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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
明神亜々子に花束を

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23/31

部室

わかるもんか、これはあんたの身に起こっていることじゃないんだから、

ぼくの他にだれがわかるっていうんだ。

「アルジャーノンに花束を」より


5月 9日金曜日

杉山さんから報告を受けた日。

 私は部活に顔を出さずに帰った。

 何故?と聞かれてもハッキリ言えない。

 不安?何に対して?

 ホントの事を知ることも知らないことにも不安だった。

 不安の置き所が整理できなかった。

 三沢さんに会うことが怖かったのかも知れない。

 だが、一晩じっくり考えて、心の準備は整った。

 気持ちの整理をするためには、真実を知る必要がある、と言う当たり前の結論。

 だから、彼女に直接話を聞くのが一番正しい。

 そうすれば、全て解決する。

 杉山さんが考えているような黒い話では無くて、もっと青春アオハルでプライベートな男女のお話で、きっと大した事では無いのだ。

 そう信じている。

 むしろ、そんなプライバシーな話を聞きたがる私を、三沢さんはゲスな奴と軽蔑するかも知れないが――。この際それはやむを得えない。

 どっちにしろ、明日は土曜日だ。

 新しい部室の片付けをするために三沢さんとは顔を合わせなくてはならない。

 ならば、やはりその前にこの気持ちにはさっさとけりを付けた方がいい。

 だが、さすがに昼間、三沢さんの教室に押しかけて行くわけにもいかず。

 放課後、部活の時間まで持ち越すことにした。

 その方が焦らず聞けるし。

 もっとも、三沢さんが今日部活に顔を出すという確証は無い。

 その点だけは、連絡だけでも取って置けば良かったかも知れないと、後悔した。


 放課後。

 部室に向かって廊下を歩いていると、ちょうど美術室の前で松島先生と高橋先生が立ち話をしていた。

 私が歩いて来るのを見て、高橋先生は松島先生に何事が声を掛け、挨拶するように軽く片手を上げると、美術室の中に消えていく。

 残った松島先生はゆっくりと私の方へ近づいて来た。

 先生は水色のワンピースに着替えていたのでお帰りモードだと思ったのだが――。

「これから、新しい部室の下見しに行くんだけど――一緒に来る?」

 何時になくうれしそうな笑顔で先生がそう言った。

 新しい部室!

 私は、これから三沢さんと会わなくてはいけないという、気乗りのしない大切な用事があるにも関わらず、松島先生のお誘いに、すっかりその気になってしまっていた。

「ついて行っていいんですか?」

 我ながら自分の意志の弱さに嫌悪感すら覚える。

 松島先生は、無言のまま小さく頷いて答えた。

「ほかのオカ研の部員、誰か来てるかな?」

 そう言われて、部室の中を覗いてみる。

 もともと、部室で三沢さんを待つつもりで早めに出向いていたので、部室にはまだ誰も居なかった。

「誰もいませんね。待ちますか?」

 私が尋ねると、先生は人差し指で頭を掻きながら苦笑いをする。

「うーん、そうしてあげたいんだけど、私、この後用事があるのよ。先に行きましょ。もともと、事前に独りで軽く様子見するつもりだけだったからみんなには連絡してなかったし。まあ、明神はタイミングがよかったって事で」

 そう言って歩き出す。

 私は、新しい部室に期待を膨らませ、いままでの沈んだ気持ちが嘘のように、うきうきと先生の後を付いて行った。

 数分後。

 先生が鍵を開けた部室の中をのぞき見た私の期待は、見事に落ち込んだ。

「ありゃあ――これは、思ったより――」

 先生のそんな声を聞いて、先生も私と同じ気持ちなのだろうと察する。

 部屋の中は、思った以上に倉庫だった。

 こぢんまりとしたスペースに何重にも高く積み上げられたダンボールは、まさに山の様相だ。

 その山の裏にはいくつものスチールラックが荷物を抱え、壁を作っている。

 確か、仮置き場と言って無かったっけ?

 これは、仮置きの場と言うよりゴミの集積所と言った方が正しい。

 これを、私達4人でどうしろと?

「はは――」

先生が力なく笑っている。

「話には聞いてたけど、思ったよりも難物だわ――」

 そのまま放心するかと思われた先生が明るい笑顔を私に向ける。

「明日はね、石橋先生と美術部の生徒さん達も何人か手伝ってくれる事になったから、大丈夫」

 あ、ひょっとしてさっきの立ち話は、それですか。

「何とかなる、なんとかなる」

 先生は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

「あ、そうだ!」

 言い聞かせていたかと思った先生が、思い出したように大声を上げた。

 笑顔で私と目を合わせる。

「あとで、みんながいる時にまた改めて話すけど、私、正式にオカルト研究部の顧問になったから、よろしくね!」

「え?」

 先生の真っ直ぐな視線に、ちょっとどぎまぎする。

「あ、はい!よろしくおねがいします!」

 最初からの付き合いがあってと言うのもあるが、人柄的にも松島先生が続投してくれるのはうれしい。

「私さあ、じつはちょっと部活の顧問やってみたかったんだよね」

「大変じゃ無いんですか?」

 なんか、部活の顧問って凄く大変だって聞くんですけど。

「今までやったこと無かったから。実際の所は解らないし、自分の思い入れでしかないんだけど。授業のカリキュラムに縛られずに生徒と作業するのってちょっと楽しそうじゃ無い?正直な話をすれば、ホントは美術部がよかったけど――」

 そう言って人差し指を口に当てた。

「これは内緒だ」

 そう言って、小さく笑った。

 色々あったけど、まだなんか色々あるけど――。

 なんだか、いい感じに進んでいきそうじゃん。

 将来の私達の拠点となる新しい部室を見て(少しうんざりしつつ)そうなってくれることを望む。

「さてと、私これから屋上の倉庫の方も観てこようと思うんだけど、明神はどうする?」

 あー、うーん。

「すみません。私、三沢先輩に会って話をしなくてはならない事があるんで、部室に戻ります」

 仮置き場がこの有様では、倉庫の方もたかが知れている。

 今見たところでどうという事も無いだろうし、どうせ明日になれば嫌というほど見ることになるんだろうし――いうか、見るのも嫌になる可能性の方が高いし。

 そんなわけで、もういいかな。

 誘ってくれている先生には申し訳ないが、退散させて貰うことにする。

「だよねぇ」

 先生はそんな私の気持ちを知ってか知らでか、妙に理解したような返事をすると、そのまま階段の方へ歩き出した。

「私、屋上見たらそのまま帰るから、あなた達も気をつけてね」

 先生がそう言って、振り向きもせず小さく手を振った。


 部室に戻ったとき、中には三沢さんが居て、席に座りノートに何事かを書き込んでいた。

 また、フィールドワークの計画でも立てているのだろうか。

「おお、明神。今日は来ないのかと思った。そう思ってました」

 部室の扉が開く音を聞いた三沢さんが私を見つけると、そう言ってノートから顔を上げる。

 一瞬、さっき松島先生が新しい部室の鍵を掛けなかったことを思い出し、今なら部屋を見学できますよと、誘おうかとも思ったのだけど――やめた。

 あんな状態なら今見る価値は無い。

 明日で充分だ。

 そうだ、それより今やらなくてはならないことがある。

 聞かなくてはならない。

 気が進まないけど――。

 私は、三沢さんが作業している机の向かいに椅子を移動し座る。

「ああ、これですか?これは――」

 三沢さんが私に自分が何をしているのか教えようとする。

「あ、いえ、違う――じゃ無くて――」

 本人を目の前にするとやっぱり言いにくい。

 聞きにくいと言うべきか。

「?どうした明神。オマエらしくない。何か困ってますか?」

 オマエらしくないって、普段は三沢さん、私の事どんな風に見てるんだろ?

 今の私はどんな風に見えるんだろ。

 ああ、そんなどうでもいいこと考えてる場合じゃ無いのに――。

 余計な考えがどんどん湧いて来て、大切な事が言葉にならない。

 出てこない。

「?」

 三沢さんの私を見る目が不審者を見る目だ。

 不審満載な目でガン見してる。

 その時、胸ポケットからラインの着信音がした。

 たすかった。

 三沢さんに愛想笑いを返しつつスマホを取り出し、ラインを開く。

 発信者は『わこ』だった。

 はて?『わこ』って――。

 あ、杉山さんだ。

 杉山和子すぎやま わこ

 そういえばアドレス交換したとき、『わこ』だって言ってた。

「すみません、三沢さん。杉山さんからライン来ました」

 私がそう言って、片手に持ったスマホを指すと、三沢さんは頷いてまたノートに視線を落とした。

 メールを開ける。


わこ: 明神、今どこ?

亜々子: 学校です。オカ研の部室にいます。

わこ: ヒトノモリが出た。


 え?『ヒトノモリが出た』?

 出たってどうゆうこと?


わこ: 松島先生が危ない。


 !


わこ: 松島先生に全部話せ。信じてもらえなくてもイイから。それしか無い。できるだけ早く!


 そこまで読んで、私は椅子から跳ね上がるようにして立ち上がり、同時に叫んでいた。

「三沢さん!」

 三沢さんは目を見開いて驚いている。

「松島先生が!」

 あ、ダメだ自分が状況を掴みきってないから、三沢さんに伝えられない。

 でも!でも!

「先生が危ないんです!」

 再びそう叫ぶと部室を飛び出し、駆けていた。

「明神!」

後ろから三沢さんの私を呼ぶ声と、着いて来る駆け足の音がしている。

 屋上。

 嫌な予感しかしない。

 そもそも、先生はまだ屋上にいるのだろうか?

 階段を一気に駈け上がり四階の踊り場へ。

 屋上の入り口が半開きになっているのが見える。

 ドアを開けて屋上へ。

 空の地平線に近い一面を、血のように真っ赤な夕焼けがとばり、不穏な空間を醸し出している。

 緑色の防水シートが一面に張られた床は、空の補色となり毒々しい。

 突き出した出入り口の上に有る高架水槽が夕陽の背景の中、影絵のようにそびえ立っていた。

 見渡すまでも無く、私の視線の先にプレハブらしき小屋がある。

「先生!」

 私は駆けだしていた。

 プレハブに近づいたとき、その先の屋上をぐるりと囲む、胸の高さほどのメッシュフェンスにもたれ掛かり回りの景色を望むようにしている人影を見つけた。

「松島先生!」

 ありったけの声で叫んだ。

 人影は呼びかけに反応したように、ゆっくりとコチラを向いて背中をフェンスに預けた。

「よう、明神。まだ帰らなかったのか?」

 よかった。

 とにかく無事だった。

 松島先生は大きく伸びをする。

「ごめんな、明神――」

「?」

 先生は何を謝っているの?

「ごめんな。みんなにも謝っておいてくれ」

 みんな?みんなって?謝るって?何を?

「私は『要らない』んだってさ――」

 松島先生はそう言うと、まるで駈け上がるようにフェンスを登り――。

 燃えるように真っ赤な夕焼けの中に身を躍らせた。

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