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3-4 アガルタの子

顔見知りばかりの小さなこの島にスーツを着た見知らぬ人がやってきた。

しかも今日は一人。髭を生やしたダンディな人。

綾子は食材の買い出しで外出していたため、俺と飾音と星司の三人で対応することになった。

リビングの椅子に座り、眼鏡のブリッジを指でくいっとあげた後、その男性が口を開く。


「先日はUWLを解散に追い込んでいただき感謝いたします。本日はそのお礼が言いたくてやってきました」


どうして知っているのだろう。

つい昨日のことだしニュースにもなっていない。


「実はあの日、私もあの現場にいたのです」


怪訝な表情のままみんなで顔を見合わせた。


「上空から様子を見ていましたが、まさか平和なこの国で銃撃戦が行われるなんて思いませんでしたよ」


この人が言うには、あの施設の中に大事なものがあり、それを取り返すためヘリに乗って機会を伺っていたという。

緊迫した状況だったし上空を見ている余裕なんてまったくなかったから全然気がつかなかった。


「あの、あなたは?」


「申し遅れました。私はジェスター・ブレイク・コールマンと申します」


コールマンという名前どこかで。

思い出そうと記憶を辿っていると、横に座っていた飾音が口を開く。


「もしかして、コリーナさんとジオさんのご子息ですか?」


「えぇ」


「どうしてあの島に?」


「私には四歳になる息子がいるのですが、その息子が先日UWLに誘拐されてしまいまして。急いでヘリをチャーターして助けに行ったときあの銃撃戦がはじまったのです。みなさんのおかげで無事助けることができました」


その息子というのは金髪で垂れ目のかわいい顔した子で、銃撃戦のときシュラヴァスとファルシスの影に隠れていたあの男の子のことだ。

ジェスターさんたちは家族でオーストラリアから東京に観光でやってきていたが、ホテルで寝ているときに息子が誘拐されたという。

UWLは誘拐などを得意とするスパイチームを金で雇い息子を連れ去ったという。

その後、あのカプセルに入れられ身体中を調べられたらしい。


「妻まで危険な目に遭わせるわけにはいかなかったのでホテルで待っていてもらいました。いまは息子と一緒にキャンベラにある家にいます」


ジェスターさんは息子を助けた後、妻とともにオーストラリアに帰ったが、俺たちに一言お礼が言いたくてわざわざ来てくれた。


「息子さんが狙われたということは、あなたたちの体内にもメタンハイドレートが?」


「たしかにジオの末裔ですが、私たちにはそのような要素は持ち合わせていません」


「では憶測だけで息子さんを?」


「おそらく。我々含めたコールマン家とその血縁関係にあるものたちは数年前から彼らに狙われていました。おそらくジオの血を引いているため、みなメタンハイドレートがあると思われていたのでしょう」


やつらは世界中を回りジオの子孫を捜していた。しかし、この時期になってから急にブルータルになった。

いよいよ切羽詰まったのだろう。

大人だと抵抗されたりして何かと面倒なため、小さな子供を狙っていた。

ジェスターさんはあの霧の中、上空から助けに行こうと機を伺っていたとき、突如銃撃戦がはじまりルカの力によって施設が燃えたため、急いで助けに行ったそうだ。

それにしても、UWLの連中がそこまでメタンハイドレートに固執する理由がわからない。

彼らは地底人の存在を証明し、新しい文明の発展につなげる目的で創られた研究チーム。

それがいつの間にか資源を独占して展開する方に(かじ)が向いた。

俺は頭が悪いから地球から資源がなくなるなんて言われてもピンとこないし、ここまでしなくても他にも代わりとなるものはありそうだって思う。

どちらにせよやつらがやったことは許されない。

ルカやジェスターさんの息子だけじゃなく多くの人を傷つけたのだから。


「私たちもアガルタについて調べているのですが、出てくるのはどれも空想の話ばかりで真実からは遠くかけ離れているのです」


アガルタに関する記録はコリーナの体験談のみのため、身内の中にはジオがアガルタ人であることすら疑いはじめている人も出てきているようだ。

俺はやつらが持っていたレポートの話をすると、ジェスターさんは眉間に皺を寄せ、渋い表情を浮かべた。


「……なるほど。その知り合いというのが誰かは存じ上げませんが、おそらく多額のお金で買って手に入れたのでしょう。ジオの血を引くものとしてはあまり良い気分ではありませんね」


子孫としては先祖の想いを踏み(にじ)られたことになる。

ましてやそれがお金というものがからんでいるからなおさら気分の良いものではない。

UWLはアガルタ人からメタンハイドレートを抽出できることが証明されれば日本は豊かになり世界も救えると考えた。

ただ、それをアガルタ人が望んでいるかは一切頭にないだろう。


「ジオには不思議な力がありました。瞳の色が変わるとその土地や周囲に影響を及ぼします。しかし、それは最初に出会った一度だけと聞きます。どうして発生しなくなったのかは我々にもわかりません」


(やっぱりルカちゃんとジオさんってつながってのかな?)

(もしくはシャンバラールとオスティアノックスはつながっているとか?)

(だとしたらちょっと素敵ね)


「どっちでもいいよ」


飾音と星司のひそひそ話に少し冷たい言い方をしてしまった。

今回の一件で正直辟易(へきえき)としていた。

大人たちの勝手な思惑で子供達を巻き込んで、欲しいものを手に入れるためにおためごかしを言ったり強引に拐かしたり。

アガルタとかメタンハイドレートとか関係ない。

ルカは大事な家族であり、ルカの故郷はウィリディスだ。

俺たちは彼女が無事星に還れるようにしてあげればいい。


あれからジオ以外のアガルタ人は一人も見つかっていない。

子孫である彼らもごく普通の生活をしている。

あの島で偶然にも出会ったシュラヴァスとファルシスにも伝えてほしいと言われ、お礼を言って家族のもとに帰っていった。


**


UWLの施設が燃えてから二日後、キルケアに呼び出され一階に降りると、そこにはシュラヴァスとファルシスがいた。

状況が読めず俺たちは顔を合わせている。

あの日二人はたしかに施設にいた。

実際に施設が燃えた様子も見ていたけれど、どうして生きているのだろうと疑問に思う。

足の応急処置を終えたキルケアは一日だけ部屋で休み、その後二人と合流している。

二人はウィリディスの中でも名のある元傭兵で、軍事訓練を受けていたため銃の扱いには慣れていた。

ジェスターさんの息子を助けた後、海に飛び込み、泳いで奥湊に戻ってきたようだ。それをわかっていたのか、キルケアは海辺で彼らの帰りをじっと待っていた。

せっかくだから一緒にごはんを食べることになった。

元傭兵と訊いていたので気難しい人たちかと思っていたが、よく笑うしよくしゃべる。冗談も言うしコミュ力が高くて正直びっくりした。

飾音はファルシスが相当タイプだったようで、彼の顔を見て終始目をキラキラさせていた。

まったく、わかりやすいやつだな。

少しして、手続きを終えたえなかがこっちに戻ってきた。

そういえばえなかには一連のことを説明し忘れていた。というより、すでに知っているものだとみんな思っていたから彼女は少し混乱している。

実際に宇宙船を見せたら誰よりもテンションが上がっていて、まるで夢の国にはじめて来た子供のようだった。

あの日二人がどうしてあそこにいたのかというと、UWLの施設の中に宇宙船を直すための道具があることを突き止め、彼らの船に乗り込み施設内を調べるため潜んでいた。

ずっと捜していたのにまったく見つからないわけだ。

それを入手して外に出ようとしたら追いかけられているジェスターの息子を見つけた。

逃がそうと裏から出ると、あの銃撃戦がはじまった。

ちなみにライフルは施設から盗んだもの。

二人によると、あの宇宙船は俺たち素人では理解できないほどに高性能なため、超新星爆発でも起きない限り壊れることはないそうだ。

隕石やデブリがぶつからないよう自動的に回避するようシステム化されていて、目的の座標を設定すればオートメーションで目的地に着陸するよう設計されているが、地球に降下する直前で小さな隕石をかすめたことで不時着した。

そのかすめた場所が悪く、通信機器含めたメインエンジンのすぐ近くだったことで座標がずれてしまったそうだ。

シュラヴァスとファルシス曰く、実は過去にも一台同じようなエラーが生じたことがあり、そのときと同じ状態ではないかと推測している。

おそらくメインエンジンの周りに負荷をかけすぎている可能性が高いが、現状、真意はわからない。

二人は失踪したわけではなく、日本のデータを集めつつ、今回のような不測の事態が起きたときの対処法を習っていて、キルケアはルカのお()り役のためその際の動きをただ伝えていないだけだった。

結果的に再会できて良かったが、長いこととんでもない肩透かしをくらった気がしてならない。

ただ二人との再会にルカはすごく嬉しそうにしていて、交互に頭をポンポンとされ瞳の色は黄色く染まっている。

引きずるキルケアの足を見て、ゆっくりと抱き抱え、傷口の足を軽くさすると、彼の瞳孔が一瞬大きくなる。

すると、怪我していたはずのキルケアの足が一瞬にして治った。

二人はそのまま宇宙船を修理すると言って山に向かっていった。

修理が終わり次第彼らはウィリディスに戻ることになる。

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