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言の葉の憧憬  作者: 九重 ゆりか
言の葉の憧憬
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act.1 うちゅうぐみ

ハッキリ言って、夏は嫌いだ。

降り注ぐ日光は身体の水分を奪い、

雨が降っても蒸されるような熱気が身体を蝕む。

その暑さに負けて、「暑い」なんて言葉を言おうものなら

尚更暑く感じてしまう。単純な思考回路だ。



紡ぐ言葉には、いろんな力がある。

友情を築き、愛を育み、仕事が成立し、世界を変える。

逆に、人間関係を崩し、愛する者をも傷つけ、世界を壊す。

口は災いの元、とは良く言ったものだと、私は思う。



クラスメイト達が次々と暑さを嘆く中、私……卯月 琴羽(うづき ことは) は、

一人何も言葉にすることなく窓の外を眺めていると、

耳元で甘ったるい甲高い声が私の脳を揺さぶった。



「こ~とはっ!カルピス買ってきたよ、一緒に飲も~?」



私は、窓の外の景色から目を逸らさずに答えた。


梨佳(りか)……どうせ1本しか買ってないんでしょう?」


「たは~!見もしないで当てちゃうなんて、さっすが~!」



梨佳と呼ばれた少女は、冷ややかな言葉にも揺るがず笑顔を向けてくる。陽だまりのような微笑みに、いつも私は負けてしまう。


星井 梨佳(ほしい りか) ……彼女とは、保育園の頃からの長い付き合いだ。いつも私の傍に居て、いつも日陰のような私にまぶしい笑顔で接してくれる、唯一友達と呼べる存在だと思う。



「でもでも!飲みたくてしょうがないんでしょ~?顔がそー言ってるもん!」



じっと見つめてくるその表情は、流れ星のように光って見えた。



「もう、次の授業は私と違う教室でしょ。行かなくていいの?」


「あー!やば!忘れてた!!」



甲高い声で悲鳴を上げながら目をまんまるくしている、まるでハムスターから餌を奪った時のような可愛らしい表情だ。

そんな梨佳の顔を、少しだけ微笑みながら見てしまう私が居た。ひょっとして私って、意地悪なんだろうか?


そんな事を考えていると、こくこくと喉を鳴らす音が聞こえる。



「んはぁ~!生き返るぅ~!じゃ、あたしの分飲んだからあとあーげる!じゃね!」


そんなことを言うと、梨佳は飲みかけのカルピスを私の机に置き、超速で走り去ってしまった。

梨佳の飲みかけ……少しだけ意識してしまう私が憎い。



「あー、宇宙組うるせぇなー、暑苦しくてたまんないよ」



クラスの男子の一人が、私達の行動を見てわざとらしく声を上げる。

私達はクラスから、卯月と星井、月と星で宇宙組なんて呼ばれている。

私はその呼び方はあまり好きじゃなかった。

月も、星も、輝く恒星によって光る事が出来る。

まるで、私達が暗い存在だと言われているみたいで居心地が悪い。

梨佳は、あんなにも私を照らしてくれているのに。


そんな想いからか、いつしか怒りの表情を浮かべてしまっていたらしく、周囲がざわめいてしまった。

深くため息をつき、私は今日も窓の外を眺める。


まぶしい太陽に、あの子の面影を重ねながら……


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