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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
明神亜々子に花束を

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29/31

正体

 エントランスに戻ると、黒川さんが待っていてくれた。

「終わった?」

 黒川さんが優しい笑みで呟き、私は頷いた。

「職員室にいた禍神に指示を出していた奴がいる。多分、そいつが裏サイトに名前を書き込んで、ヒトノモリを呼び出してる奴だ」

 黒川さんの表情が険しくなっていく。

「つまり、そいつがヒトノモリ使い」

「じ、じゃあ、そいつを探せば、ヒトノモリにも遭えるかも!」

 やった!手がかりだ!

 ……まだ、手探りの手がかりだけど。

「あの『禍神に指示を出していた』んだから、学校の中にいるはずだ」

 なんとか、探し出す方法は無いだろうか。

「一度、部室に戻ろう――。三沢の事も心配だ」

 ああ、そうだ。すっかり忘れてた。

 三沢さん。

 無事だろうか?

 何か連絡が入っているかと思ってラインを確認する。

 !三沢さんからの連絡があった。

 着信した事に気づかなかったんだ。

「黒川さん!三沢さんから連絡が入っています!」

 私がそう言うと、黒川さんは自分のスマホを確認した。

「私の方には来てないな。なんて書いてある?」

「はい」

 私はラインを開いた。

 そして、驚愕する。

『ヒトノモリの秘密がわかりました。部室で待ってます』

 こ、これは――。

「黒川さん!ヒトノモリがわかったそうです、部室にいるっていってます」

 だめだ――、焦りすぎて何も伝えられない。

「ヒトノモリが部室に?」

 ちが――、もしもそうなら一大事です黒川さん!

「違います!部室にいるのは三沢さんです!」

 嗚呼ややこしい!

「部室だな!」

 私が独りで混乱している中、黒川さんは業を煮やし、私の手を掴み走り出した。

 部室は目と鼻の先だった。

 部室の前で一旦止まる。

 今までの事を考えると、嫌な予感が無いわけでは無かった。

 黒川さんもそうなのだろう。

 躊躇していたかのような黒川さんが、意を決したように引き戸を勢いよく開ける。

 がらんとした教室の中に、三沢さんが居た。

 机に座り、無表情で一心にスマホを操作している。

「三沢さん!よかった」

 駆け寄ろうとした私を黒川さんが制した。

 なぜ?思わず黒川さんの顔を覗き込む。

「三沢――」

 黒川さんの声が冷たい。

「三沢、何をしている――」

 黒川さんの言葉に三沢さんはスマホを操作していた手を止めて私達の方を見た。

 三沢さんは、笑っていた。

 この上なく優しく。

 そして、この上なくうれしそうに。

 それはまるで、無邪気な子供のようだった。

「ヒトノモリの秘密――知りたくないですか?」

 そうだ、三沢さんはラインでそう言っていた。

 秘密が解ったってホントだったんだ。

 凄い、凄いことだ!

 三沢さんが語り出す。

「ヒトノモリは、噂が広がれば広がるほど強力な呪いになる。そうなんですよ」

 うん、黒川さんもそう言っていた。

「学校の裏サイト――、そこに書き込む生徒達の愚痴や不満を、ほんの少し叶えてあげる事で、ヒトノモリは噂になった。広まっていったんです。ところが――」

 そう言って三沢さんは小首を傾げた。

「イレギュラーが起こった。起こってしまいました」

「白石君の自殺か?」

 黒川さんが口を挟む。

「そうです」

 そう言って三沢さんは肩を落とした。

「折角盛り上がり始めていたのに、周囲はすっかり冷めてしまった。呪いによって人が死んでしまったのです。ドン引きですよ。このままでは、裏サイトは寂れてしまう。消えてしまうかも知れない」

「ちょっと待ってください――」

 私が、三沢さんの話のちぐはぐな視点に疑問を持って、質問しようとしたとき、黒川さんが割り込んできた。

「詳しいな、三沢」

「ええ勿論。それはそうです」

 三沢さんが澄ました顔で言った。

「裏サイトは、私が作りました。ヒトノモリを育てる為に」

学校の裏サイト――は、三沢さんが作った?

「私が何故七不思議を集めようとしたか――、話したことはあったっけ?無いですよね」

 え?何で今更?それで、なんで今?

「予算の為ですよね?文化祭で発表しようとしたんですよね?」

 自分で言ってて何だか懐かしい。

 つい一ヶ月くらい前の話なのに、遠い昔のような気がする。

「教えてあげようか?知りたいですか?」

「教えてくれ三沢」

 何で、黒川さんまでその話?

 三沢さんが、また小首を傾けて口を開いた。

「裏サイトでヒトノモリの噂を広める事は失敗しました。人が来なくなってしまいましたから。まあ、失敗です。なので、次を考えました。人が死ぬほどの怖い噂なら、それは、かなりのインパクトになりますかすら、実態の無いヒトノモリと言う話だけを噂にして広めればいい。それがいいと思いました。でも、ヒトノモリと言うシングルショットな噂だけではインパクトが弱いです。ただのよくある噂話になってそのうち消えてしまいます。ですが、学校には七不思議という噂を伝承にしてしまう環境があることに気づきました。学校に入学した人達が、この学校でヒトリモリと言う、次々に人の死んでしまうような呪いの噂を知ることになり、受け継ぐのです。しかも、卒業した生徒達は、今度はその学校の噂を社会に振りまくことになります。噂はどんどん広まって都市伝説になるかも知れません」

 三沢さんはそう言うと大きくため息を付いた。

「ヒトノモリを組み込んだ七不思議を作らなくてはなりませんでした。それには残りの6つの噂を成立しないと。だから、七不思議を集めようと思った。思いました。ですが、そんなこと独りでやっていたのでは埒が開かない。かたがつかないのです」

 まさか、オカ研を作った理由は――。

「部活にすれば、協力者と資金、そして、発表の場を手に入れることが出来る。そうなるでしょう?」

「まって、裏サイトを作ったのは三沢さん?オカ研を創ったのは、ヒトノモリを七不思議にするため?部活で七不思議を集めたのはヒトノモリの為?全部、ヒトノモリの力を強力にするため?」

 言いながら、頭がくらくらする。

 三沢さんの顔が知らない人に見えてくる。

「何のために!」

 私は叫んでいた。

「何のために?」

 三沢さんは私の言葉を繰り返すと、少し考えたようにして口を開いた。

「……世界征服?」

 声が出ない。

 もし、三沢さんの答えを誰もが理解し、正しいとするならば、きっと、私は狂ってる。

「いい加減にしろ」

 黒川さんがドスの効いた声でスゴむと、三沢さんは照れ笑いしながら舌を出す仕草で答えた。

「うそうそ、ごめん。申し訳ありません。明神見てると、ついからかいたくなる」

 でも、それじゃあ――。

「白石さんは殺されたんですか?三沢さんが殺したんですか!」

「ああ、彼ね――」

 三沢さんが、素っ気ない表情で答えた。

「付き合って欲しいって、もの凄くウザかったの。しつこかったんです。だから、ヒトノモリに酷い目に遭わせてもらおうと思った。そうしようとしたんです。ついでだから、ヒトノモリの実績にしようとして裏サイトに書き込んでから、ヒトノモリに頼んだら――殺した。殺してしまいました」

 『殺した』そんな凄いことを言いながらも、顔色一つ変えていない三沢さんが怖い。

「私が『要らない』と書き込んだことに忖度したようなんです。忖度して私の目の前から消してしまった。そうしてしまったんです。知らなかった。考えおよびもしなかったんです。ヒトノモリが人を殺せるなんて――」

「えっ?」

 知らなかった?

「人の物を隠したり、人に怪我をさせたり――そんな事くらいしか出来ないと思っていました」

 三沢さんはそう言うと俯いて肩を震わせた。

 そうか、ヒトノモリの力が強くなりすぎていたんだ。

 三沢さんはそんなつもりじゃ無かったんだ。

「三沢さん――」

 肩を震わせ告白する三沢さん。

 これは、三沢さんの懺悔――、そう思った次の瞬間。

 三沢さんが大声を上げて笑い出した。

「そんなに強力になっていたなんて!もう、こんなの無敵じゃ無いですか!」

 ヤバイ。

 もう、この人ヤバイ――。

 これ以上、何を聞いても無駄と思いつつも、私はどうしても聞きたい事があった。

 いや、聞かなければならなかった。

「三沢さん!」

 三沢さんの笑いが止まった。

「松島先生を裏サイトに書き込んだのも三沢さんですね。何故――どうして、松島先生を殺したんですか!」

 私の問いに、三沢さんは何やら言葉を探しているようだったが、ぼそりと呟いた。

「……テスト?」

 はあ?テスト?

「テスト。確実に対象者を殺せるかどうか試してみた。あと、私にも禍神を操る事が出来るか知りたかったし、もし操れるなら練習もしたかったし。松島先生は生かしておいても後々邪魔しそうだったから丁度いいかな?って。そう思いました」

 そんな――。そんなことで!

「松島先生から七不思議の調査を禁止されて、どうしようかと考えていたときに、黒川さんがいいことを教えてくれた。そうなんですよ」

「私が?なにを?」

 訝しむように黒川さんが尋ねる。

「禍神の事。ヒトノモリが呪い殺すと手下に出来るって教えてくれた。くれましたよね?」

 嬉々と話す三沢さんを見ながら、黒川さんの顔が曇った。

「そしたら、もう、ヒトノモリに強くなってもらう必要も無いかな?って。そう思ったのです。今でも充分強いし、後は禍神を増やすだけでいい。それでいいかなって」

「つまり、オマエがヒトノモリ使いなんだな」

 黒川さんが問い詰める。

 再び、三沢さんが笑い出した。

「あはははは、な、何ですか?なんなのですか?それ、なに?ヒトノモリ使い?って何ですか?」

 そう言うと、ぴたりと笑いを止める。

「まあ、なんとでも、呼ぶのは自由です。ご自由に」

 三沢さんがそう言って立ち上がり、窓を背にして私達の方へ向き直った。

「そろそろです――」

 その時。

 窓の外に影が落ちてきた。

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