act.3 ばんそうこう
暑苦しい燃え盛るような太陽は、さらに赤みを増し
街並みの向こうへと沈みかけている。
それを追いかけるように、暗く淀んだ雲が連なっている。
私の腕に貼られたかわいいうさぎ柄の絆創膏が
世界の光を鈍く反射していた。
「へへ、でもビックリしちゃったよ!いきなりことは、血ぃ出しながら倒れちゃうんだもん!……」
明るそうに振る舞ってはいるが、
私が"ああ"なってしまったときは
梨佳はいつも悲しそうに笑う。
「もう……慣れたわ。」
安心させてあげようと思った。
実際、この現象にはもう慣れっこだ。
けれど、次に意識した瞬間、私は壁に押し付けられていた。
「ばか……ばかぁ……そんな悲しい事、言わないで……」
「梨佳……ちょっと……あ、暑いって……」
ぎゅっと縮まる距離。
目の前の少女は、
私の胸に顔をうずめて小さく声を上げている。
「梨佳、梨佳?ねえ、大丈夫だってば」
ぽふ、と、華奢な拳が私の胸を揺らす。
「あたしはっ……慣れないよ……ことはが苦しんでるのなんて、慣れたくないよ……!なのに、どうして分かってくれないの!」
次第に、触れる強さが増していく。
梨佳のこんな取り乱した姿を見るのは初めてだった。
心のざわめきが、私の視界を遮るようにゆらめく。
その間にも、触れる強さはざわめきの強さと比例するように増していく。
「梨佳……痛い…………」
自分でもどれ程の強さで押していたのか気付いていなかったのか
梨佳は目を丸くした後、うつむきながら後退した。
頬に一筋のしずくが滴る。
それは地面を、アスファルトを、私たちを、そして世界を濡らしていった。
「……帰ろ」
梨佳の言葉は、濡れた絆創膏のようにひどく曇っていた……。