エレンとドナルドが誘拐、いえ、拉致されかけてる
「クラリス、わたしもエレンとドナルドといっしょに公園に行っていいかしら? だってほら、わたしっていろいろやらかしているでしょう? ここで手伝うより、エレンとドナルドの相手をしている方がいいかもしれないから」
じつは、わたしはこの慈善活動に参加してまだそれほど月日が経っていないにもかかわらず、すでにいろいろやらかしてしまっているのである。
誤解のないように伝えると、ミスといってもささやかなことばかりである。いわゆるケアレスミスというやつ。
たとえば三人家族に三十人分の食糧を渡したとか、逆に三十所帯分の食糧の手配をひとり分しかしていなかったとか、そんなささやかなミスをあれやこれやとしてしまった。
ほんのご愛嬌といったところ。
そんなわたしのお茶目なミスも、クラリスやエレノアをはじめ慈善活動の奥様方は笑って許してくれる。
すくなくともわたしの黒色の瞳にはそんなふうに映っているし、わたしのピュアな心ではそう感じている。
えっ? みんなはわたしを許してくれているのよね?
自問自答しながら不安になることもあるけれど、とりあえずいまのところはまだ参加禁止の沙汰は受けていないから大丈夫。
そう心から信じている。
「シヅ、そうね」
クラリスもまた、開けっ放しの扉の向こうを見ている。
その彼女の青色の瞳がわたしに向けられた。そのまましばらく視線が合うに任せる。
アイコンタクトを取ることは、わたしたちの世界では必須である。
「シヅ、あなたに任せるわ。だけど、気をつけてね。さっきも言った通り、このあたりはとくに治安が悪いから。隙をみせれば、昼間でも狙われてしまう。とくにレディや子どもはね」
「ええ、クラリス。気をつけるわ」
そう口で伝えあうのと同時に、
『シヅ、うまくやってね』
『大丈夫よ。うまくやるわ』
アイコンタクトで伝えあう。
エレノアにも「行ってくるわね」と声をかけ、病院を飛び出した。
めちゃくちゃうれしいのはなぜだろう? めちゃくちゃテンションが上がっているのは気のせいよね?
高揚感の上昇が半端ない。
そこは公園、というよりかは空き地だった。
さほどおおきくも広くもない。というよりか、はっきりいって狭い。
ところどころ雑草がはえていて、木が一本だけ申し訳なさそうに立っている。そして、見るも無残な木製のベンチがひとつあるだけである。
エレンとドナルドは、名ばかりの公園に入る前には誘拐犯グループに捕まっていた。
連中は、とにかく容赦なかった。それから、強引だった。
屈強なふたりが両脇からエレンを抱え、さらに屈強なひとりがドナルドを荷物のごとく肩に担いでいる。
彼らは、よくある誘拐のようにターゲットに声をかけて油断を誘ってからとか、ありそうな話でだましてからとか、そんな悠長な手段は用いなかった。
これはもう誘拐というよりか拉致である。
そう。これはまさしく「拉致」だ。




