マン・インザ・メイズ
そしてもちろん、僕はピートの肩を持つ。
「夏への扉」より
そしてもちろん、僕はピートの肩を持つ。
「夏への扉」より
空が青かった。
外に出たのは一週間ぶりだ。
両親が付いて来ようとしたが、独りがいいからと我儘を言って、私は家から少し離れた児童公園に来て、ベンチに座っている。
平日の午前中という事もあってか、人影は無い。
……何から話そうか。
とりあえず、2週間ほど前に起こったあの学校での出来事は、夢でも幻でも無く、それらすべてが現実なのだと言う事を私が理解するのに2日ほどかかった。
光に飲み込まれた後、気が付いたら私は自宅のベッドで目を覚ました。
その事が、私に夢と現実を彷徨う二日間の混乱を来たす結果となったのだ。
後に両親が言うには、私はいつの間にか玄関の前で倒れていたのだそうだ。
勿論、私にそれまでの記憶は無い。
方代高校は、連日のテレビ報道を見る限りでは、とんでも無いことになっている。
ワイドショーでは、ありもしない学校の闇を連日の様に暴き立て、自称専門家達が、我こそはと持論を捲し立てる。
全部間違ってる。
そんな陳腐な考察では、三流ミステリーも書けやしない。
飛び降りた学生達の中には、まだ、息の有る者もいたらしく、日を追うごとに死者の数は増えて行き、私が最後に見たネットの情報では50人を越えていた。
多分、まだ増えていくんだろう。
大丈夫だろうか?うちの学校。
杉山さんとは、連絡がまだ着かない。
とはいえ、ラインには既読が着いているので、少し安心している。
三沢さんとは――。
既読すら着かない。
私のやったことは、ヒトノモリの消滅のハズだった。
だが、彼女が巻き添えを食ってしまった懸念は拭えない。
無事で有って欲しい。
そう思うことはいけないことだろうか。
そして、今の私は何をしているのかと言えば――。
夏休み中である。
学校がめちゃくちゃな状態で通常授業が困難なため、夏休みが前倒しになり、まだ5月中だというのに、お休みとなってしまったのだった。
とはいえ、何処かへ遊びに行く気にはなれないし、下手にそこいらをうろうろしていたら、マスコミに捕まって尋問されてしまう。
そんな状態。
「暇そうだな」
そんな女性の声がして、少しむっとして顔を上げる。
そして、固まった。
「黒川――さん」
目の前に黒川さんがいる。
「黒川さーん!」
私は立ち上がり、彼女に抱きつこうとしたが、黒川さんはそんな私を交わしてベンチに腰を下ろした。
うん、間違いなく黒川さんだ。
私は彼女の隣に腰を下ろす。
「黒川さん、死んだんじゃ――」
不躾な私の質問に黒川さんは微笑んだ。
「勝手に殺すな」
だって、だって――。
「私、こっちの世界では死ねないんだ」
はい?
「何度か酷い目に遭ってるんだけどね。死ねない。こっちの世界だから死ねないのか、それともあっちの黒川千歳が死んでないから死ねないのか、それとも他に何か理由が有るのか――」
「死ねない?」
「そう」
それって、不死身って事?
「教えておいてくれればいいじゃ無いですか!」
なんか、論点が違うような気がするけど、黒川さんならそんなこともあるかなと納得してしまっていた。
「死ぬ気は無かったしね。それに、痛いことは痛いんだ。こないだのも痛くて気絶した」
それにしたって――。
「連絡くれれば良かったじゃ無いですか!」
死んだと思ってたから、心配はしてなかったけど、喪失感は半端なかったのに。
「落ち着いた頃に直接会いに来ようと思っててね。今日は外に出てるって教えてもらったから来てみた」
教えてくれた?
「誰が教えてくれたんですか?」
私が尋ねると、黒川さんがそっちを見ろと私の背後に視線を向けた。
その先には、白いブラウスに紅いスカートを履いた、5人の女の子達がいた。
「花子さん!」
花子さんがニコニコしながら小さく手を振っている。
「明神を家まで運んだのもこいつらだよ。そのままずっと、様子をみてもらっていたんだ」
気が付かなかった――。ずっと、うちに花子さんが?
「便利だろ?」
いや、黒川さんちょっと嫌です。
トイレに5人もいたんだろうか?
「ところで――」
黒川さんが、視線をこちらに向けた。
「これからどうする?」
「これから?」
黒川さんがどんな意味で言ったのか、正しい意味は解らなかったけど。
今、私がやりたいことが有るとすれば、それは――。
学校の怪談は、まだ眠っていない。




