監視されている?
ドナルドのように聞きわけのないガキに、もといお子様に物理的な指導を行うかどうかは別にしても、やはりまだ四、五歳のガキを、もといお子様を虐待するのはよくない。「人間的にどうよ?」と、道徳や倫理を問われることになる。
というわけで、わたしもガマンすることにした。
そして三年のブランクは、こんなことろにまで影響が出ていた。
エレンとドナルド母子に振りまわされまくっていて、気がつくのが遅れたのである。
監視されていることに。
その監視は、わが家の使用人たちとは違う。
プロ中のプロがするような見事な監視ではない。どちらかといえば、雑な監視である。
わたしは、そんな雑な監視にさえ気がつけなかったのだ。
しかも、監視されているのは今日だけのことではない。
気がついたのは、前々回の慰問のときである。前々回は、こことは違う地域の病院や教会をまわった。前回の慰問では監視されていなかった。
そして、今日である。
前々回のときとは違う男たち数名が、いまも通りをはさんだ向こう側の路地からこちらを見ている。
前々回、そして今回。監視している連中は、あまりいい顔つきをしていない。連中の顔が不細工とか可愛くない、という意味ではない。
まっとうに生きているありふれた人たちの人相とは違う、という意味である。つまり、悪人面というやつ。
そして、彼らの雰囲気や内にある気が独特のものなのだ。
はやい話が、連中はふつうの人ではない。ストレートにいえば、悪事を生業としている連中である。
今朝の大佐との会話を思い出した。
(大佐が言っていた誘拐犯たちか拉致集団? ということは、わたしたちのだれかを狙っているということね。もしかして、わたし? わたしなの? わたしかしら? わたしだったらいいのに)
ってなにを期待しているのよ、わたし?
反省。
ついついトラブルを期待してしまう。とはいえ、任務に直接かかわるトラブルは遠慮したい。だけど、こういうちょっとしたトラブルは大歓迎。
(あー、イヤだわ。結局、暴れたいだけなのよね)
ここのところ、いろいろな意味でストレスがたまりまくっている。
だから、そんなストレスを発散することを求めているのだろう。
(真面目になりなさい)
自分で自分を叱咤する。
真面目モードに切り替え、ざっと奥様方を見まわした。
前々回、前回、そして今回。
前々回と今回ではこちらを監視する顔ぶれは異なっている。連中も一応は気を配っているのだろう。それはともかく、前回は監視役はいなかった。監視役というよりか、見張り役といった方がいいかしら。呼び方はどうであれ、とにかく前回は見張っている者はいなかった。
ということは、連中のターゲットは前回の慈善活動には参加していなかったということになる。
「クラリス、ドナルドが泣き止まないのでうるさいでしょう? だから、そこの公園にいるわ」
エレンがクラリスに声をかけていた。
彼女は、息子が泣き叫ぼうが笑い転げようが、患者や路上生活者たちに食べ物や物資を手渡しするときになるときまってサボる。息子をだしにして、どこかへ行ってしまうのだ。




