大佐と朝食を 2
「あらまぁ、奥様。はやく召し上がらないと,お約束に遅刻しますよ」
そのとき、カミラがわたしの分の朝食を運んできてくれた。
「グルルルル」
においでわかったのか、お腹の虫が騒ぎだした。
「ふんっ! おまえは、あいかわらず品がないな」
「ふんっ! あなたは、あいかわらず口が悪いですね」
大佐との睨み合いは、いったん中断。
席に着き、朝食を食べ始めた。
「ところで、馬車はどうですか?」
デリクは、約束通り馬車を手配してくれた。一頭立てのごくシンプルな馬車である。
「ああ、なかなかのものだ」
「そうですか」
その馬車は、大佐が使っているのだ。当たり前だけど。
わたしは、クラリスやエレノアに同乗させてもらうので充分である。
なんなら自分の足で走りたいくらいだから。
しばらくの間、ふたりで無言のまま食べ続けた。
「大佐、ほんとうに忙しそうですね」
食べ終って顔を上げると、大佐は優雅にお茶をすすっている。わたしも負けじと優雅にお茶をすすってみた。
今朝は、ダージリンである。
「ああ。最近、国都で事件が相次いでいてな。上流階級や裕福な商人のレディや子弟が拉致、というよりかは誘拐されているのだ」
「身代金目当て?」
「ああ」
「物騒ですね」
「ああ。当然、集団による犯行だ。それを暴き出すのに駆けずりまわっているわけだ」
拉致や誘拐にかぎらず、悪事が増えるのは国力が弱まっている証拠である。
「カーティスは、そんなことまで? ずいぶんと国民思いなのですね。あきらかにお門違い、もとい管轄違いでしょう?」
「彼は、なんでもいいから手柄をあげておきたいわけだ」
「でしょうね」
「おまえも気をつけろよ」
なんと、大佐がわたしのことを心配してくれた。
「まぁぁぁぁっ! 心配してくれてうれしいですわ、あなた」
「おまえのことではない。誘拐犯どものことを心配しているのだ。はっきり言っておくが、まかり間違っても誘拐犯どもを血祭りにあげるようなことをするなよ」
「……」
返す言葉もない。
そもそも大佐がわたしのことを心配するわけはない。
とはいえ、もしも誘拐犯と遭遇するようなことがあれば、大佐の心配は現実になるかもしれない。
このわたしにも嫌いなものがある。それが何かというと、まず弱い者虐め。もちろん、それにはいろいろなパターンがあるけれど、とりあえずはいまのようにレディや子どもを狙うバカどもは大嫌いである。ぜったいに許せるわけはない。
「肝に銘じておきますわ」
口ではそう言ったけれど、まったく肝に銘じてはいない。
それどころか、いまの大佐の忠告は、右耳からはいってすぐに鼓膜に跳ね返って大佐の方へと飛んでいってしまった。
このとき、わたしがトラブルを起こすことになるなど、もとい巻き込まれてしまうなどと、想像も推測も予想もしてもいなかった。




