帰路
ランチは、みんなでバーベキューを楽しんだ。
子どもたちよりはしゃぎ、心から楽しんでいる自分がいる。
これがつい数年前まで子どもが苦手だったわたしが、である。
自分でも驚きだった。
あまりの楽しさに見張りのことなど忘れてしまっていた。もっとも、気配を感じなくなったというのもあったけれど。
とにかく、この日は一日牧場で楽しんだ。
こんな機会を与えてくれたエレノアとニック。それから、デニスとクラリス。さらには牧場の関係者には感謝しかない。
まだまだ遊び足りない。
わたしってばほんとうに子どもである。
名残惜しいけれど、牧場から去った。
ニックは、エレノアにもたれてすっかり眠ってしまっている。エレノアもまた、ウトウトしている。
ふたりとも疲れているのだ。
ニックもエレノアもかなりはしゃいでいた。子どもたちと一緒に乗馬をしたり、自分の足で駆けまわり、木登りをしたりかくれんぼをしたりした。それから、乳しぼりやチーズ作りをし、馬や牛に飼い葉をやったり畜舎の掃除もやった。
牧場体験をしまくった。それはもう充実していた。満喫っぷりは半端なかった。
いつもは国都で過酷な生活を強いられている子どもたちだけれど、どの子も笑顔ですごしていた。
子どもたちの子どもらしい表情や行動を見、不覚にもジンときた。
そして、わたしが一番はしゃぎ、遊んだことを自分でも自覚している。
疲れている。疲れ知らずのはずのわたしだというのに、疲れていることを認めないわけにはいかない。
しかし、眠れない。眠りたいけど眠れないのだ。
なぜなら、また察知しているから。
牧場への往路の際に感じた気配に気がついたのは、馬車が牧場を出てすぐだった。
(連中、道中を狙うつもり?)
エレノアとニックを誘拐するなら、暗いときにした方がいいのは当たり前のこと。牧場では、多くの目がある。子どもたちの、というよりか牧場関係者、つまり大人の目がある。
(それはそうよね。帰路、暗くなってからよね)
自分で自分が情けない。
そんな当たり前のことさえ失念していた。というか、連中のことを失念していた。
もしも気に留めていたなら牧場でそれなりの対処を行えたはず。
たとえば、牧場にとどまって国都のニューランズ伯爵邸に使いを出してもらうとか。
それができなかったのは、わたしの油断。というか、わたしが間抜けすぎた。
三年間のブランクだけではなかった。
いまのこの生活もまた、わたしをさらにダメにしてしまっている。
いまのこのふつうのレディの生活が、ダメっぷりに拍車をかけている。
任務中にもかかわらず、諜報員としての基本さえ守れていない。
それは、諜報員として致命的という以前の問題だ。




