カミラとナンシーから情報を得ましょう
屋敷の内外を問わず、つねに見られ聞かれ感じられている。つまりいつも監視されているのだ。精神的にまいるのも無理はない。
とはいえ、わたし個人的には疲れはするがこの状況は嫌いではない。わたし的には、つねに張り詰めた緊張状態に身を投じたり置いたりするのはイヤではない。むしろワクワクどきどきが心地いい。楽しみにしている書物を読む前やじょじょに読み進めていく、あの感覚と同じである。
逆にこの状況を楽しんでいる自分もいる。
カーティス自慢の「ザ・エージェント」が扮したわが家の使用人たちは、カーティスと話して以降それを隠そうともしなくなった。とはいえ、わたしにたいして敵意に満ちているとか害意を抱いているというわけではない。それどころか、こちらが欲しい情報を彼らが知りうるかぎり、もしくは与えられている権限内で惜しみなく与えてくれるようになった。
『公爵からそうするよう、命じられていますので』
執事役のフィリップは、そう言って控えめに笑う。
というわけで、メイドのカミラとナンシーとは、これまで以上に仲良くなった。
おたがいに正体をおおっぴらにできるようになったから、というのもある。それ以上に、同じレディどうしこの過酷で残酷な世界でやっている、という絆のようなものが感じられる。共感しあえる、といってもいい。
そのお蔭で、彼女たちからカーティスやカイルのことをいろいろ教えてもらった。
「カーティス将軍のことは、できるだけ他国に情報が漏れないよう細心の注意が払われています」
「将軍は、ほかの王子とはまったく違います。みずから軍の幼年学校に入学され、ずっとトップの成績をおさめていました。当然、首席で卒業しました。軍には、小隊長からです。佐官、ではなくです。小隊長として前線に出撃されて兵卒たちとともに血と汗と泥と埃にまみれるような軍生活を、かなり長く送っています」
「そして、武功を重ねました。あっという間に頭角を現したのです。それでも、兵卒たちを率いてみずから前線で戦う。けっしてそこから退くことはありませんでした」
「軍でのことだけではありません。将軍は、物心ついたときからずっと剣と槍と武術の鍛錬を続けています」
「はやい話が、将軍は王子だからというお飾りや象徴的な存在ではなく、実力でもって将軍にのし上がったのです」
「将軍としてだけではありません。王子として、政治でも活躍しています」
カミラとナンシーは、かわるがわるカーティスを褒め称え、推してくる。
彼女たちは、カーティスの推し活でもしているのだろう。




