「おれの為に働いて欲しい」ですって?
「はやい話が、きみたちに協力をしてもらいたい。一刻もはやく戦争を終わらせるために。オールドリッチ王国との和平を進め、両国に日常を取り戻したい。シヅ。きみには、わたしのために働いてもらいたい。これは、きみにしかできないことだ」
彼の茶色の瞳に映るわたし自身を見つめながら、胡散臭いカーティスの言葉をきいていた。
というか、頭も心もうまく機能していないので、上の空で彼の言葉が耳に入ってくるに任せていた。
「シヅ? さすがのきみも急速な展開についていけないかな? ほんとうは、いますぐにでもいい返事を聞きたかったのだが……。安心したいからね。だが、きみにはきみの事情があるだろう。後日、あらためて返事をきくことにしよう」
カーティスのやさしい笑みをボーッと見つめ、彼のテノールボイスを聞いていた。そのうちにようやく落ち着いてきた。
「閣下、ご配慮いただきありがとうございます。ですが、大佐とわたしがこうなることは、最初から仕組まれていたのですよね?」
質問ではない。確認である。
カーティスは、やさしい笑みのまま頷いた。
「だとすれば、返事はきまっています。というか、最初から選択肢なんてありませんので」
自暴自棄になっているのではない。それから、負け惜しみでもない。
いま言った通りである。最初から仕組まれていることにたいして、カーティスのために働くか働かないかとか、彼に協力するかしないかという選択肢はない。
『カーティスのために働く』
最初からその一択しか用意されていないのだ。
訂正。こちらの意思にかかわらず、彼に強制される。
「シヅ。きみがキレるレディでほんとうによかったよ。これでおれも安心できた」
「大佐は? 大佐はなんと?」
どう考えても、わたしより大佐の方が使い道がある。カーティスの役に立てるだろう。
その大佐がどうなっているのか、念のために知っておきたかった。
「スチュー? ああ、そうだったな」
カーティスの「え、そんな奴いたっけ?」的な反応に、すくなからず驚いた。
「彼は、そうだな。大丈夫。きみと同じだ」
そして、彼は曖昧な笑みと言葉で答えた。
(ちょっと待ってよ。なに、いまの? もしかして、大佐はこのことも最初から知っていたというの?)
大佐のことを疑わざるえない。
そもそも、最初からこの任務じたい胡散臭さ満載だった。
それはともかく、もしも最初からカーティスと大佐が手を組んでいたとしたら?
混乱するのは当然だろう。




