表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言の葉の憧憬  作者: 九重 ゆりか
言の葉の憧憬
12/16

act.11 ほんとのきもち

病室のベッドに、私はそっと身を横たえた。天井を見つめる瞳には、先ほどまでの出来事が残像のように焼き付いている。


隣に座る梨佳が、静かに口を開いた。


「・・・よく、頑張ったね、ことは」


その言葉に、目を瞬かせる。温かくて、優しい声色だった。


「苦しかったでしょ。怖かったでしょ。それでも、ちゃんと伝えられたね」


「梨佳・・・」


指が、布団の上でかすかに震える。


「・・・梨佳も、すごく、頑張ったんだよね」


梨佳の肩がわずかに揺れる。


「・・・ううん。あたしは、ただ・・・ことはのために、って。でも、それで間違えたんだ」


苦笑とも悲哀ともつかない表情が、梨佳の唇に浮かぶ。


「言葉じゃなくて、力ずくで動かそうとしちゃった。でも、そんなの……ダメだよね」


自嘲するような声色で梨佳は言う。

私は、小さく首を振って、眼の前の震える瞳を見据えた。


「違う・・・梨佳は、言葉でちゃんと、動かしてた・・・ずっと・・・」


梨佳の目が、大きく見開かれる。


「私も・・・変われる、かな?」


不安に震える問いかけ。それを乗り越えたいという想い。


梨佳は息をのんだ。そして、私の手をそっと包む。


「・・・変われるよ。絶対に」


その確かな言葉に、喉が詰まる。


「梨佳は・・・」


それでも。絶対に伝えたい。

今のホントの気持ちを。


「過去でも、夢の中でも、そして今でも。ずっと・・・助けてくれた」


瞳を開き、まっすぐに梨佳を見据える。


「梨佳は、私の・・・お陽さまだから」


梨佳の唇が、わずかに震えた。


ゆっくりとまぶたを閉じる。


瞼の裏に広がるのは、漆黒の影たち。歪んだ姿の記憶、恐怖の象徴。今までずっと自分を縛りつけていたもの。


 ――もう、いいよ。


脳裏で、そっと告げる。影たちは波紋のように揺らぎ、そして静かに溶けていった。


影が薄れゆく中、私は再び目を開き、眼の前の震える少女に向き直す。

そして、私は。


「・・・今まで、ずっと、ずっと、支えてくれて、ありがとう」


眼の前の少女の瞳に、小さな雫が浮かぶ。


「それで・・・その・・・これからも、ずっと一緒に居たいって、心からそう思うの・・・。」


口元に指を添えて震える少女は、ぽろぽろと涙を零す。


「梨佳・・・大好きだよ」


――――――――――――――――――――――――――






――その言葉は、嘘偽りのない、心からのものだった。


あたしは、それを聞いて息をのむ。


今まで、ずっとそばにいた。支えてきた。言葉にならない想いを、何度も汲み取ってきた。


でも今、目の前の琴羽が。

自分の心で、自分の言葉で。

「好き」と伝えてくれた。


それが、どれほどの意味を持つのか。

胸の奥が、熱くなる。


嬉しさと、ほんの少しの寂しさ。

それでも、梨佳は心の底から、努力は無駄じゃなかったのだと実感する。


色々な感情が入り混じる中、こぼれる涙さえ気にならないくらいの笑顔を浮かべる。


「・・・うんっ!!あたしも、だいすきっ!ずっと、ずーっと、一緒だよ・・・!」



気持ちを、ありのままにさらけ出した。






琴羽の瞳に、温かな光が宿る。

今まで薄暗く感じていた世界も、今は眩しく感じる。


二人はそっと、互いへと身を寄せ合う。

唇が静かに、触れ合う。


ふわりと、琴羽の髪が揺れた。

梨佳の頭の包帯が、ゆるりと解け、ベッドに落ちていく。

カーテンが、夜を告げるやわらかな風にそよぐ。



それは、まるで二人の想いが満ちた瞬間、世界が優しく揺らいだかのようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ