第14話 光の使い手の迷いと、忍び寄る誘惑の魔
ミズキに一撃を入れたあの日から、五人の結束はぐっと固くなった。
颯の告白の影響もあって、「仲間」という言葉の重みが皆の胸に染み込んでいる。
土日だけでなく、最近では放課後にも裏山へ足を運ぶのが恒例になった。
今日も学校の靴箱を出た瞬間、四人の足は自然と山へ向かっていた。
先に来ていたミズキが案内したのは、巨大な岩が点在するエリアだった。風雨に削られた無骨な岩肌は、まるで格闘漫画の修行場そのものだ。
「技の練習ならここがいい。自分の編み出した技をこの岩にぶつけるんだ。で、誰かに見てもらって改良していくといい」
言うなりミズキは一歩前へ出て、軽く手を払った。
「――ウエイブスライサー!」
水が空気を裂くように形を変え、複数の刃となって岩を切り裂く。刻まれた傷に、四人が思わず息を呑んだ。
「じゃあ、次は俺だな」
大地が腕を回し、地面へ掌を向ける。
「ストーンスパイク!」
足元から小さな岩柱が飛び出し、岩に直撃した。大地らしい、安定感ある一撃だ。
烈也も負けじと前へ出る。
「見てろ……フレアブラスト!」
手から迸った炎が渦を巻き、黒い焦げ跡を残す。
颯も深呼吸し、マルフォス戦で見た技を思い出しながら風を操った。
「ウィンドスラッシュッ!」
風の刃が連続して岩を削り取る。まだ控えめだが、確かな成長が見える。
だが、全員が新しい技を見せる中、キラだけが立ち尽くしていた。
彼の手から生まれるのは、優しい光の粒。
その光は岩を包み、傷をすっかり癒してしまう。
「光の技って……難しい……」
ぽつりと落ちた声は、自分でも驚くほど静かだった。
「キラ自身に戦闘の適性がないからなあ――……あ! すまん、キラ!」
ミズキの何気ないひと言が、キラの胸に刺さる。
「……ごめん。少し離れて考えてくるよ」
俯いたままキラは奥へ歩き出した。
「俺が行く!」
大地がすぐに後を追う。
烈也と颯はミズキを見つめた。
「お前、言葉が足りねえんだよ」
「“キラは癒しの力を生かせばいい”って言いたかったんだろ?」
ミズキは肩を落とし、小さく頷いた。
◆
裏山の岩陰で、キラは小さく光を灯していた。
「光の攻撃……光線? ビーム? いや、そんな派手なの僕出したことないし……」
手のひらに生まれる光は、せいぜい懐中電灯レベル。
とても戦闘向けとは言えない。
「……僕だけ、役に立ってない……」
胸の奥で重いものが沈んでいく。
そのとき、背後からひょいと影が差した。
「キラ。お腹すいてないか?」
振り返ると、大地が立っていて、ぺろぺろキャンディを差し出していた。
「だ、大地くん……」
笑おうとした口元は不自然に歪んでいる。
「キラはさ、人の心の動きに鋭いだろ? 今も俺を安心させようとしてる」
「えっ……」
「でもな。安心“させてもらう”側になるのも仲間なんだよ」
大地の声は少し低く、柔らかかった。
「……怖いんだ。みんなが戦ってるのに、僕だけ戦えなくて……守られてばっかりで、置いていかれそうで……それが一番怖い」
泣き言かもしれない。でも、本音だった。
大地は否定せず、ふっと微笑む。
「キラが照らしてくれるから、俺たちは前に進める。“背中を押す光”ってやつだ」
「背中を……押す……?」
「それに、属性の技じゃなくても、俺たちはキラの優しさに救われてきた。キラの光は周りを強くしてくれる光だ!」
その言葉がキラの胸に深く響いた。
「……ありがとう、大地くん。僕……光を、もっと強くしてみる!」
両手の間に灯る光は、さっきより温かく、柔らかく、そして力強かった。
「あ……。今、みんなのこと考えたからかな……」
キラの表情が少し晴れる。
◆
一方、訓練場では三人が休憩を取っていた。ミズキが立ち上がる。
「キラに言わなきゃ……ちょっと自主練してくる」
「行ってこいよ」
「無理すんなよ」
軽く手を振って奥へ向かったミズキ。
岩陰に差し掛かったとき、空気が甘く、湿ったように変わった。
「……誰だ?」
気配を察し、目を細める。
影が滑るように現れた。
しなやかな指先。微笑むような瞳。
淫魔――アスモデウス。
「やあ、ミズキ。みんな強くなったか?」
囁く声が耳に触れた瞬間、世界がゆらりと揺れる。
視界が霞み、色が甘く滲んだ。
「……っ……な……」
ミズキの瞳の色が変わっていく。
「まあ、強くなったかどうかは自分の身で知るといい。宴を始めようか…」
そして――仲間のもとへ、一歩、また一歩と歩み始めた。
裏山に、嫌な静けさが満ちていく。
(続)




