第16話 救出の誓い、天界への旅路
地面に倒れ込むミズキの身体を、黒い闇が絡め取っていく。
いち早く異変に気づいたキラが駆け出した。
「ミズキ!」
颯も烈也も遅れて走る。
だが、一歩だけ、キラが誰よりも速かった。
闇の中心にいるルシエルがゆっくり振り返る。
その腕の中、瀕死のミズキが揺れていた。
「ミズキを……離せ!」
キラの声は震えなかった。
しっかりとした光を帯びていた。
ルシエルは細めた瞳でキラを見下ろす。
「その目……お前は“光”の者か。
だが——今のお前の光では、私には届かない」
次の瞬間、闇が爆ぜる。
キラは両掌を突き出した。
「ライト・ブレイズ!」
光と闇が正面からぶつかり、火花のように魔力が散った。
——だが。
「浅い」
ルシエルの闇が膨張し、光を押し潰す。
キラの身体が吹き飛ばされた。
「キラ!!」
烈也の炎壁、颯の風幕、大地の岩障壁。
三つのバリアが同時に展開し、キラを包む。
闇が大きく揺れた。
「ほう……力は未熟だが、連携は良い。
——かつて我と互角に戦った“光の天使”に似ている」
その言葉がキラの胸を刺す。
(光の天使……?
まさか……お父さんと、お母さんを……?)
確証はない。
だが直感だけが全身を焼いた。
(なんだ……腹の底から煮えたぎるような……こんなの、初めて——)
胸の奥で光が揺れ、影が伸びる。
ルシエルは満足げに微笑んだ。
「つまらん。まだその力では私を楽しませられぬ。
殺しはせん。——強くなれ。魔界で待っている」
闇に沈みながら呟く。
「灰色の羽……悪魔の力を完全に覚醒させ、
今度こそ天界に復讐するのだ」
闇が閉じた。
ミズキの姿も消えた。
残されたのは五人。
荒れ果てた戦場にただ風だけが吹く。
「おい、ハル! 今すぐ魔界に連れてけ!!
今ならまだ間に合うだろ!!」
颯が叫ぶ。
だがキラが腕を掴んだ。
「ダメだよ、颯くん。
僕たちは……もっと強くならないと」
ハルもまた、歯を食いしばっていた。
誰よりもミズキを追いたいのは、他でもない彼自身だ。
「そいつの言う通りだ。
今のお前らで魔界に行っても、ルシエルに勝てない……」
声が震える。
「俺だって今すぐに飛んでいきたいんだ……」
そのまま四人をゆっくり見つめた。
「ミズキが大切にしたお前達を……託された気がするんだ。
ミズキも、お前たちも……簡単に失うわけにはいかない!」
烈也、颯、大地、キラ。
四人は互いに視線を交わし、ゆっくりとうなずいた。
ハルが振り返る。
「だから聞く——お前ら、
しばらく人間界を離れ、天界で修行する覚悟はあるか?」
「もちろん!」
「当たり前だ!」
「やるしかねぇ!」
「ミズキを助けたいから……行く!」
四人の声が揃う。
「よし。
まずは——お前たちをサポートしている“あいつ”のところへ連れて行け。
そこから天界へ向かう」
◆ ◆ ◆
四人はハルを伴い、透の事務所へ向かった。
扉を開けると、透が驚いたように立ち上がる。
「君が……ハルか。ミズキの話で聞いていたよ」
ハルは深く頭を下げた。
「ミズキを支えてくれて……ありがとうございます。
彼らを天界で修行させたいんです。ミズキを助けるために」
透の表情が揺れる。
「……ミズキは、いつも君のことを心配していた。
“ハルを救いたい”と、何度も言っていたよ。
その願いが叶ったのは嬉しい。……だが、まさかミズキが」
その時、キラが口を開く。
「おじさん……ルシエルって……もしかして……」
透は唇を噛む。
「久しぶりに聞いた名前だ。
キラ……お前の予感は当たっている。
お前の父と母を殺したのは——ルシエルだ」
キラの瞳が震える。
烈也も颯も、大地も息を呑んだ。
透は拳を震わせる。
「兄弟夫婦だけじゃない……今度はミズキまで奪う気なのか……!」
「おじさん!」
キラが前に進み出る。
「僕たちが必ずミズキを助ける! 天界へ飛ばして!」
透は決意の瞳でうなずいた。
「……わかった。
君たちの家族はこちらで何とかする。
ミズキを……頼む!」
五人は覚悟を決め、天界への門へ進む。
光が広がり、視界の色が変わっていく。
——ミズキを救うため。
彼らは、天界への第一歩を踏み出した。




