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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
明神亜々子と時計じかけの学校怪談
12/31

献花

 それから一週間ほどが経つ間、廊下のポストにはそこそこの記事が投稿された。

 ……のだが、今一コチラの意図するところとは違う物ばかりだった。

 例えば。


『中学生の時の話です。

誰もいないはずの体育館からボールの跳ねる音が聞こえました。

見に行ってみると、人の頭が跳ねてました。

体育館は後日全焼しました』

 それとか。


『小学校の時ドアだけの部屋があった。

そのドアは鍵がかかっているわけでも無くて開けるとコンクリートの壁。

なんていうか部屋自体が埋め立てられていた。

それが妙に気味が悪かったのを良く覚えている』


 ……。


『小学校の2階トイレの鏡に子供の顔が映るので

目撃した3年生の児童たちが、先生や親にお願いをしてその鏡を撤去してもらった。

何故か全校舎トイレの鏡が無くなったけど』

 等々――。

 集まった記事の9割方に目を通したが、全てそんな感じの投稿なのだ。

 ……惜しい。

 本当に惜しい!

 話としてはいい話なんだ。

 雰囲気、適度な不気味さ、訳のわからなさも。

 だけど違うんだ、私達は方代高校の七不思議を探しているんだ。

 なんで、小学校や中学校の話ばかりなんだ。

 これでは、黒川さんの言う『高校に七不思議は無い理論』の実証にしかならないではないか。

「どう?如何ですか?何かいい投稿はある?あったりしましたか?」

 部室で机に座り、孤独に記事の整理をしていた私の肩越しに、三沢さんが多大な期待を込めた声で尋ねてきた。

「ダメです」

 私は三沢さんがドン引きするようなげんなり顔で答え、現状の報告をする。

「このままでは、七不思議を探し出す前に、見知らぬ学校の実話怪談集が一冊出来上がってしまいます」

「それは――困ります」

 三沢さんはそう言うと拳を口元に当てて何やらブツブツ呟きだした。

「とりあえず、暫くこのまま様子を見ましょう」

 そう言って真っ直ぐに私を見る。

「その間、私も何か考えてみます」

 うん。

 それしか無いか。

 それにまだ、全部の記事に目を通した訳じゃ無いし。

 あ、そうだ。そういえば――。

「三沢さん」

 私が呼ぶと、ちょっとビックリしたような挙動をしてコチラを見た。

「記事の投稿方法なんですが、私が学校で使ってるパソコンのメールを開放しますから、イントラやスマホからでも投稿できる様にしませんか?」

 オカルト研究部にはまったくと言ってイイほど備品が無い。

 出来たてなので致し方の無いことだし、それだからの予算確保のための今回の活動なのだ。

 今有るのは、筆記用具とコピー用紙ぐらいのもの。

 当然、割り振られたパソコンも無い。

 だから、活動は基本アナログにならざるを得ない。

 と言う上での提案だった。

 今時、紙に書いてポストに投稿ってやり方そのものが億劫って事は絶対あるだろうし。

「そうですねぇ」

 三沢さんがちょっと考えた風にして続けた。

「匿名性があった方が投書しやすいんじゃないかと思っての処置だったのですが、窓口は広い方がいいかもしれませんね。ただ――」

「何でしょう?何か問題でも?」

「いえ、明神の負担じゃない?なりませんか?」

 それは三沢さんの杞憂というもの。

「むしろ、整理するにも文字起こしするにもメールで貰った方がありがたいです」

 私がそう言うと三沢さんは小さく頷いた。

「解りました。ありがとう。それではそちらの方は明神に任せるよ。そうしましょう」

「了解です」

 私は敬礼の真似事をして戯けて見せた。

「そういえば黒川さん遅いですね」

 私は部室を見渡しながら、聞くとは無しに呟いた。

 黒川さんは、存在感がある割に、部活の際にはいつの間にか部室にいたり、居なかったりする。

 神出鬼没と言うのとは違う。

 何というか、強いて言えば自由だった。

「今日は、来ないんじゃ無いですかねぇ。昨日は来てましたし」

 そんな三沢さんの言葉が黒川さんの本質をよく表していると思って、それを言葉で表現出来る三沢さんは凄いと思った。

 そして、私は再び投稿記事の整理を始める。


『新館、校庭側の花壇に献花っぽい花束が供えて有ります。

何があったのか調べてもらえますか? 1年1みやま 深山杏子きょうこ

 は?

 うちは、探偵部じゃないんだけど。

 先ほどからうんざりぎみだった事もあって少しムカついた。

 机の上で、処分用に集めてた記事の山に放り込もうとして手を止める。

 よく考えてみたら、これ――、なんか事件の臭いするよね。

 ホントに献花とかだったら、人の生き死にで不謹慎な気もするけど。

 それに、新館校庭側の花壇って――。

 私は、部室の窓から日の暮れかかった校庭を見た。

 そこには、春先の草木が芽吹く花壇があった。

「三沢さん!ちょっと行ってきます!」

「え?どこへ――」

 私は、呼び止めようとする三沢さんを置いて、外へ向かった。

 理由を話して、三沢さんとゆっくり調べれば良かったのだろうけど。

 何だか、わくわくしてしまって飛び出してしまっていた。

 大した事では無いかも知れないし、まずは自分の目で確かめようと思った。

 エントランスから外履きに履き替えて校庭側に回り込む。

 新館沿いに作り込まれた花壇を注意深く観察しながら歩いて行くと――。

 あった。

 本当にあった。

 そこには、枯れかかってはいるが、菊の花をメインにした仏花っぽいアレンジの花束が供えられるように置いてあった。

 軽く回りを気に掛けてみたが、花束以外の物は何も無いようだった。

 ふと、視線を上げると教室の窓の中が見えて、三沢さんと視線が合った。

 彼女が驚いたように目をまん丸にして私を見ている。

 驚いたのは、私もなのだが。

 なんと、コノ献花らしき物はうちの部室の真ん前に供えられていたのだった。

 ぜんぜん気が付かなかった。

 やがて、三沢さんはこちらに近づいて来ると窓を開け、顔を出した。

「何やってんの明神?」



「知らなかった。驚きました」

 三沢さんがやって来て、私の隣で献花を眺めながら言った。

「でも、これは不思議でも何でも無いよ。ありません」

 そう言って彼女は視線を私に移す。

 不思議じゃ無い?

 ここにある理由を知っているという事?

 理由を知っているのに、供えられているのを知らなかった?

「これ、何なんですか?」

 こんな尋ね方で良かったのかな。

 なんと尋ねればいいのか良くわから無い。

「これから嫌な話をするね。しますから――」

 そうして、三沢さんは話し始めた。

 去年、夏休みが明けてすぐ、1年生の男子が新校舎から飛び降りて自死したらしい。

 小さくニュースにもなったらしいのだが、遺書も無く理由は不明。

 いじめ等も確認できなかったため、新らしい高校生活のストレスと長期休暇明けでの心身不調のせいで、発作的に飛び降りてしまったのでは無いかとの事だったらしい。

 その男子生徒が倒れていた場所が――この辺りのはずだというのだ。

「私もあまり詳しくは知らないんだ。先生達はむしろ教えてくれなかった」

 三沢さんは花壇を指さしながらそう言った。

「事故は知ってた。もちろんです。でも、ここにお花が供えられていたというのは今まで知らなかった」

 多目的教室なんてあまり来ない教室だし、建物的にも隅っこの方だしねぇ。

 知る人しか知らないって感じだった?

 そういえば、去年の一年生という事は、三沢先輩の同期?

「亡くなった男子――親しかったんですか?」

 自然とそんな言葉が出てしまった。

「クラスが違ったからね。そんなに親しくは無かったケド、顔くらいは知ってたよ。それくらいは知っていました」

 三沢さんはそう言うと、無言で踵を返して歩き出した。

 私もそれに従うようにしてその場を後にする。

 申し訳ないが、あまり気分のいい場所では無い。


 次の日の朝。

 少し早めに学校に来た私は、自席のパソコンを起ち上げて例の調査の依頼主、深山杏子にメールを入れた。

 匿名でいい投稿に、わざわざ名前やクラスまで書いて来たと言う事は、調査の結果を教えて欲しいと言う事だろうと思ったのだ。

 隣のクラスでもあるので、直接話しに行っても良かったのだが、彼女と二人きりになれる訳では無い以上、他の生徒の前で話すにはあまり気分の良い話でも無かった。

 なので、メールで簡単に報告すればいいかと判断した。

 果して、深山杏子からは2限目終了後の休み時間に返信が来た。

 確認してみると、じつは調査を依頼したすぐ後に、偶然、クラスの担任から事故の話を聞き、(文字通り)自己解決していたとの事だった。

 今日の放課後にでも、その話を部室まで報告に行こうと思っていたとの事。

 本当に早速調査してくれて、わざわざ報告してくれたことに誠意を感じ感動したと書いてあった。

 何だか凄くうれしかった。

 最後の『またよろしくお願いします』の一言さえ無ければ――。

 うちは探偵事務所では無い。

 でも――。

 これがオカルト研究部の初実績と言う事になるのだろうか?

 だとしたら、複雑な気分だ。


 その後、私は一日の授業をそつ無くこなし、部室へと出向いた。

 部室には先輩達の姿はまだ無い。

 黒川さんはまたお休みかも知れないが、三沢さんは来るだろうと高をくくる。

 ポストの中に新しい投稿はなかったが、まだ何枚か目を通していない投稿があったはずなので、早速準備して作業に移った。

 

『学校にある二宮金次郎の像が夜な夜な動いて校庭を走り回っているそうです。

あと、しょっている薪の数が減ったりするとか』


 うんうん、王道の学校の七不思議だね。

 ……だーかーらー、うちの学校には二宮金次郎の像は無いんだってば!

 どこの話してんだよ!まったく。

 あなたの知ってる七不思議教えてくださいじゃ無いんだよ!

 最初からやる気がそがれる様な投稿を見て、ため息を付きつつ次の投稿に目を通した。


『うちの学校には裏サイトが有ります。

じつは、そのサイトが呪われていると言う噂あるのです』


 あれ?この『うちの学校』って方代高校の事?

 え?ノロイ?

 うわ、ハードなの来た。

 その投書には、まだ続きがあった。

 

『そこのサイトに書き込まれた人物は死んでしまうらしいです。そのサイトの名前は、ヒトノモリ』


 なんか、それっぽいのが――。

 裏サイトって何だっけ?

 聞いたことあるような、ないような。

 スマホで検索をかけてみて、出てきたいくつかの記事に目を通す。

 ……ああ、思い出した。

 なんか、自分の学校の校則や先生、生徒の不満や悪口なんかを書き込むインターネット匿名掲示板の事だ。

 SNSの鍵アカみたいな?

 そんなのってまだあるんだ?

 てか、この学校の裏サイトがあるって事?

『ヒトノモリ』?

 ヒトノモリを検索掛けてみる。

 そういう名前の会社のホームページしか出てこない。

 ヒトノモリ、方代高校で検索。

『検索条件と十分に一致する結果が見つかりません。』

 と回答された。

 ヒトノモリ、学校裏サイトで検索――。

 その後、思いつく限りいくつかの言葉ワードで検索してみたが、それらしいサイトは発見できなかった。

 面白そう。

 詳しく知りたいなあ。

 何とかこの投稿主と連絡が取れない物だろうかと手がかりを探して、投稿してくれた用紙をあちこち調べてみたが、それらしい物は何も無かった。

 なので、この投稿に関してはここで一度ストップせざるを得なかった。

 ひょっとしたら、先輩達が知っているかも知れない。

 三沢さんは知らなくても、黒川さんは、なんとなく知っているような気が――。

 期待が持てそうな気がする。

 そして私は、再び仕分け作業に戻ったが、それから数枚残っていた投書の内容は、どれもこれも私をがっかりさせるような物ばかりで終わってしまった。

 そのまま手持ち無沙汰になってしまった私は、ヒトノモリの事が気になりつつ窓の外をぼんやり眺めていた。

 『ヒトノモリ』

 投稿にはそうカタカナで書かれていた。

 意味するところは――。

 そのまま『人の森』?それとも『非トノモリ』とか、他に意味のある読み方があるんだろうか?

 そんなことを考えるうちに、春のうららかさも手伝い、夕焼けに浮かび上がる桜の幽玄な姿に誘われるように、私はうたた寝してしまっていたのでした。

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