路上に死ぬネズミは忘れ去られる
雨音が好きだった。
多分僕の中の遺伝子が、「狩に出かけなくていいよ、今日はお休みなさい」と言ってくれるからだ。
それとは違うと思うけれども、大振りではない雨の日、車のタイヤがアスファルトを転がる音も好きだった。
そんな音を聞きながら、無言の心を楽しみ大通りを歩いていると、ネズミの死骸が雨により路面に張り付けられているのが見えた。
一見、損傷があるようには見えなかった。
だが、それがネズミの死骸であるとわかると自然に目を背けていたので、実際はどうであったのかはわからない。
僕は、そっと心の中でネズミに声をかけた。
「お疲れさまでした」
このネズミが何をしたっていうんだ!他者の命を奪ったっていうのか?
一瞬頭をそうよぎったが、まぁたくさんの昆虫類は食べてきたであろうか。
この世では、命が命を消すという作業が、あまりにも明確にシステム化されている。そして、命により消されなくとも、ただ命は消え去る。
当たり前のことだが、心の奥底にとどめていた事実が鎌首をもたげた。
なぜか?
多分、それは、現実、この世が地獄だからだ。
僕らは……全ての生命は、何らかの罰を受けに、この地獄に生まれてきたのだ。
だが、ふと思った。
そうか、命でさえもただの道具なのかと。
そうだ、この世に生まれてくるもの全ては、その命を使って、この世を泳いでいるのだ、と。
ゲームで、相手と対戦する。
勝つか負けるかだ。
負けると悔しいし、当然のように負けるが、そのゲームを楽しむことをやめる理由にはならない。
命を使ってこの世で遊ぶ。
死ぬか生きるかだ。
この世は、生死の外から見たら、ただのゲームだ。
それも生死をかけた。
「さようなら、またね、ネズミさん」
僕はそう、心の中でつぶやきながら、傘をたたんだ。
僕の心の中に浮かんだ思いは、雲のすきまから漏れ出た日差しにかき消された。
そして、僕は何も考える事のない日常を、また泳ぎだす。
このゲームが終わるまで。