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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
明神亜々子と時計じかけの学校怪談
13/31

資料室

 多分夢を見ていた。

 いや、現実だったかも知れない。

 誰かが私を見ている。

 見ている気配を感じていた。

 もの凄く嫌な感じがしたのだが、不思議と目を開けて確認しようとは思わなかった。

 目は開いているのだが、見えているのは暗闇――、そんな感じ。

 なにか聞こえた。

 声――。

「ボクハ――」

 その声は、小さな子供の声だと思った。

 あんまり幼すぎて、男の子か女の子かが解らない。

「ボクハ――ヒトノ――」

 ボク?ボクとは僕の事だろうか?

「ボクハ・ヒトノモリ」

 ヒトノモリ――。

「……かろん」

 口の中を飴の転がる音が聞こえた。

「……おーい、アケガミ」

 私を呼んでる。

 ……呼んでる?

「あ、はい!」

 驚いて顔を上げ、顔から外れそうになっている眼鏡サークルを直しながら声のする方を向くと、目の前に黒川さんの顔が迫っていた。

 うわあ、綺麗だ――じゃ、なくて、びっくりした!

「悪いな、明神。ちょっといいか?」

 黒川さんの声で覚醒しながら、回りを見渡すと、少し離れた所の机を4つ固めた席があり、そこに三沢先輩と見知らぬ女子が座ってコチラを見ていた。

 ああ、寝顔を見られてしまった。

 嘘でしょ。

 「あ」

 私は慌てて手の甲で口元を拭う。

 ヨダレは――垂れていなかったことを祈るしかない。

「すいません、ちょっと考え事してて――」

 と言う、言訳にしか聞こえない言訳がこぼれる。

 だけど、『ちょっと考え事してて』寝てしまったのだから、嘘では無い。

 うん。

 黒川さんは机のお誕生日席に座った。

 向かって左側に三沢さん。

 向かい側に謎の女子の席順。

 女子のスカーフは紫色だったので、3年生らしい。

 ポニーテールの似合うちょっと目付きのキツい女子だった。

 私は慌てて三沢さんの隣の席に座る。

「こちら、3年3組の杉山さん」

 黒川さんにそう紹介されると杉山さんは無言で小さく会釈した。

 誰?

「資料室の話なんだけど」

 黒川さんが続けた。

「明神の友達が資料室の話を聞いた先輩っていうのが杉山さん」

 あ、そうか。一年の古河が話を聞いたって事は、まだ、在校生だ。

「それで、色々話を聞きたいと思ってお願いしたら、OKしてくれてね。情報共有しといた方がいいと思ったんで、みんなで聞いておこうと思って来てもらった」

 あれ?ひょっとして黒川さん、最近部室に顔を出さなかったのは、調査続けたり、この段取りを付けてたりしてた?

 ちゃんとやる事やってたんだ。

 それに比べて私は、騒ぐだけで資料室の件は投げっぱなしだし、ヒトノモリは考えあぐねて昼寝だし――。

 なんか、恥ずかしい。

「おまたせ、杉山さん。お話の方お願いします」

 杉山さんは小さく頷くと話し始めた。

「話してくれたのは、私の元彼なんだけどね」

「え?」

 私達3人は、滑稽なほど声をそろえて驚いていた。

「体験者は女子じゃなかったの?」

 黒川さんが訪ねる。

「男子だよ。誰か女子って言った?」

 言って無いけど、男子とも言って無かった。

 言って無かったから、話してくれた古河が女子だったこともあって、女子だと思い込んでいた。

 多分それは、黒川さんや三沢さんもそうだったのだろう。

 ただ、それが女子であれ、男子であれ、話の内容にはまったく影響無い事ではあったが。

「うん、まあ、とにかく元彼なのよ。なんか、ずっと気になってたんだって」

 気になっていたのは美術準備室の粘土細工の手の事だろう。

「ひとつ聞きたいのは、その彼氏が何故、鍵が開いて、中に作業している誰かがいるだろう資料室の中を覗いたのか?と言う事なんだけど、何か知ってる?」

「?」

 黒川さんの問いかけに杉山さんはちょっと不思議そうな顔をした後に口を開く。

「鍵?その時に資料室には鍵は無かったよ。だって資料室に鍵がかかるようになったのはあの事があって暫くしてでしょ?事故があったばかりでまだ鍵は付いていなかったらしいよ」

「事故?」

 黒川さんが、尋ね返す。

 まったく繋がりの無い事柄が一つの単語でデジャブのように思い返される。

 『事故』亡くなった一年『男子』。

 でも、今一歩のところで繋がらない。

「え?知らないわけじゃ無いよね。去年の一年生の自殺」

 自殺?三沢さんから聞いたあの話だろうか?

「それって、一年生の男子が屋上から飛び降りた話ですよね」

「アンタ一年だから知らないか」

 私の問いにそう答えた杉山さんの口からは、続けて驚きの事実が伝えられた。

「男子が飛び降りたのは屋上からじゃ無いよ。資料室の窓からだよ」

「えっ!」

 私は飛び降りたって聞いた時、てっきり屋上からだと思い込んでいた。

 だって、学校で飛び降りと言えば、なんとなく屋上が思い浮かぶよね?

 そうだ、そういえば三沢さんも屋上から落ちたとは言っていない。

 むしろ、話すことを躊躇とまどったように何も話してくれなかった。

 資料室の位置は三階。

 多目的教室の真上。

 だから、部室の前に献花されていたんだ。

「黒川は知ってるよね?」

 杉山さんがそう言って、視線を黒川さんに移す。

「ごめん――知らなかった」

 目を逸らし気味に黒川さんが答える。

 そんな黒川さんの様子を見て、私は三沢さんの 「私もあまり詳しくは知らないんだ。先生達はむしろ教えてくれなかった」と言った言葉を思い出していた。

「へーえ、アナタが知らないなんて意外」

 杉山さんはそう言うと小さく笑った。

「元彼――山本っていうんだけどさ。事故があって暫くの間、資料室って立ち入り禁止になってたじゃん。それが或る日開いてたんだって。覗くでしょ。普通に。そしたらね、美術準備室にあるはずの粘土の手があったんだって。もともと気味が悪いって思ってたからね、怖くなってそこから立ち去ったんだって」

 話す人によって体験談の印象って全然変わるものなんだなぁ。

 だとしたら、本人に聞いたらもっとなんか解るかも。

 私はそう思って杉山さんに聞いてみた。

「その、元彼――山本さんでしたっけ?に直接お話聞いたりは出来ないですか?」

 私の言葉に杉山さんは、にやにやしながら答える。

「だから、元彼。もう、何ヶ月も連絡取ってないからムリ。卒業しちゃったし」

「ですよねぇ」

 私はそう言って、照れ笑いしてごまかした。

「あなた達、怖い話を集めてるんでしょ?」

 そう言って杉山さんの目の輝きが変わる。

「だったら、資料室繋がりであの話とかどう?」

 あの話て?

 資料室にまだ何か曰くが?

「例の、呪いの話。ですよね」

 そう言って、三沢さんが顔をしかめた。

 え?呪い?なんかさっきまでそんな話をしてたような――。

「あれ、まじだよ。私も見たし」

 なんか、三沢さんと杉山さんの間では話が通じているようで、どんどん進んでいく。

「一年にお姉さんが教えてあげよう」

 わたしが複雑な顔をしているのを気づいた杉山さんの顔が、悪戯っぽくなっていく。

 私を怖がらせようとしているのは間違いない。

「資料室から飛び降りた男子。じつは、呪いによって殺されたんじゃ無いかって噂があるのよ」

 あれ?ひょっとしてその話って――。

「ヒトノモリ?」

「なんだ、知ってた?」

 杉山さんがつまらなそうに笑った。

「えーと、じつはですね」

 私は、投書の中にヒトノモリの話をついさっき見つけた話をした。

「詳しく話が聞きたいなと思ってたんです」

 三沢さんも知っているようだったし、と言う事は黒川さんも知ってるのだろう。

 だったら後で誰に聞いても良かったのだけど、話の乗りで今聞いてしまえば手がかからなくて良いような気がした。

「寝ながら?」

「あう――」

 私は、杉山さんの意地が悪い質問に口を噤んだ。

「うそうそ、ごめん」

 杉山さんは、声を立てて笑った。

 うう――、いじわるだ。

「それで」

 杉山さんが先輩達2人を見渡す。

「私が話した方がいい?」

 黒川さんも三沢さんも小さく頷く。

「じゃあ、一年生の為にお話しするから良く聞きなよ」

 杉山さんはヒトノモリについて話し始めた。

「学校裏サイトが有るって事を、私が知ったのは一年くらい前。なんか、今更って感じがするじゃ無い?私も最初はそうだった。だけどね、この裏サイト、ちょっと特別な噂があったのよ」

「特別?」

 呪いの事だろうか?

「うん、このサイトの名前、実際には『meちゃんのお部屋』って言うんだけど――」

 あ、もともとサイトの名前が違ってたんだ。

 見つかるわけがないや。

「なんで、ヒトノモリって言うんですか?」

 私が尋ねると杉山さんは「まあまあ」と私をいなして、話を続けた

「『meちゃんのお部屋』は匿名掲示板なんだけどね。書き込みをしてるとね、たまに現れるコテハンがいるのよ」

「あ――」

 ひょっとしてそれが。

「そう、そのコテハンがヒトノモリ」 

 ヒトノモリはサイトの名前じゃ無くてコテハンの名前だったんだ。

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