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わがままエレン

(エレンは、いったいなんのために慈善活動に参加しているのかしら?)


 彼女がさぼるたび、ついつい冷めた目で彼女を見てしまう。


 もっとも、彼女がなんのために慈善活動に参加しているのかわかっている。


 エレンは、上流階級、というか貴族社会に入り込みたいのだ。貴族の奥様方と付き合うことで、自尊心を満たしたいのだ。


「エレン、気を遣わなくてもいいのよ。今日は人手が足りないから、あなたにも手伝ってもらいたいのよ。ドナルド、お腹がすいているんじゃない? なにか食べたら機嫌が直るかしら?」


 いつもだったらエレンの好きなようにさせるクラリスが、今日は彼女の好きなようにさせるつもりはないようだ。


 クラリスは、エレンをさぼらせたくないから引き止めているわけではない。エレン母子を公園に行かせたくないのだ。


 クラリスは、自分の側からエレンとドナルドを離れさせたくないに違いない。


 彼女も気がついているのだ。


 誘拐犯どもに監視されていることを。そして、そのターゲットがエレンとドナルド母子であることを。


 前回の慈善活動に参加しておらず、前々回と今回の活動に参加しているのはエレンとドナルド母子だけなのだ。


「エレン。いつも言っている通り、わたしたちが訪れるのはけっして治安のいいところばかりじゃないの。とくにこの南西地域が物騒なことは、あなたもよく知っているでしょう?」


 さすがのクラリスもイライラが募っているらしい。ついにその美しい顔の眉を顰め、エレンに苦言を呈した。


 というか、クラリスとエレンはもう何十回と同じやり取りをしているらしい。


「ええ、わっかっているわ。だけど、ここの空気はドナルドによくないみたいだから」


 エレンは、華奢な両肩をすくめた。


 彼女とクラリスのやり取りを、エレノアも含め奥様方が見守っている。


 そのどの顔にも「あーあ、またなの?」とか、「だったら、ドナルドを連れてこなければいいのに」とか、「それなら慈善活動をやめれば?」とか、クッキリはっきりスッキリあらわれている。


 すくなくともわたしにはそのように見えるが、錯覚かもしれない。


 わたしだけがそう思っているのかもしれないけれど、そうだとすればみんな神がかり的に人がよすぎることになる。


「とにかく、しばらく公園にいるから」


 エレンは、そう言うなり泣き叫んで癇癪ただなかの息子の手をひっぱり、病院を出て行ってしまった。


 開けっ放しの扉から、見張り役たちが動き始めたのが見えた。




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