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第1話 光野キラ、戦天使デビュー

「お父さん、お母さん、おはよう!行ってきます!」

高校2年生の光野キラは、仏壇の父と母の写真に手を合わせて学校に向かった。

登校途中では近所のおばさんや商店街のおじさんに声をかけられる。

「キラくん。この前は荷物運んでくれてありがとうね。助かったわ」

「キラくん!帰り寄っておいでよ。この前手伝ってくれたお礼に野菜おまけしてあげるから」

キラはにっこり笑い、うなずく。

「おじさん、おばさん、良いんですよ。困ったときはお互い様です」

両親は事故で亡くなり、住まいの面倒を見てくれるのは忙しい叔父だけ。だから日常のちょっとした助けは、いつも自分の役割のように感じていた。

キラは人の笑顔を見るのが好きだ。困っている人には手を差し伸べたいとなる性格だ。

しかし、根が真面目なので人のためにならないことは断る強さも持っている。


学校に到着すると、

「キラ―、頼む!今日の宿題すっかり忘れちゃって。お前やってたら写させてくんない?」

キラの友達の一人、慎太郎がキラに泣きついた。

「慎太郎くん、だめだよ。俺のを写すだけだと後に慎太郎君のためにならない。分からないところは教えるから自分で頑張ってごらん」

「ちぇー、まあダメ元で聞いたし良いよ。あきらめて頑張るわ」

「あれ?キラのそのプリント国語じゃないか?今日は数学だぞ」

もう一人のしっかりものの友達である巧がほらと黒板を指す。

「し、しまったー!1日勘違いしてた。しょうがない、俺もできるとこまでやってみる。ダメだったら慎太郎君と一緒に怒られるよ」

「全く、真面目だけどどこか抜けてるよな」

ま、そこがお前の良いところだよなと笑いあう平和な時間。

「お前、志望校K大だろ?このままで大丈夫なのか?」

違うクラスメイトが先生から言われている言葉が耳に刺さる。

焦る自分を感じながらも、できることをまずはやっていこうと急いで数学の小テストに粘った。


「いやー、何とか宿題間に合って良かったー」

スーパーに立ち寄ったとき、キラは思わず立ち止まった。

目の前で、クラスメイトが突然、不気味な影に取り憑かれ、体が変形していく。

前にいるのは…黒い翼が生えていて赤と青で逆立った髪の男性…人間じゃない。

そして怪物が商店街で暴れ始めたのだ。


「え……なにこれ……?」

器物を破壊したり人を襲ったりしている。

助けに行きたいが足がすくみ、どうすることもできない。


自分は何もできないのかと震えていたその瞬間、怪物が水の柱に閉じ込められた。

「ウォーターウォール!」


美しい女性――黒髪のショート、切れ長の目が鋭い天使の羽で飛んできていた。

悪魔を水と氷で攻撃する。

その美しさに、キラは思わず見惚れた。


「ミズキ!またお前は邪魔をしに現れたな。」

黒い翼の男性が不快そうな顔をして天使の女性に詰め寄る。

「アンドラス、関係ない人を巻き込んで不快な奴だ。自分で戦えばどうだ?…ああ、弱いから負けちまうもんなあ。」

ミズキって人は本当に天使なのか?悪魔のように口が悪いし挑発してるよ。

「貴様ぁ!」

アンドラスが咆哮する。

「戦の悪魔たるアンドラス様が弱いだと!?証明してやる!」


巨躯が揺れた瞬間、喉奥から灼熱が奔る。

「ファイヤーブレス!」

炎の奔流が大地を薙ぎ、轟音とともに迫る。


だが――ミズキの姿はもうそこにはない。

軽やかな跳躍。

疾風のような身のこなしで炎を抜ける。


「ウェイブスライサー!」

水の刃が無数に解き放たれる。

空を裂き、閃光となり、アンドラスの全身を刻む。


「ぐっ……!」

血煙と蒸気が交じり合い、巨体がよろめく。


間髪入れず、ミズキの足が閃いた。

鋭い回し蹴り。

悪魔の巨体が地響きを立てて吹き飛ぶ。


――戦闘の腕前。

その差は歴然だった。


「さて、このウォールに閉じている怪物を浄化してもらわないと…」

「待って!その怪物、元は僕の友達なんだ。どうするつもりなんだ?」

キラが駆け付けて水の柱の前に立つ。

「そこをどけ。天界に連れて行かないと浄化できないんだよ」

「浄化?天界に連れてったら彼はちゃんと助かるの?死んでしまったら…」

ミズキはキラにナイフを突きつけて脅した。

「ふざけるなよ。怪物として何人もけが人を出すよりも一人の犠牲で済ませないといけないんだ。そもそもお前に何もできないくせに邪魔するな」

冷たい表情でミズキは忠告した。

キラは打ちひしがれた。

(僕は無力だ。どうしたら人間に戻せるかも分からない。せめて何か浄化できる力があれば…)


「危ない!よけろ!!」

キラの前にアンドラスが迫り、ミズキがすぐさま駆け付けてアンドラスのナイフがミズキの肩に刺さる。

キラを守るように倒れたミズキの肩には血が流れていた。


「大変だなあ、ミズキ。天使は人間を守る任務もあるから自分のためだけに戦えないって不憫だよなあ」

キラは涙を流した。「僕のために…ごめんなさい。僕にできることは…」

「こんなのかすり傷だ。邪魔になるから遠くに逃げ…なぜこれが光ってるんだ!?」

ミズキのロザリオがキラに呼応しているように強い光を放った。

「もしかして人間の戦天使…くそ、あんたら天界の思惑通りかよ」

ミズキはキラにロザリオを突きつけ

「聖なる力がお前に反応している。あの怪物を浄化する力に目覚めて助けてやれ」

キラは光に包まれ、背中に白い翼が現れて白い軍服を身にまとい、手に剣が現れた。


「え、ぼ、僕が戦えるんだろうか……? ど、どうしたら……」

白い軍服に包まれた自分の姿を見下ろし、キラは動揺で足がすくんだ。


「ふん、見た目だけは一丁前だな。だが所詮、人間!」

アンドラスが炎をまとった剣を振り下ろす。


――速い!


反射的に剣を掲げた瞬間、轟音と共に火花が散った。

「ぐっ……!」

衝撃で腕がしびれる。息を吸う暇もなく、二撃目が迫った。


「ガキィンッ!」

「はあっ……!?」

力で押し切られる。足が地面を滑り、背中が壁に叩きつけられた。


「どうした戦天使!その程度か!」

アンドラスの口元が嗤う。剣にまとった炎が蛇のように唸りを上げる。


――僕には無理だ。剣なんて握ったこともない。

でも……彼を救えるのは、今の僕しかいないんだ!


震える手で剣を握り直し、キラは必死に立ち上がった。


ミズキが水の刃をアンドラスに向けて放ち

「これでお前だけに集中していたぶれる。人間、あの怪物の前に立って浮かんだ言葉を剣を掲げながら詠唱しろ。足止めしておくから急げ」

「そうだ、今頭に言葉が流れてる…」

「ヒーリング・フラッシュ!!」

剣から注いだ光が怪物に降り注ぎ、光に包まれたのちにクラスメイトに戻った。

「ちっ、次は絶対倒す」

アンドラスは黒い霧と共に消えた。


「良かった。元に戻って本当に良かった」

「光野くん…?僕何をしていたんだろう?勉強しないと志望校に…」

「疲れちゃってたんだよ。君はいつも頑張ってるの僕は知ってるから。絶対結果は出る」

「そ、そっか。結果が出るのを信じて日々積み重ねるよ。ありがとう」


戦いを終えてクラスメイトと別れたキラを、ミズキはじっと見つめた。

「戦天使になったな。説明する。ついてこい」

「あの、さっきはありがとうございました。けがしてる!?手当しないと」

「今から向かうところで手当てもできるからついてきな」

キラの戦いの日々が幕を開けてしまった。

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