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学校怪談は眠らない  作者: カンキリ
明神亜々子は七不思議の夢を見るか
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ぬりかべ

高校生活最初の昼休みが終わりに近づき、教室に戻ろうと早い足取りで廊下を歩いていた私、明神亜々子は、驚きのあまり思わず立ち止まった。

 あまりに予期せず不意打ちを食らったような止まり方だったので、ズレてしまった丸眼鏡の両端を指の腹で押さえ、元の位置に戻す。

 そうしてなお、まじまじと見直してみても間違いなかった。

 1年2組、私の教室の前にチンドン屋がいた。

 チンドン屋……では無い?

 そんな感じの、いや、むしろそうとしか例えようが無い女子が私の進行方向の廊下、窓側の壁に背を向けて立ち、外に咲き乱れる満開の桜をバックにした格好で、何やらチラシらしき物を配って居る。

 彼女は一人だったし、特にチンドン太鼓を叩いたり、鉦を叩いて人集めをしているわけでは無かったから、チンドン屋と言うのはちょっと違うかも知れないのだった。

 だが、身体が隠れるくらいに大きなダンボールの板に、模造紙を貼り付けて作ったであろう宣伝用の看板を自身の前後を挟むように取り付け、そこから頭と足の先だけを出して廊下にたたずみ、前を通り行く、目を合わせようとしない人達に、片っ端から声を掛けて居る姿は――あれ?

 なんかこういう人間広告塔みたいな人の呼び方ってチンドン屋じゃなくて、他にあったような?

 ……うんまあいいか。

 多分解らなくても試験には出ないだろうから困らない。

「そこの女子!」

 しまった。声を掛けられた。

 いつの間にか観察状態になってしまっていて目が合ってしまった。

「ちょっとお話聞いてくれないかなあ」

 まるで、キャッチセールスのような高めのテンションで、ショートヘアの涼しげな目元の印象的な人間広告塔が、親しげな作り笑いを浮かべ、小走りでコチラに近づいてくる。

 その姿は、妖怪のヌリカベを連想させた。

 身体を囲っている手作り看板の隙間から見えるダークブラウンのセーラー服で、この高校の生徒である事は間違いないだろう。

 怪しいけど怪しくない人だ。

 無視しようかとも考えたのだが、看板の隙間から僅かに見える首元のスカーフが赤色だったのを見て、そうも行かないと観念する。

 うちの学校の学年は女子は制服のスカーフ、男子はネクタイの色で判別できた。

 私、1年生は緑、そして、2年生が赤色で、3年生が紫だ。

 つまり、この女子は先輩という事になる。

 入学したて初っぱなから、上級生に目をつけられるというのはやはり避けたいと思った。

 えっ?

 いや、ちょっと待って――。この人先輩?

 うわあ、とんでもない高校に入っちゃったかも知れない。

 近づいてくるにつれ、前方の看板に書かれた文字が読み取れるようになってきた。

『オカルト研究部オカルト・ラボただいま部員募集中!今なら即レギュラー』

 大きく太い筆文字でそう縦書きされた文字の周りに、色とりどりのマジックで、壁画のように、UFOや水面から首を出すネッシー(たぶん)、宇宙人グレイとか謎生物とかのイラストが踊っていた。

 しかも、小癪にも何気にうまい。ちょっと感心してしまったのは不覚だ。

「こんにちは!」

 ヌリカベの先輩は、私の前まで来るとそう言って軽く会釈した。

 近くで見ると、私よりも幾分背が低くかわいい感じのヌリカベだった。

「私は、2年の三沢秋。よろしく」

 三沢先輩は、滑舌のイイ声でそう挨拶する。

 私は小さく頭を下げて応えた。

「ねぇ、貴方は何かやりたいことがあってこの学校に入ったの?」

「え?」

 三沢先輩の問いかけに、言葉を詰まらせる。

『私のやりたいこと』

 ハッキリ言って何も無い。

 この高校に入った動機?

 セーラー服を着たかったからだ。

 すまない。

 だけど、実際の話、中学生で自分の将来を考えて、キチンと高校の進路先を決める人なんて居るんだろうか?

 少なくても、私は出来なかった。

 進路指導で先生からいくつかの選択肢を提示された私は、唯一セーラー服が制服だったこの、私立方代高校への入学を希望したのだった。

 ただし、この高校は『私立』だった。

 両親は『公立』を希望していたため、ダミーで公立の高校を受験し、滑り止めという体でコチラを受けた。

 あとは、試験の力の入れ方を逆さまにして受験し、見事にセーラー服を手に入れたのだ。

 そんなアオハルならぬクロハルのような甘苦い思い出が頭に浮かぶ。

 なので、『貴方は何かやりたいことがあってこの学校に入ったの?』と言う先輩の言葉には、何か色々見透かされたような気がしてどきどきした。

 こんな私は彼女の問いに何を語ればいいのだろう?

 この、チンドン屋っぽいかわいいヌリカベの先輩に――。

 黙りこくってしまった私に、先輩は幾ばくか当惑しているようだったが、何事か思いついたように口を開いた。

「ごめん、ごめん。言葉……足りなかったね」

「?はあ」

 私は、ますます困惑していた。  

「部活!部活よ!もうどこか入りたい部活を決めてるかって話。やりたい部活があってこの高校に入ったとか、やってみたい部活があるとか、じつは、もう出来たとか――」

 ああ、そうだ。三沢先輩はチンドン屋だった。

 ひょとして部活の勧誘がその目的だった?

「特に部活は考えていません」

 私はセーラー服が着たかっただけなのだ。

 三沢先輩の目がきらきらと――いや、ギラギラと輝き出したのが解った。

「じゃ、じゃじゃじゃじゃあさ、オカルト研究部に入らない?入ってみない?とりあえず3ヶ月だけでも?」

「は?」

 先輩の勢いに、色々と思考が追いついていかない。

「ダマされたと思ってとは言わない。むしろ失敗する事を恐れてはいけない!若いんだから、何事も経験!そう!経験」

 何だか面白そうだと思った。

 いや、その気持ちは、部活への関心と言うよりは、この先輩への興味だった。

 友達になれたら面白いかも知れない……ちょっとウザいけど。

「オカルト研究部!通称オカラボ!私が決めた!」

 そう言って先輩は持っていたチラシを一枚、私に突き出して続けた。

「あなた、お名前は?」

 言われて私は「1年の明神亜々子です」と答えた。

「さあアケガミ・アアコ、ここにあなたの名前を書くのです!記入をお願いいたします!」

 渡されたチラシだと思った用紙は、部活動への入部希望申請書だった。

「今はね、部員が少ないの。でもさ、人が少ないって事は出来ることは限られる反面フットワークは向上するかんね。そのフットワークの良さを使って今度の文化祭では、もの凄いことをやろうと思ってるよ!」

 自分の世界に入り込み、何事かを熱弁する先輩の話を聞き流しながら、私は廊下の壁に用紙を押しつけた格好で、持っていたボールペンで申請書に記入したのだった。

 ちょうど書き終えた時、昼休み終了のチャイムがなったので、まだ己の世界で弁舌を振るっている先輩に手渡すと、放心したような表情で、私と申請書を交互に見返す先輩をそのままにして教室に駆け込んだ。

 暫くして、廊下からもの凄い叫び声と壁に何かがぶち当たる音が聞こえたかと思うと、 教室の前方入り口の扉が勢いよく開き、息を切らした三沢先輩が大股で立ちはだかって叫んだ。

「ありがとう!明神亜々子!また後で連絡する!」

 三沢先輩がそう言って、旋風のように走り去った後、私は、教室中の視線を浴びながら、ほんのちょっと、後悔の念を抱いていた。


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