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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
たったひとつの攻めたやりかた
15/31

教えてあげる

 これがたったひとつの冴えたやりかた

「たったひとつの冴えたやりかた」より



 翌日、私は授業の間の休み時間を使って杉山さんに教えられた手順に従い、自分のスマホで裏サイトにアクセスしてみた。

 まず、個人サイト『meちゃんのお部屋』にアクセスする。

 『meちゃんのお部屋』はいかにもな昔の個人ホームページのトップに『日記』『写真』『BBS』とリンクが張ってある。

 BBSというのは掲示版機能の事らしくて、ホームページでコンテンツ――ここだと『日記』や『写真』になるけれど、それらを閲覧した後に意見や感想を書き込む事が出来る交流の場所という事らしい。

 昔の一般的ホームページは、そういう形式になっていたのだとか。

 せっかくアクセスしたのだからと、『日記』と『写真』も覗いてみることにした。

 『日記』は、リンクが切れているらしく、何処にも繋がっていない状態のようだった。

 『写真』をクリックすると、アルバム形式のページに飛ばされた。

 何枚かの写真がアップされていたが、人物は写っておらず、殺風景なベッドのある部屋の写真――。

 ひょっとしたら、というか多分間違いなく病室の写真。

 それが、十枚ほどアップされている。

 すべての写真は、同じ病室のものらしかった。

 写真の下には、日付と説明文を書く欄は有ったのだが、何も記入されていなかったのでホント、何も解らない。

 私は、本題のBBSのリンクをクリックする。

 すると、真っ黒な画面に切り替わり、真ん中に『パスワード』という白文字とそれを書き込む白抜きのスペースが現れた。

 教えて貰ったパスワード『595』を入力してEnterを押す。

 某有名匿名掲示板的な様式の画面が立ち上がる。

 最近の書き込みはほとんど無かった。

 多分、書き込むことによってヒトノモリの餌食なってしまうのでは無いかと言う思いがあって、みんなが書き込みを躊躇してしまったなれの果てと言ったところだろう。

 しかし、過去のログは想像以上の下劣さだった。

 生徒や先生の罵詈雑言。

 個人攻撃が面白おかしく会話されている。

 書き込んだのが、女子か男子かが解らず無感情な機械が言い合いをしているように整然と並んでいるのも不気味さに拍車を掛けていた。

 私は、ヒトノモリを探してみようかと思い、掲示版を操作しようとして手を止めた。

今も、この時間も、ヒトノモリがこの掲示版を観ているのだろうか?

 もし、本当に超常の存在なのだとしたら、書き込みをしていないとは言え、私は果たして安全なのだろうか?

「ボクハ・ヒトノモリ」

 うたた寝の時に聞いたあの幼い声が、今、耳元で聞こえたような気がして、私はあわててページから抜け出していた。


 放課後、私はいつも以上に急いで部室に向かっていた。

 驚いたことに松島先生から、放課後部室に集まるようにと、呼び出しメールがかかったのだ。

 部活なのだから、放課後に集まるのは当然のことだし、松島先生は顧問なのだから、部活に顔を出すのは当たり前と言えば当たり前の事なのだが、今までずっと自由過ぎる部活動を繰り返して来ていたので、凄く驚いた。

 部室に行ってみると黒川さんと三沢さんがそろって席に着いていた。

 そして松島先生も。

「ああ、待ってた、待ってた」

 松島先生が部室に入ってきた私に気が付き、そう言うと手招きする。

 私は軽く会釈すると、いつものように三沢さんの隣の席に座る。

 松島先生は、紅いジャージ姿だったので、まだお仕事モードと言う事なのだろう。

「さて」

 先生はそう言って軽く手のひらを合わせ、私達を見渡した。

「色々、お話があって集まってもらいました。いい話と、悪い話があります」

 先生がそう言って小首を傾げる。

「えーとね。いい話から始めるね」

「選ばせてもらえないんですか?」

 ちょっと調子を狂わせながら、私が抵抗した。

 普通、こういう場面では、「どっちが先に聞きたい?」みたいになるのが相場だよね?

 いや、別にどうしても選びたいわけでは無かったんだけど。

「いい話が1つに悪い話が3つくらいあるのよ。手短になりそうな方から片付けたいんだけど。だめかな?」

 心底余計な事言わなきゃ良かったって後悔した。

 黒川さん、声を殺して笑ってるし。

 三沢さんの方見たらノートにメモ取ってる。

 意外と真面目なんだこの人。

「ダメじゃありませんでした」

 私が首をすくめながらそう言うと、先生は一つ頷いて話し始めた。

「じゃ、始めるね。まず、イイ報告があります。部室が決定しました」

 あ、移動するんだ。

「前に話してたとおり、文化棟の物置になっていた部屋。そこの荷物を移動して使えるようにします」

「荷物は何処に移動するの?持って行くのですか?」

 三沢さんが尋ねる。

「屋上にね、プレハブ小屋があるらしいのよ。もともとは、そこを物置として使っていたらしいんだけど、屋上まで行くの大変じゃ無い?それに外だから何かと不便だし、それで、面倒くさくなって、みんな空き部屋になってた今の部屋に仮置きって感じで詰め込んでいたんだって。それが、いつの間にやら定位置になって――って事に」

 屋上への扉って、普段は施錠されていて出たことが無かったから、そんな物があるのは知らなかった。

 確かに不便そうだなぁ。

 なんで、そんなところに作ったんだろ。

「それでね――ちょっと悪い話」

 先生はそう言うとかりかりと頭を掻いた。

「荷物の移動は私達でやることになったんだわ」

 ああ、私は先生から話を聞いた時、最初からそのつもりだった。

 先生もそのつもりで話していると思っていたので、今更の驚きは無い。

「時間がかかるだろうから、放課後ってわけにも行かないのよ。暗くなってくれば足下とかも危険だしね。それで、今度の土曜日に学校に集まって作業したいんだけど――都合付けてくるかな?どうかな」

「勿論です!」

 三沢さんが机に乗り出すようにして叫んだ。

「念願の部室を手に入れるためです!私は何でもやるよ。させてください!」

 ホントにうれしそうだ。

 勿論、私も異議は無い。

 と、いうかさっきも言ったが覚悟していた。

 黙って頷く。

 黒川さんも笑っているからきっとOK。

「ありがと、それじゃあ、土曜日の朝10時にこっちの部室に集合って事で、警備員さんには伝えておくから」

 うちの学校、休日の日は確か、朝9時から18時まで、警備員が詰めていて、それ以降が機械警備になるハズだ。

「それでだ――」

 先生の表情が少し曇った。

「悪い話の二つ目なんだけど」

 何?

「あんた達――去年自殺した男子の話を調べてるって聞いたんだけど」

「調べてませんよ」

 先生の唐突な質問の意味を考える間もないくらいに唐突に黒川さんが答えた。

「男子の事なんか調べてません。私達は『ヒトノモリ』という学校の噂を調べていただけです。その過程で、男子の話は出てきましたが」

 珍しく黒川さんが長文を静かに語った。

 先生はちょっと困ったような顔をした後で口を開く。

「ぶっちゃけ、その『ヒトノモリ』って言うのが問題らしいんだわ」

 そう言って先生が椅子に座り直す。

「私、今年赴任してきたばかりでこの話は知らなかったんだけど――黒川と三沢は去年からいたから知ってるだろ?一年の男子が自殺した際にこのヒトノモリっていうのが噂になって――」

「呪いですか」

 私が尋ねると先生は頷いた。

「そういう根も葉もない噂が流れたのと、裏サイトなんて物がある事も知れ渡ってしまって、ショック受けて不登校になった子もいたんだって」

 ええ、そうなの?

 大問題じゃん!

 あれ?でも、ちょっとまって。

 そんなに大問題になった話を黒川さんは知らなかったって言って無かったっけ?

 あのときの、杉山さんの微妙な態度って、つまり――。

「そのうちにね、資料室に死んだ子の幽霊が出るなんて噂が立ち始めて――」

「幽霊?」

 特に質問したつもりは無かった。

 独り言の様な物だったのだけど、先生は答えてくれた。

「うん。資料室が施錠される様になったのは、模倣する生徒が出たりしたらいけないからと言う安全性の面からだったんだけど、その扉がたまに誰も使ってないのに開いていてね、中から『たすけて』って声がするとか――あと、中から手招きしてくるとか」

「!」

 手招き?という事は手?

 これって、杉山さんの元カレが見たって言う粘土の手の話に尾ひれが付いたものとも考えられなくも無いけど、逆に元カレさんが幽霊の手を見たのに思い込みで粘土だと思ったとか、考えられないだろうか?

 え?これひょっとして心霊現象だった(ガチ)?

「そこの――」

 先生は窓の外を指さした。

「そこの花壇にお花が置いてあるの知ってる?」

 私達は3人で頷いた。

「そんな幽霊の話が少しばかり有名になっちゃってね。そこのお花は亡くなった男子の親族の方達が、月に一度お供えに来るらしいの。ホントは学校の敷地内だし、生徒も動揺するから、普通はご遠慮いただくものなんだけど、色々あったし、なんならまだ、色々あるしで、ご遺族も供養がしたいって事でね。一周忌過ぎるまでは――と言う」

 そこまで言って先生は頭を下げた。

「ごめん!知らなかったでは済まされないんだけど、色々難しいセンシティブがあってね。学校側も色々手を尽くして、生徒達もせっかく落ち着いてきたのに、今更また変な噂が流れるのは困るし、またそんな噂が流れてるなんてことが遺族の人達の耳に入ってもってね。教頭先生から釘をさされちゃったの。だから――」

 再び私達を見渡す。

「ヒトノモリには手を出さないで」

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