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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
明神亜々子は七不思議の夢を見るか
3/26

多目的教室

 次に三沢先輩からの連絡があったのは、それから10日過ぎた金曜日の事だった。

 今回も昼休み終了直前に突然教室に現れた先輩は、他の生徒達と自席で談笑する私に、物怖じすること無く颯爽と近づいて来ると「放課後16時に多目的教室に集合。です」と、そう言って一枚の用紙を私の机の上に置いた。

 回りに群がっていたクラスメイト達は、2年の先輩がわざわざ私を尋ねて来ている事に気を遣ってくれたのか散り散りに離れて行った。

 用紙は、私たちの教室がある新校舎と呼ばれる建物の教室の配置図で、三階建ての校舎の教室を一階ずつ略図にして説明してくれた物だった。

 一階にある職員室の先。

 プール側の突き当たりの場所に『多目的教室』と書かれたスペースがあり、赤丸が付いている。

 新入生である私が迷わないようにと先輩が作ってくれたようだった。

 結構優しい。だが、それにしても――。

「これ……部活ですか?」

「そう」

 先輩が事も無げに答えた。

「今日ですか?」

「そう」

 特に用事が有るわけでは無かったが、それだけに今日は帰りたかった。

 明日は休日なのだから。

「突然すぎませんか?」

 先輩は、「うーん……」と小さく自分を納得させるように呟くと、気を取り直すように私に笑顔を向けた。

「今日承認されたんだから。早いほうがイイ」

 言ってる意味が解らない。

 だが、ここで話を続けるには時間的に無理がありそうだった。

「解りました」

 ホントは何にも解ってないけど、そう答えた。

 行ってみれば解るだろう。

 解らなければ話し合えばいい。

 私たちは子供じゃ無い。高校生なのだから。


 放課後、約束の時間より少々早めに多目的教室へ行き、前後に有る引き戸の後ろ側から入ってってみると、予想通りに三沢先輩が中に居て机に座っていた。

 多目的教室は、他のクラスとの合同授業や発表会を行う為の特別な教室だと聞いたのだが、見たところ、本来黒板のあるべき場所にホワイトボードが置いてあったり、教室のように並んでいる机の数が少なかったりする以外は、私たちが普段使っている教室の内部とほとんど変わりの無い造りだった。

 ホワイトボードに向かうようにして並んでいる席の中央辺りに、三沢先輩ともう一人、何だか妙に色っぽい、黒いロングヘアの女子が座っていた。

 うちの学校のセーラー服。

 スカーフが紫という事は3年生らしい。

 私に気が付き、振り向いてニコニコと笑顔を向けてくる三沢先輩と対照的に、もう一人の振り向いた女子は、典型的な仏頂面とも言える表情でコチラを見ている。

 しかし、悔しい事にその無愛想な顔つきでさえ美しいと思えるほどの切れ長な目元の美人さんだ。

 色々思いが重なって、ぼんやりと立ち尽くしていると、教室前方の引き戸がガタガタと音を立てて開き、腰にリボンの付いたネイビーブルーのワンピースに身を包んだ、大人の女性が入ってきた。

 初めて見る顔だったが、多分部活の顧問の先生なのだろうと予測した。

「時間ピッタリー」

 先生は開口一番そう言うとホワイトボードの裏から丸椅子を引っ張り出して座り、ウェーブのかかった茶色いセミロングの髪を手櫛で整えた。

 大人の色気。

 チッ、なんでどいつもこいつもみんな色っぽいんだ?

 何の部活だっけ?ここ。

 余談だけど、私は自分の髪にコンプレックスを持っている。

 かなりのくせっ毛なのだ。

 私がショートヘアなのはそれが好みだからでは無い。

 少しでも髪の量が増えると樹皮のようにゴワゴワになってしまう。

 だから悪足掻きして、短く、短く整えているのだ。

 それでも、かなり目立つくらいに襟元はゴワゴワなのだが。

「どうしたの?座りなよ」

 先生が私に声を掛ける。

 私は三沢先輩の隣の席に座って先生と向かい合った。

「えーっと、それじゃ三沢さんだっけ?任せちゃっていいかな?」

 先生がそう言うと、三沢先輩は元気に「はいっ!」と返事をして立ち上がり、先生の隣に歩いて行くと、その場に立って私たちを見た。

 すぐに違和感を覚え、次の瞬間に、違和感の正体に気づいた。

 部員がいない。

 えっ! これで始めちゃうの?あれ、ひょっとして今日は、私の入部式とか?

「質問――、イイですか?」

 おずおずと手を挙げながら私が尋ねる。

「質問?まだ何にも話してないけど?」

 三沢先輩が訝るような視線で私を見た。

 私は黙って頷く。

「うん――いいよ。どぞ」

 三沢先輩が促す。

「あのう、部員が……いないようなのですが――」

 私がそう言うと、先生と三沢先輩は、少しの間何事かを確認するように顔を見合わせていたが、先生が私を見て、口を開いた。

「いるじゃない。全員」

 えっ?

 全、員。

 これで全員?

 そういえば、今は部員が少ないって言ってた覚えが有る。

 有るけど――。

 三沢先輩は、あっけにとられ固まったままの私に寄ってくると、身をかがめて肩に腕を回してきた。

「聞いて、明神亜々子。良く聞くのです」

 耳元で囁き出す。

「うちの学校の文化部は部員が3人以上いなければ成立しません。故に、つい10日前まで、うちは同好会でした。10日前、あなたが提出した入部希望が受理され、本日!オカルト同好会はオカルト研究部として承認されたのです」

 何言ってんだこの人。

「詐欺?」

心の声が口から出てしまった。

「詐欺?」

三沢先輩は、心外だと言う口ぶりで私の言葉を繰り返すと、ゆっくりと私から離れた。

「だって、先輩、『部』の勧誘してましたよね?」

ああ、もうこうなったら全部聞いてみるしか無い。

「あの時点では部は無かったって訳ですよね、文化祭でも凄いことやるとか言ってましたけど、そもそも同好会って文化祭に参加出来るんですか?」

 問い詰める私に、三沢先輩は涼しい顔で、高い位置から私を見下すように口を開いた。

「まったく問題ありません。なかったのです」

「有りまくりでしょう」

 私が食い下がると、三沢先輩は諭すように声のトーンを低くした。

「イイですか?あの時点でメンバーは2人居たのです。私と――」

 そう言って三沢先輩は長髪の3年生を指さした。

「部長の黒川さんです」

 あ、部長だったんだこの人。

 黒川さんは、あまり関心がなさそうな顔をして私を見ていた。

 目が合った瞬間、彼女の口元が小さく動き「かろん――」と言う小さな音がした。

 あっ、この人、飴を舐めてる。

 なんだか、飴で挨拶されたようでもにょもにょする。

「つまり、アノ時点であなたが申請書を記入すれば部活は成立し、文化祭に参加だって出来る転換点だったのです。勿論、私はあなたを信じていました。だから、これからの我々の夢を語ったのです」

 夢 (世迷い言)だって言っちゃってるし――。

 この世には、『話し合う前から話しても無駄だと決まっている人種』という物が存在するのだという事を私はこの時初めて知ったのだった。

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