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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
たったひとつの攻めたやりかた
16/31

猫と好奇心

 三沢さんの顔が一瞬怖い表情になった。

 残念と言うより、もっと深い表情。

 三沢さんはきっと、ヒトノモリの話自体には期待していたのだと思う。

 だから、大切に仕舞ってた。

 『早いかなって――』考えて。

 一番最初に七不思議の候補になってもおかしくない噂話をわざと無関心のように装い

 もっと表現を考え、ゆっくりと表に出そうとしていたのかも知れない。

 結果的には、三沢さんの言うとおり、「早かった」のだ。

 だけど、ヒトノモリの件から手を引くのは、私は賛成だった。

 色々興味は湧くが、何より怖い。

 ヒトノモリに興味を引かれる話が出る度に怖くなる。

 そして、それに従い段々と噂から逃げられなくなる自分がいる。

 好奇心。

 恐怖が好奇心に変わっていくのが解る。

 それはとても危険な事だと理解できている。

 『好奇心は猫を殺す』と言うことわざくらい、私でも知っている。

 三沢さんも黒川さんも何も言わずに黙ったままだった。

「あと一つ」

 先生が口を開く。

「悪い報告――と、言うよりこれは私からの提案。そして、お願い」

 その場の空気が張り詰めた。

 嫌な予感しかしない。

「今回の、学校の七不思議調査――中止にしない?」

「え?」

 思わず声を出したのは私だけだったが、後の2人も間違いなく心乱していたのが感じられた。

 中止?

 ヒトノモリだけで無く、全ての調査を止めるという事?

「今回みたいな事があって、私考えたんだけどさ。ご時世って言うのかな。制約やセンシティブな話ってね、私達が考えてるより難しいんだと思うのよ。今更で悪いんだけど――。これ、続ければこれからもあると思うのね。その度に軌道修正したり、諦めたりしなきゃならなくなったら、つまらないじゃ無い?気分――、悪いよね?」

 何より、先生だっていちいち言いたくないだろうなと思った。

 七不思議っていつも大体心霊関係に落ち着くことになるだろうし、そうすれば今回みたいに、必ず人の生き死には絡んで来ることになるだろうしなぁ。

 実話怪談なんて、不特定多数の匿名事項だから成立するのであって、狭いコミュニティの中では、不謹慎ってことになり、成立しちゃいけない物になるのかも知れない。

 と言うより、なるよね。絶対。

「そうか――そういう事になるのか」

 黒川さんが静かに言った。

 三沢さんは戸惑いの表情を見せている。

「でも、それじゃあ、活動の実績が――」

三沢さんが、かなり動揺しながら言った。

「うん――だから、その辺は、もう一度みんなでよく話し合お。任せっきりにしてた私が悪い。部室も新しくなることだし。これからは私も参加するから」

 イイ先生だ。

 頭ごなしじゃなくて、キチンと向き合ってくれようとしている――そう思った。

 他の2人もそんな先生に何も言うことが出来ないようで、黙って頷く。

「今日の所は、これは私からのお願いという事で。新しい部室に移ったら、みんなで詳しく話し合いましょう。と、言うところで――」

 先生はそう言うと椅子にもたれかかった。

「今日は、解散」


次の日の昼休み。

私は意外な人物の訪問を受ける。


「こんにちは」

 お弁当を食べ終わり、クラスメイトと自席で雑談する私の前に、気が付けば、ほどよいソバカス顔でロングヘアーの女子が立っていた。

「明神さんですよね?私、深山です深山杏子」

「ミヤま?ああ、1組の」

 花束の件の投稿者だった。

「初めまして――でいいんですかね?この前はお世話になりました」

 深山さんはそう言うと芝居掛かった深いお辞儀をした。

「いいえぇ、大してお役に立てませんでぇ」

 なんだか、コチラも返事が芝居かかってしまう。

「少し、付き合ってもらってイイですか?」

 何だろう?

 もしかして、新しい依頼?

 またお願いしますって言ってたしなぁ。

 もし、そうだったら、キチンと断ろう。

 そんなことを考えながら、私は立ち上がり、誘う深山さんの後ろについて行く。

 なんか、どんどん校庭のハズレの方に行くんだけど。

 これ、ちょっとやばくない?

 私、この人に何か気に障るようなことしたの?

 深山さんは、無言のまま歩き続け、体育館の裏へ私を誘い入れようとする。

 さすがに躊躇した。

 まさか、数人の女子や男子が私を血祭りに上げようと待機してる訳じゃ無いよね。

 そんなことされる覚えも謂われも個人的には無いんだけど。

 深山さんはそれを感じ取ったのか、振り向いて微笑むと手招きする。

 行ってみるか。

 私は、独りよがりな被害妄想に対して覚悟を決めた。

 体育館の裏には誰もいなかった。

 深山さんは、そのまま体育館の中程まで行って止まると私の方に振り向いた。

「ごめんなさい。誰にも聞かれたくない話だったんで」

「……はあ」

 深山さんの言葉になんとなく答える。

 逢うの初めてだしなぁ。

 ラインとかも知らないし。

 聞かれたくなかったらこうなるか。

 何はともあれ、ひとまず安堵した。

「この間、調べてもらった花束の件で、あれから、私が気にしてるって事を知った友人達が調べてくれたことを教えてくれて。気になる話を聞いたんですよ。だから報告しておこうと思って」

 ありゃ、新情報の提供?

 今更かぁ。

 でも、どうせヒトノモリ関係なんだろうなぁ。

 折角の善意だし、うちの部の現状説明するのも面倒くさいし、話だけ聞いてお礼言って終わりにするかぁ。

「明神さん、ひょっとしたら、もう知ってるかも知れないですけど、自殺した男子って、自殺じゃ無くて殺されたかも知れないって、知ってます?」

 ああ、やっぱりそれか。

「ヒトノモリのこと?」

 私が答えると、深山さんは顔をしかめた。

「何ですか?それ?」

「え?ヒトノモリ――」

 違うの?

「自殺した男子はお化けに呪われて死んだんじゃ無いかって話し」

「そうなんですか?」

「いや、知らんけど」

 話が噛み合わ無い。

「そういう心霊話こわいはなしじゃなくて、同じ怖い話でも私の聞いた話は、人怖ヒトコワです」

「ヒトコワ?」

 新しい情報の提供。

 だけど、嫌な予感がする。

 私の中の猫が騒ぎ出す。

 私は、これを――。

 我慢することが出来なかった。

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