細めた。
「お前の強さは、もう大切な人を守るためのものだな。
もう、いたずらに他者を傷つけるでないぞ」
光が溢れ、シャドウの姿が溶けていく。
その光は烈也の胸へと吸い込まれ――
確かな重みとして、そこに残った。
「ここが俺の原点だ」
烈也は拳を高く掲げる。
「俺の拳は――大切な人を守るためにある」
そう決意し、烈也は先に待つ扉へと歩き出した。




