大佐と朝食を 1
ある朝、たまたま大佐と朝食をとることになった。
というよりか、外出のためいつもよりはやくわたしが食堂に行くと、彼が食べていたのだ。
大佐とは、表向きは夫婦である。しかし、屋敷内ではそのふりをする必要はない。なにせ使用人の四人は、わたしたちの正体を知っているのだから。
というわけで、一度も彼と同じ寝台の上で眠ったことはない。それどころか、彼は主寝室で、わたしは続きの間で、それぞれ別の部屋で休んでいる。
ありがたすぎて、こればかりはカーティスに感謝している。
最近、大佐はいろいろ忙しそうである。
カーティスにこき使われているのだ。
早朝に出かけ、夜遅く帰ってくることもすくなくない。
今朝はめずらしいくらいである。
「あら、愛しの旦那様。こんな時間にまだ屋敷にいるなんてめずらしいですね」
自分でも可愛くない奴だとわかっている。大佐にたいし、すこしはいたわりややさしさをみせればいいのに、とも。
しかし、いまのわたしは大佐にたいしていろいろ思うところがある。含むところがある。その他もろもろある。
可愛くなんていられない。たとえ演技だろうと嘘だろうと。
「おや、愛しのおまえ。おまえがこんな時間に朝食を食うなんてめずらしいな」
なんと、大佐にやり返された。
「お気楽な奥様が板についているではないか? うらやましいかぎりだ」
しかも、嫌味を追加してきた。
「奥様も大変なのです。飼い犬として駆けまわっているだれかさんと違いましてね」
テーブルの向こうの大佐を、立ったまま腰に手をあて睨みつけた。
当然、向こうもこちらを睨み上げてくる。
おたがいの全力の視線がぶつかり合い、「バチバチ」と音がしそうなほど火花が散る。
今朝も早朝から鍛錬をこなした。大佐は口には出さないけれど、そのことを知っている。というか、彼もまた早朝から主寝室で鍛錬をしている。
わたしだけでなく、彼もまた鍛錬の余韻で気が立っているはず。
彼は、わたしを睨みつけたまま椅子にふんぞり返った。
王宮へ行く為、服装はきちんとしている。シャツはキラキラ輝き、シワひとつない。それに黒のジャケットを羽織るのだ。黒色のズボンもシワのひとつもない。
今朝は、わたしも負けてはいない。このあと、慈善活動に参加するために街に行く。
だから、クリーム色のシャツに黒色のパンツ姿である。
ふだんは身の丈にあった恰好をするようにしている。
すなわち、おしゃれなパンツに清楚なシャツという恰好である。




