表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の翼をもつ天使と僕の聖戦  作者: 小田原 純


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/28

第14話 光の使い手の迷いと、忍び寄る誘惑の魔

 ミズキに一撃を入れたあの日から、五人の結束はぐっと固くなった。

颯の告白の影響もあって、「仲間」という言葉の重みが皆の胸に染み込んでいる。


 土日だけでなく、最近では放課後にも裏山へ足を運ぶのが恒例になった。

今日も学校の靴箱を出た瞬間、四人の足は自然と山へ向かっていた。


 先に来ていたミズキが案内したのは、巨大な岩が点在するエリアだった。風雨に削られた無骨な岩肌は、まるで格闘漫画の修行場そのものだ。


「技の練習ならここがいい。自分の編み出した技をこの岩にぶつけるんだ。で、誰かに見てもらって改良していくといい」


 言うなりミズキは一歩前へ出て、軽く手を払った。


「――ウエイブスライサー!」


 水が空気を裂くように形を変え、複数の刃となって岩を切り裂く。刻まれた傷に、四人が思わず息を呑んだ。


「じゃあ、次は俺だな」

 大地が腕を回し、地面へ掌を向ける。


「ストーンスパイク!」


 足元から小さな岩柱が飛び出し、岩に直撃した。大地らしい、安定感ある一撃だ。


 烈也も負けじと前へ出る。


「見てろ……フレアブラスト!」


 手から迸った炎が渦を巻き、黒い焦げ跡を残す。


 颯も深呼吸し、マルフォス戦で見た技を思い出しながら風を操った。


「ウィンドスラッシュッ!」


 風の刃が連続して岩を削り取る。まだ控えめだが、確かな成長が見える。


 だが、全員が新しい技を見せる中、キラだけが立ち尽くしていた。


 彼の手から生まれるのは、優しい光の粒。

 その光は岩を包み、傷をすっかり癒してしまう。


「光の技って……難しい……」


 ぽつりと落ちた声は、自分でも驚くほど静かだった。


「キラ自身に戦闘の適性がないからなあ――……あ! すまん、キラ!」


 ミズキの何気ないひと言が、キラの胸に刺さる。


「……ごめん。少し離れて考えてくるよ」


 俯いたままキラは奥へ歩き出した。


「俺が行く!」

 大地がすぐに後を追う。


 烈也と颯はミズキを見つめた。


「お前、言葉が足りねえんだよ」

「“キラは癒しの力を生かせばいい”って言いたかったんだろ?」


 ミズキは肩を落とし、小さく頷いた。



 裏山の岩陰で、キラは小さく光を灯していた。


「光の攻撃……光線? ビーム? いや、そんな派手なの僕出したことないし……」


 手のひらに生まれる光は、せいぜい懐中電灯レベル。

 とても戦闘向けとは言えない。


「……僕だけ、役に立ってない……」


 胸の奥で重いものが沈んでいく。


 そのとき、背後からひょいと影が差した。


「キラ。お腹すいてないか?」


 振り返ると、大地が立っていて、ぺろぺろキャンディを差し出していた。


「だ、大地くん……」


 笑おうとした口元は不自然に歪んでいる。


「キラはさ、人の心の動きに鋭いだろ? 今も俺を安心させようとしてる」


「えっ……」


「でもな。安心“させてもらう”側になるのも仲間なんだよ」


 大地の声は少し低く、柔らかかった。


「……怖いんだ。みんなが戦ってるのに、僕だけ戦えなくて……守られてばっかりで、置いていかれそうで……それが一番怖い」


 泣き言かもしれない。でも、本音だった。


 大地は否定せず、ふっと微笑む。


「キラが照らしてくれるから、俺たちは前に進める。“背中を押す光”ってやつだ」


「背中を……押す……?」


「それに、属性の技じゃなくても、俺たちはキラの優しさに救われてきた。キラの光は周りを強くしてくれる光だ!」


 その言葉がキラの胸に深く響いた。


「……ありがとう、大地くん。僕……光を、もっと強くしてみる!」


 両手の間に灯る光は、さっきより温かく、柔らかく、そして力強かった。


「あ……。今、みんなのこと考えたからかな……」


 キラの表情が少し晴れる。



 一方、訓練場では三人が休憩を取っていた。ミズキが立ち上がる。


「キラに言わなきゃ……ちょっと自主練してくる」


「行ってこいよ」

「無理すんなよ」


 軽く手を振って奥へ向かったミズキ。


 岩陰に差し掛かったとき、空気が甘く、湿ったように変わった。


「……誰だ?」


 気配を察し、目を細める。


 影が滑るように現れた。


 しなやかな指先。微笑むような瞳。

 淫魔――アスモデウス。


「やあ、ミズキ。みんな強くなったか?」


 囁く声が耳に触れた瞬間、世界がゆらりと揺れる。

 視界が霞み、色が甘く滲んだ。


「……っ……な……」


 ミズキの瞳の色が変わっていく。


「まあ、強くなったかどうかは自分の身で知るといい。宴を始めようか…」


 そして――仲間のもとへ、一歩、また一歩と歩み始めた。


 裏山に、嫌な静けさが満ちていく。


(続)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ