ep6 八傑衆バルドス
ベイルは襲ってきた魔物の攻撃を躱すと切りつけ、すぐさま隣の別の魔物を切り裂いた。
(さっき入ってきたのはバルドスだった・・・奴は一体どこに?)
周囲を見渡すと離れたところにバルドスの姿が、そしてその向こうにレックスが見えた。
「まずい!」
すぐに向かおうとするが、そこにまた魔物が現れて阻まれた。
レックスが敵を切りつけた時、横から凄まじい殺気を感じ咄嗟に剣を向ける。
向かってきたバルドスが連撃を放つ。
レックスは剣で受けるのが精一杯だった。
最後に一撃で鍔迫り合いになった時、バルドスが口を開く。
「兵士にしちゃあ若いし、お前さんだけ補助魔法がついてるってことは、お前さんどっかの要人ってことか?」
レックスが足払いをかけようとしたが、バルドスは後方に跳んで躱し、すかさず剣から衝撃波を放つ。
レックスは横に転がるようにこれを躱した。
「まぁいいさ。腕は立つようだ・・・ここで潰させてもらう。」
レックスは剣を強く握りなおす、額から一筋の汗が流れるの感じた。
走ってきた兵がギザに伝言を伝える。
「なるほど、了解した。バリスタ隊よ、2基同時に撃つのじゃ。右のバリスタは目を狙い、左のバリスタは右脚を狙え。合図は儂が出す。それまでにいつでも撃てるようにしておけ。」
「本当に出来るでしょうか?」作戦を聞いた一人の兵士が不安そうに言う。
「やるしかないのさ。これ以上奴らを調子づかせる訳にはいかない。」
尚も不安そうな兵士にオリビアが問う。
「我々は何者だ?」
「えっ?」
「我々は選ばれしデルタニア公国軍だ。今まで厳しい訓練も修羅場も乗り越えてきた。それがあんなでくの坊に舐められていいのか?」
「い、いけません!」
「そうだ。ならば気合を入れていけ!」そう言うとオリビアは兵士の腹を軽く小突いた。
「ダガル。やれるな?」
「御意に。」
「よし!タイミングはギザ殿に任せた。それまで周囲の敵を処理しつつ準備をしておけ。無駄な被害を出さぬようサイクロプスには距離を取っておけ。」
敵からの攻撃が無くなったことでサイクロプスは再度投げる岩を探し出した。
魔物と戦っている一人の兵士が「投擲が来るぞぉ!!」と叫ぶ。
伝言ゲームの要領で砦まで注意喚起が届く。オリビアが砦を振り返るとギザが杖を掲げ、分かるように合図した。
「来るぞ!!準備はいいか!!」その声に先程の兵たちが集まりだす。
その瞬間、サイクロプスは3個目の岩をバリスタに向け放り投げた。
「バリアを張れぃ!」ギザが叫ぶと同時にフィーナを含めた魔法部隊がマジックシールドを展開する。
ギザが杖を突きだすと杖先の水晶から強力な雷撃が放たれ、岩を粉砕した。粉々になった岩の欠片はマジックシールドによって弾かれる。
「放て!!」
号令と共に2基のバリスタから矢が放たれた。投げた直後だったサイクロプスは目を守ったが叩き落す程の余裕は無く、1本は籠手ごと右手を貫き、もう1本は右足を貫いて地面に刺さり、足を固定させた。
雄たけびを上げながらも右手が使えなくなったサイクロプスが左手で右足の矢を引き抜こうと腰を屈める。
「うおぉっ!!」とダガルが叫びながら走り出す。
その先には壁に使っていた大きな盾を上に向け、数名の兵士がして構えている。
ダガルが盾に飛び乗った瞬間、兵たちが全力で盾を跳ね上げ、ダガルもそのまま跳躍すると両手で持った槌を頭が下がったサイクロプスの顎に目掛けて渾身の力で打ち付けた。
衝撃で体制を崩したのを見て、オリビアは走り出す。右足を駆け上がって跳ぶと目に目掛けサーベルを突き刺す。サイクロプスは凄まじい呻き声上げて、その場に倒れた。
レックスは劣勢だった。フィーナが掛けた補助魔法は、少しではあるが頑強さを増加させる。それでも相手に劣っていることは分かった。
「残念だったな。俺が相手じゃなけりゃあ、この戦でも活躍出来たかもしれない。」
余裕を見せるバルドスと違い、レックスの息は上がっている。
バルドスが牙突を仕掛ける。躱しきれないと分かっていたレックスが身体を横にずらしたことで左肩に当たり、衝撃で肩の鎧が破損する。
「うわぁ!」
レックスは痛みと衝撃に耐えながらも左手から光球を放った。
接近状態で予期せぬ攻撃だった為、バルドスは避けれず2m程吹き飛んだ。
バルドスがゆっくりと立ち上がる。
「気に入らねぇな。そんな隠し玉持てる程、余裕があるってことかぁ!」
語尾に怒気を含みながら、再び突進する。
甲高い音を立て剣がぶつかる。最早鍔迫り合いではなく、レックスが一方的に押されている。
「心配するな、俺に殺されるなら格好はつくぜ。」
そう言うと剣を跳ね上げて、蹴りを繰り出した。レックスは蹴り飛ばさて地面に倒れた。
止めを刺そうと剣を振り下ろした瞬間、ベイルの剣がそれを受け止めた。
そのまま横切りに入ったベイルの剣を距離を取って躱す。
バルドスが鎧の紋章を見て言う。
「おまえがノワルドのベイルか・・・ってことはそのガキはやはり要人のようだな。」
ベイルはバルドスの言葉を無視しレックスにポーションを渡す。
「レックス君、立てるか?」
「はい、大丈夫です。」レックスはポーションを飲むと自分の剣を拾った。
立ち上がり剣を構えるレックス。
「2対1とはなぁ、とんだ騎士道精神だ。」
「そんな挑発に」レックスの反論をベイルが手で制した。
「レックス君、少し下がっていろ。私一人で十分だ。」
「えっ?」
「馬鹿は扱いやすくて助かるぜぇ!」叫びながら牙突を繰り出してくる。
ベイルが構えると剣に渦巻く風が発生し、剣を振り下ろすと同時に風がバルドスに飛ぶ。
牙突中で方向を変えられないバルドスは真正面から風を受け、吹き飛ばされる。
空中で受け身を取り、何とか着地したバルドスにベイルが剣を向ける。
「言っただろう?私一人で十分だ、と。」
「舐めやがって。」
バルドスは連撃から衝撃波を繰り出すが、ベイルは風を飛ばして相殺しながら少しずつ近づいていく。
接近したタイミングでバルドスが突き刺しを行うが、ベイルはこれを躱し、剣に剣を叩きつけることで体制を崩させ、そのまま切り上げるように横切りする。
転がって避けたバルドスが屈んだまま衝撃波を放つ。
ベイルは衝撃波を喰らいながらも、そのまま剣を振り下ろした。
バルドスは剣で受け止めるが、屈んでいる分、力負けしている。
レックスが追撃の為に近づこうとした瞬間、ベイルが何か気づき叫ぶ。
「止まれっ!」
レックスが動きを止めると同時にベイルとバルドスが後方に飛ぶ。
次の瞬間、二人がいた場所に上空から槍が突き刺さり、槍の周りに炎の渦が現れ、周囲を焼き尽くす。
周囲の者が動揺する中、跳んできた男が槍を抜いた。
「・・・リベル。」ベイルが呟く。
四天王リベル。バルドスと対照的に殆んど装飾の無い銀色の甲冑、ヘルムには視界を得るための十字の穴が開いており、後頭部には今まさに彼が放った炎のような赤々とした飾り毛が棚引いている。
「サイクロプスがやられた。撤退する。」
「し、しかしっ!」
「必要な情報は得られた。もう充分だ。」
「くっ!」
リベルはベイル達を牽制するように槍を向けたまま、空に緑の光を放つ。撤退の合図だ。
気付いた魔物達が撤退していく中、バルドスがレックス達に剣を向ける。
「お前らの顔は覚えた・・・必ず殺す。」
魔物軍が消え去った後、オリビアが高らかに勝鬨を上げ、兵たちは歓喜に包まれた。