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言の葉の憧憬  作者: 九重 ゆりか
言の葉の憧憬
2/16

act.2 ゆめ

どこまでも続く深い闇の中、私は目覚める。

辺りを見渡すが、何もない。

またか……とだけ心の中で呟く。そして、前も後ろも分からない深淵へと歩きだす。



深い闇の夢。そう、ここが夢の世界である事を私は認識している。

幼い頃から定期的に見る不思議な夢。

ここには、視認出来る情報は一切無く、うめき声や笑い声、鳴き声、ひそひそ話をする声といった音が延々と広がっている。

頬をつねってみたり、自分をたたいてみたりもしてみたが、夢から覚めるには至らなかった。


だが、夢から覚める時に必ず聞こえてくる、音の法則があった。

その法則を見つけ出す為に、毎回こうして闇の中を歩いている。



「お前なんて産──」


「あなた、とても気───わ」


「──んでしま───のに」



私をとりまく声は、次第に大きくなっていく。

その中には、私の声も混じっていた。



「私だって────れてきた訳じゃない」


「じゃあ教え──────ねる方法を」



吐き気を催す程憎悪に満ち溢れた私の声が脳を支配する。

私は、声に反論するべく声を上げようとした。

しかし、私の口から発する言葉は、音として響くことなく

全て闇に呑み込まれてしまう。

この夢の中の声に、声を掛けられないのだ。


悔しさと、切なさと、色々な感情がごちゃ混ぜになり、涙が溢れてくる。

私の心が崩れそうになったその瞬間、法則はやってきた。



怨嗟の無い、暖かな声。私が一番好きな声。

その声は私を闇から掬いあげ、ゆっくりと上昇していく。

安堵すると共に、私は闇の中の声に想いを馳せる。



「そん────いよ」



─────────────────


次に目を開くと、夕暮れの教室だった。

無意識に引っ掻いていたのだろうか、腕や頬に鋭い痛みが走る。



「ことはっ…………?」



震えた声に、私はゆっくりと顔を上げる。

笑顔が特徴的な彼女の表情は、暗く曇っていた。

私に触れるその手は、荒くなった呼吸のせいでひどく震えていた。

じっとりといやな熱が滴る。汗と涙と血が入り混じり、頬を濡らしていた。


狂おしく愛おしい声が私の名を呼び続ける。

私はそれに応えるように、少しずつ身体を起こしていく。

───が、途中で緊張の糸がプツリと切れたように、

大きく横へ身体が倒れてしまう。


柔らかな感触と、だいすきな香りと共に

私の身体は動きを止めた。



「ことは……もう───」



大丈夫だよ、と言いたかったのだろうか。

言葉が掠れて、聞き取ることは出来なかったけれど

紡がれなかったその言葉は、

私の胸を 深く満たしていった。


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