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言の葉の憧憬  作者: 九重 ゆりか
言の葉の憧憬
3/16

act.3 ばんそうこう

暑苦しい燃え盛るような太陽は、さらに赤みを増し

街並みの向こうへと沈みかけている。

それを追いかけるように、暗く淀んだ雲が連なっている。

私の腕に貼られたかわいいうさぎ柄の絆創膏が

世界の光を鈍く反射していた。


「へへ、でもビックリしちゃったよ!いきなりことは、血ぃ出しながら倒れちゃうんだもん!……」



明るそうに振る舞ってはいるが、

私が"ああ"なってしまったときは

梨佳はいつも悲しそうに笑う。


「もう……慣れたわ。」



安心させてあげようと思った。

実際、この現象にはもう慣れっこだ。

けれど、次に意識した瞬間、私は壁に押し付けられていた。


「ばか……ばかぁ……そんな悲しい事、言わないで……」


「梨佳……ちょっと……あ、暑いって……」



ぎゅっと縮まる距離。

目の前の少女は、

私の胸に顔をうずめて小さく声を上げている。



「梨佳、梨佳?ねえ、大丈夫だってば」


ぽふ、と、華奢な拳が私の胸を揺らす。


「あたしはっ……慣れないよ……ことはが苦しんでるのなんて、慣れたくないよ……!なのに、どうして分かってくれないの!」



次第に、触れる強さが増していく。

梨佳のこんな取り乱した姿を見るのは初めてだった。


心のざわめきが、私の視界を遮るようにゆらめく。

その間にも、触れる強さはざわめきの強さと比例するように増していく。



「梨佳……痛い…………」



自分でもどれ程の強さで押していたのか気付いていなかったのか

梨佳は目を丸くした後、うつむきながら後退した。


頬に一筋のしずくが滴る。

それは地面を、アスファルトを、私たちを、そして世界を濡らしていった。



「……帰ろ」



梨佳の言葉は、濡れた絆創膏のようにひどく曇っていた……。


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