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推しが「シヅお姉様」と呼んでくれる

 この日、エレノアとニックと三人で楽しいひとときをすごしている最中に不愉快なことが起きた。せっかくの三人でのデートだというのに。


 とはいえ、それで予定が中止になったわけではない。あるいは、中断したというわけでもなかった。


 ブラックストン公爵家所有の牧場へは、ニューランズ伯爵家伯爵家の馬車で向かった。


「じつは、夫もすごく行きたがっていたの。だけど、今日はカーティスに同行してレッドアイズ侯爵領に視察に行く日だから。彼、とても残念がっていたわ」


 エレノアは、馬車が走りだすとすぐにそう言って小さく笑った。


「ねぇ、ニック? お父様も乗馬をしたいって言ってたのよね?」

「はい、お母様。シヅお姉様と馬で競争をしたかったのにと」


 わたしの隣でニックはそう言って天使の笑みを浮かべた。


 えっ? どうしてわたしのことをニックが「シヅお姉様」と呼ぶかですって?


 誤解のないように言っておくけれど、わたしが彼を脅したりすかしたりして無理矢理呼ばせているわけではない。


『ニック、わたしをレディと呼ぶのはやめてね。レディだなんて、なんだか年寄りくさいし他人行儀すぎると思わない? わたしの精神年齢はまだ少女よ。ニックよりすこしだけ年上なだけ。だから、『お姉様』と呼ぶのはどうかしら? ニック、わたしのことを『シヅお姉様』と呼んでみて」


 じつは、ニューランズ伯爵家で最初にカーティスとバラ園で密談した日のことである。ニックにそのように提案してみた。


 それは、あくまでも提案だ。ささやかな案である。だから、ニックは断ることができた。たとえまだ幼い子どもだとして、拒否する権利はあった。


「『シヅお姉様』だって? こんな幼い子に無理矢理呼ばせるのか? それは、完璧虐待に値する行為だぞ。いや、モラルハラスメントだ。グワッ!」


 大佐がなんか囁いた。だけど、足を彼の足の上にそっと置いたら彼は黙ってしまった。


 カーティスたちは、黙っていた。カイルでさえ、あたたかい目で見守ってくれていた。という気がした。あのときは、微妙な空気があたたかく感じられた。


「はい、レディ。いえ、シヅお姉様」


 ニックは、わたしの提案に快く応じてくれた。


 というわけで、彼はわたしをそう呼んでくれている。


「そう。それは残念ね。ぜひともカイルと競争がしたかったのに。それにしても、わたしのムカつく夫はまったく興味がないみたい」


 苦笑しつつ馬車の窓外に視線を向けた。


「気にかけるどころか、わたしが出かけることを忘れているはずよ」


 そして、大佐はよろこび勇んでカーティスとカイルといっしょに視察に行った。


 それはともかく、窓の外の流れる景色を見ながら、不愉快でならなかった。


 不愉快さの原因?


 それは、ずっと尾けられているから。


 ニューランズ伯爵家を出発してから、なにものかに見張られているのだ。




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