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春は別れの季節

作者: 雪月フィア

 ぽかぽかとした春の日差しを浴びながら、校門で人を待つ。今日は卒業式、こうしてその人を待つのもこれが最後になる。

 ぼんやりと待っていると、弾んだ声を響かせながら、友人であろう人達と談笑しながら歩く卒業生たちの姿が、まばらに見えはじめてきた。そろそろ先輩たちはみんな、学校じゃない所で卒業を祝ったりするのかな、来年は私もああしてるのかななんて思いながら。

「お、いたいた。待たせたな」

 眠くなってきたなぁ、なんて思ってたら待ち人が来た。今日卒業した先輩で、幼馴染で、恋人の彼が申し訳なさのかけらもなさそうな調子で、片手をあげて声をかけてきた。

「本当に待ったんだからねっ」

「はいはい。でもあんまり早くは来れないって昨日から行ってただろ~?」

「うっ……それは、そうだけど……」

 そう、昨日の夜には卒業式が終わった後クラスメイト達と騒ぐから、先に帰ってていいと言われていた。でも、こうして一緒に帰れるのは今日で最後だから、一緒に帰りたいって私のわがままに付き合ってもらってる。

 こういうわがままを言うのにもちゃんと理由はあって、彼は進学を機に遠くで一人暮らしをすることになってる。それで会えない時間が多くなるから、ちょっとでも一緒にいたいなって思ったから。可愛いわがままだと思う、多分。

「とりあえず帰ろうぜ」

 そう言って自然と差し出してきた手を握って、家へと向かって歩き出した。


 まだ花の開いていない桜の樹の下を、手を繋いで歩いて行く。こうして並んで帰るのも今日が最後になるのかな、なんて思いながら、彼に他愛のない、だけどもちょっと気になっていることを聞く。

「クラスの人たちとどういう事してたの?」

「別に特別なことはしてないな。担任に色紙渡したりだとか、あとはジュースで乾杯したりな」

「結構楽しそうだねぇ……なんだか憧れちゃうな」

「どこにだよ。憧れるところあったか?」

「全部」

 そう言えばなんだそれ、って言いながら笑われる。その顔もかっこいいなとも思うし、全部憧れるのもそう。来年自分がそんな楽しそうな事してるのなんて、想像もつかないから。

「まっ、憧れるならやってみたらいいんじゃないか? 一生に一度しかないんだしな」

「えっ」

「お前がみんなに声かけてさ、そういう事やればいいんだよ」

 と言った後付け足すように、クラスのメンツ次第だろうけどな、と続けた。自分で声をかけるって発想はなかったかも……。誰かがやるだろうって思ってたな。

「私が声をかける、かぁ……。考えてみてもいいかも」

「そうしてみな。考えるだけならタダなんだから」

「確かにねぇ……」

「ま、でも無理はするなよ。相性とか色々あるわけだしな」

「わかってるよ」

「あと考えすぎるなよ~? お前、考えすぎるところがあるしな」

「うっ……」

 否定できないから困る。


 話してるうちに家の前まで着いてしまった。なんだかいつもより早く着いた気がするし、すごく名残惜しい。

「あーあ、やっぱり離れるの寂しいなぁ」

「そうか~? 俺はやっと離れられて清々するけどな」

 なんて冗談めかして笑う彼に少しむっとする。冗談だってわかっててもむっとしちゃう。

「ちょっと~? 冗談でも恋人に言う事じゃないでしょ!」

 軽く背伸びをして、横に立つ彼の頬を軽くつつけば、わるいわるいって軽い調子で返って来る。

「でもお前も同じ大学に来る予定なんだろ? なら離れるって言ってもたったの一年じゃねぇか」

 それに長期休みには帰って来るし、なんて笑う彼にわかってないな~って思う。今まで毎日会えてたのに、それがなくなるなんて寂しいに決まってる。彼も寂しいと思ってくれたらいいのに。まぁ、そう思うような性格じゃないのもよく知ってるけど。

「その一年が大きいのっ」

 ぷいっと顔を背ければ隣からクスクスと笑う声が聞こえる。

「あっという間だって。まっ、一年後同じ大学に通えてるかはお前次第だけどな」

「うっ……」

 痛い所を突かれて声が出る。今の所は成績的に問題ないけど、ちょっと油断すると危ないかもなって感じ。いや、油断しなきゃいいんだけどね。高校生活最後だからって羽目を外す予定も今の所ないし。

 なんて考えてると不意に頭をぽんと撫でられた。びっくりして見上げると微笑んだ表情の彼と目が合う。やっぱりかっこいいなぁ……。

「ちゃんと勉強して、合格しろよ」

 って優しい声で言うから、少し恥ずかしくなって、顔に熱が集まって来るのを感じる。ずるい。いつも私ばかり照れさせられてる気がする。それも悪くはないんだけど。

「わかってるよっ。ぜーったい合格するから、待っててよっ」

「期待してる」

 恥ずかしさから少し強がって言えば、いたずらっぽく、だけど嬉しそうに笑ってそう返してくる。こういう表情も好きなんだよなぁって思うと、頬が緩くなっちゃう。


 突然彼が何かを思い出したかのようにそうだ、と声を出した。なんだろうって思って首をかしげて彼を見てると、制服のポケットをごそごそと漁っている。

「手出して」

 探しものを見つけたのかそう言われる。大人しく手を出すと、制服のボタンがそこに乗せられる。手から目を離して彼の顔を見ると、どこか照れたような顔をしてた。

「忘れないうちに渡そうと思って。……こういうのって、やっぱ大事だろ」

 恥ずかしいのか目を逸らしてそういう彼がなんだか可愛くて、こうして第二ボタンをくれるというのも嬉しくて、声を出して笑っちゃう。

「えへへ……ありがとっ! 大事にするからねっ」

 そう伝えると、ん、と短く返って来た。私ばかり照れさせられてると思ったけど、普段見せないだけで彼も恥ずかしがったりしてるんだなって言うのが、よくわかった。付き合いは長いけど、恋人になったのは結構最近だから、そういう所は初めて知ったな。

 帰ったらキーホルダーにでもしようかな。そうしたらずっと持ち歩けるし。あ、でも落としたりしたら悲しいし……部屋に飾っておくくらいがいいかなぁ。

「まぁ、卒業したと言っても、引っ越すまで時間もあるし。それまでデートにも行こうな」

 そう言えばそうだった。一緒に下校できるのが最後だから、しんみりしてたけど、まだそうなるには早いかも知れない。

「もちろんっ。行きたいところいっぱいあるんだよね」

「へぇ、それは楽しみだな。じゃあ後で空いてる日送っておくな」

「わかった。連絡待ってるよ。それじゃあ、またねっ」

「おう、またな」

 手を振り合ってお互い家に入る。そして部屋に戻って、貰った第二ボタンを失くさないように、机の目立つところに置いておく。キーホルダーにするには材料がないし、今度時間がある時に買いに行かないと。それまでは何かに入れて保管しておこっと。

 制服から部屋着に着替えて、そのままスマホ片手にベッドへとダイブする。ゆっくりする時間はあるから、今のうちにどこ行くか考えておこうっと。彼と相談するためにも、いくつか候補出しておきたいしね。こうして考える時間もやっぱり好きだから、離れちゃうと減るのかなと思うと、やっぱりちょっと寂しさはある。だからその寂しさを埋められるように、出来る限りデートして、いっぱい楽しまないとね。

 不意にスマホが鳴った。誰だろうと思い通知を確認すれば、彼からの連絡で少し嬉しくなる。早速空いてる日を送ってくれたみたい。運悪く予定が被っちゃってる日もあるけど、思ってた以上にいっぱいデート出来そうかも。

 ありがとう、のスタンプだけまず返して、さっき調べた候補をまとめる。結構な数になっちゃったけど、全部送って大丈夫かな……。まぁ、大丈夫かな。

 まとめた候補を送ってから、ベッドから起き上がって軽く伸びをする。そのまま息を吐いて、窓の外に視線を移す。あとひと月も経てば桜が開花して、綺麗な花が見られるし毎年彼と一緒に見てるけど、彼の引っ越し日の関係で今年は見送りになっちゃった。仕方がないんだけどね。

 来年は一緒に見られるといいなぁ。

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