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言の葉の憧憬  作者: 九重 ゆりか
言の葉の憧憬
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act.5-2 もうひとつのがんばり

一瞬だけ吹き抜けた夜の風が、頬を撫でる。



冷たい感触に目を覚ましたあたしは、

毛布をきゅっと握りながら辺りを見回す。

静けさばかりが広がる夜。それは、ここに一人であることを強調しているかのように

寂しさが強く襲う。



巡る思考に釘を刺し、よっこいしょと立ち上がる。

身につけていた服は整えられていて、おなか辺りに置かれた湯たんぽがまだほのかに温もりを持っていた。


「えへへ。心配性なんだから」


思わず口にした想いは、冷えるはずの夜を温めるように周囲にこだました。



外に出ると、焚き火の炎が消えかけているのが目に入った。

棚から乾燥させた枝を何本か取り出し、焚き火に放り込む。


炎が弱すぎるのか、まだ燃え広がるには一手足りないようだ。


「ううううん……どうしよ~……」


しばらく考えていると、ある一つの道具を思いつく。


「そうだ!ノートをちぎれば!」


カバンを開け、ノートを取り出す。

可愛らしい丸文字で構成されたページとは別に、黒く汚れたページを出す。

消えない油性ペンで書き込まれた心無い言葉達が、そのページ染め上げている。


こみ上がる胃液を抑え込み、そのページをちぎり取る。

寒さとは別の震えが体を支配する。


「…… 平気。あたしはだいじょうぶ。」


汚れた紙を、小さな火へと運ぶ。

小さな火は少しずつ大きさを変え、汚れた紙を侵食していく。

やがて炎となったそれは、枝に広がり、焚き火として機能するようになった。


広がる炎が映り込む瞳には、小さな雫が浮かぶ。

くしくしと雫を払い、呼吸を整えてから、眩しい笑顔を作る。


「笑っておかえりって、言ってあげないとね!がんばれあたし!」


そう言って自分を奮い立たせ、カチャカチャと支度を進めていく。




少女のもう一つの一日が、始まる。


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