ep8 不死と白炎
住人のいない深夜の町は静まり返っている。
街灯は無いが、月明かりに照らされた道は充分に視界が開けた。
ヤルグは立ち止まると匂いを嗅ぐ。微かに不死特有の嫌な臭いがした。
「いるな。」と呟き、剣で地面の石を叩くと金属音が響いた。
何軒かの家から音を聞きつけたスケルトンが姿を現す。
「おぉ!久々に人間に会えたぜぇ。」
スケルトンは下顎をカタカタと震わせながら妙に甲高い声で喋った。
(骨だけで喋るのか。これも地下墓地の魔力か。)
「なんだなんだ、動く骸骨は初めてかぁ?」
(6体か・・・どうせなら纏めてやりたいところだな。)
「おいおい、ビビッて声も出せねぇみたいだぞ。」
(先ずは残りを誘き出すか・・・)
「じゃあ遠慮なく殺してやるよぉ!」
剣を振り上げた瞬間、ヤルグが剣を引き抜き素早く一撃を入れる。
ヤルグの力であれば一撃で十分であり、スケルトンはバラバラになって吹っ飛んだ。
他のスケルトンは驚いたふりをして「くそぉ」などと言い、次々と襲い掛かってくる。
(なるほど、こちらが復活すること知らないと思っているのか。ふざけた奴らだ。)
全員を一撃で蹴散らすとそのまま前に進んでいく。
するとそれを塞ぐように家の陰から残りの3体が現れる、同時に後ろでバラバラになったスケルトンがカタカタと音を立てながら復活した。
「あの攻撃で死んだと思ってたか?ざんね~ん。俺たちは何度でも蘇るのさぁ」スケルトンたちが嘲笑う。
(挟み撃ちの形をとったということか、こいつらの脆さを考えれば無駄でしかないな。)
前後からきた斬撃に対し、一歩踏み込みながら躱してその腕を掴み、後ろの敵に投げ飛ばすとすぐさま左右の二人を斬り飛ばした。
流石に動揺を示したが、すぐの元に戻りニタニタと笑いながら口々に「やるねぇ」などとおどけだす。
「腕は立つようだが、俺たちの命は無尽蔵。一体いつまでもつかなぁ~」
「少し黙ってろ。」やっとヤルグは口を開いた。
「喋る度にカタカタカタカタと。耳障りな連中だ。」
「あぁ?」
「貴様らに2つの事を教えてやる。1つは貴様らが復活することなど初めから知っている。」
「そして、もう1つは・・・本当の死だ。」
それを聞いたスケルトンたちは一瞬静まり返るがすぐに大笑いする。
「なんだお前、その格好で祓魔魔法でも使うっていうのか?」
「そうじゃない。祓魔魔法は神の力で魂を清めて成仏させる。俺のは地獄の炎で苦しめながら焼き殺すことだ。」
言った瞬間、剣が白く燃える。
驚く間もなく1体が切りつけられると先程のようにバラバラにはならず、その場で燃え出す。
身悶えしながら倒れたスケルトンの白い骨は黒く焦げてゆき、そのまま動かなくなった。
ヤルグが頭蓋骨を踏みつけると砕けるのではなく、灰のように粉々になり散っていった。
スケルトンたちがゆっくり後ずさる。
「不思議なもんだな。喋るときはカタカタと震えるくせに、怯えるときは震えないのか。」
ヤルグが駆けだす。元より力の差は歴然。ものの数秒でヤルグの周りは白炎で包まれた。
全てを終わらせたヤルグは剣を振って火を消すと一息ついた。
「造作も無いな。」と呟き、帰ろうとすると遠くに教会へ走っていくシスターの姿が見えた。
(正体がバレたか?ともすればやはりこの町の連中も。いや、先ずは様子を見るべきか・・・)
そう考えながらヤルグは教会へ戻った。
翌朝。
町の者たちが代わる代わるヤルグに感謝を伝える。彼はそれを適当に受け流していた。
神父がやってきて約束通り、いくつかの備品と食料、世界地図を渡した。
「悪いな。」
「いえ、やって頂いたことを考えれば少ないくらいです。」
「旅の方っ!」エミリアがやってくる。
見る限りでは昨日の件でヤルグの正体がバレた様子はない。
「これもどうぞ。」ひとつの薬を渡す。
「エルドポーション・・・いいのか?」オーブ程ではないが一度切り魔力を高める貴重な薬だ。
「はい、旅にお役立て下さい。」
「済まない。」
挨拶をすませ、町を出ようとしたとき、エミリアが声を掛ける。
「旅の方。あの、お、お名前は・・・」
ヤルグは思案した。魔王軍との戦時中にヤルグの名前はまずいだろう。しかし人間の名前などあまり知らない。その時ふと古い記憶が蘇る。
「・・・アレンだ。」
「アレン・・・様、どうかお気をつけて。」
エミリアは町を去っていくヤルグを、見えなくなるまで見送っていた。
ヤルグが去ってしばらく後、教会で神父にエミリアが声を掛けた。
「神父様、実に昨晩・・・」
「追っていったのですね。」
「・・・はい。」
神父は顔を伏せる。どう説明すべきか考えていた。
「あの方は・・・アレン様は白い炎を使っていました。」
その言葉に観念した神父が全てを話そうとした時。
「不死を浄化出来る白い炎・・・あれは神の加護を得た聖火ではないでしょうか。アレンという名も、古い魔王を倒した勇者の名と聞いております。彼は神の遣わした選ばれし者なのでしょうか?」
神父は驚いたが肯定することにした。
「そ、そうかもしれませんね。」
「神父様、私、彼についていき、手助けをしたいのですが。」
「気持ちは分かりますが、彼の進む道は険しく危険な道。貴方ではかえって足を引っ張ってしまうでしょう。」
「ですか・・・」
「我々に出来る事は彼の無事を祈ること。さぁ、祈りなさい。」
そうして彼らは神に魔王の無事を祈るのであった。