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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
明神亜々子に花束を

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27/31

digressionⅥ

「おねぇちゃん――」

 最初はその『声』だけだった。

 中学校2年生になった頃。

 聞こえているのは自分だけだと思っていたその声を、他にも聞こえる者が現れた。

 噂になり始めると、今度は彼女の私物が無くなったりした。

 ハサミや消しゴム、シャープペンシル――。

 それらは、すぐ出て来ることもあったし、出てこないこともあった。

 出て来る場所は、いつも自分が置いた覚えの無い場所からだったので、多分声の主の仕業であろうと考えた。

 やがて、彼女の物では無い他人の私物が消える事が起き出した。

 オバケが居る。

 施設の子ども達は一様にそう噂し合った。

 職員に訴える子供もいたが、勿論、職員達がそれを信じることは無く、たしなめられるだけで終わった。

 噂は益々広がっていき、或る日。

 職員の現金が無くなった。

 職員達の使う更衣室の、鍵が掛けられた個人のロッカーに入れられたバックからの消失だった。

 ロッカーに破損は無い。

 盗み出すことは困難――というより不可能に近いと誰もが思い、なので最初は紛失した本人共々思い違いだろうと言う結論で落ち着いた。

 しかし、それからもそれは度々起きて、消えたお金は紛失する私物達と同様、すぐに出て来たり、出てこなかったりした。

 他人の机の引き出しから出て来て、トラブルになることもあった。

 ついに、施設の職員達も、子ども達の言う『オバケ』の存在を信じざるを得なくなり始めていた。

 一方彼女は、それら全てが声の主の仕業であると確信し、楽しんでいた。

 その後も、肩を叩かれた、髪を引っ張られた、足首を握られた等々――。

 施設は、お化け屋敷の様相を呈し始め、職員の中には、実際に退職する者まで現れた。

 彼女はふと思った。

 『オバケ』の力が強くなっている――と。

 どうしてだろう?

 考えた末、ひとつの結論にたどり着く。

 『オバケ』は噂が広がるほどに強くなっていく。

 人に知られるほどに力を付けていくのだと。

 人に知られること無く、人に出来ない不思議な力を使う事が出来る『オバケ』。

 これが自分の味方になれば無敵だ。

 どんどん噂を拡げれば、もっと力も強くなるのだろう。

 『オバケ』は最初に彼女の前に現れた。

 そして、自分を「おねぇちゃん」と呼んだ。

 きっと、私の力になってくれるに違いない。

 だって、『オバケ』は裕也なのだから。

 自分の弟なのだから。

 だが、それは内緒にしておいた方がいいだろう。

 ならば、バレずに呼んであげられるように、新しい名前を付けてあげなくてはならない。

 施設に来る前にいた病院の職員達は彼女のことを『非人』と陰口した。

 それは意味としては『人にあらず』だったが、その暴言を当人や外部の人間に悟られ無いよう『ヒト』と読んで隠語として使っていた。

「ならば、私は非人なのだろう」

 彼女はずっとそう思っていた。

 職員達はその隠語を悪意を持って使っていたが、彼女にとってそれは、嫌な気持ちになる物では無かった。

 自分への職員達からの特別な呼び名。

 彼女を恐れる職員達がその畏怖の念を込めて使う敬称の様な物だと思っていた。

 そうだ、裕也は『私を守る』オバケ。

 『非人の守』

 うん。かっこいい。

 そう思った。

「裕也、アナタはその力でこれから私を守るの」

 裕也の姿は見えなかったが、彼女は天井を仰ぐようにして叫んだ。

「今からアナタはヒトノモリよ!」

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