「ザ・エージェント」
「シヅ、そうだな。たがいに腹を探り合ったり、心を読みまくったりというのは疲れるだけだ。だろう? おれの性格上、そういうのはあまり好きではない。もっとも、気に入らない奴が相手だったら話は別だがね。あっ、それはきみの夫のことではない。わが国の官僚のことだ。おっと、ついでだからこれも言っておくべきだな。シヅ、おれはきみとスチューが夫婦ではないということを知っている。もちろん、きみたちのほんとうの正体もだ。きみがいまここでおれとこうしてベンチに並んで座り、おれの意図を探ったり警戒したりしている理由もだ」
「閣下、恐れ入りました。マクレイ国の情報部でしょうか? それとも諜報部でしょうか? どちらにせよ、かなりの実力みたいですね。デリク、いえ、ブラックストン公爵は、そこを束ねていたのですよね? ブラックストン公爵は、引退後も影響があっていまはあなたのために働いている。そして、公爵夫人であるクラリスもまた元諜報員だったということころかしら? ということは、彼女も夫とともにあなたのために働いているわけですね」
「シヅ。きみは、デリクとクラリスのことを見抜いていたのだな。わが国の情報部は、そうだな。この大陸一だと自負できる。というか、各国からエリートを引き抜いているのだ。つまりわが国の情報部は、エリートの中のエリートのエージェントたちが在籍している。最高の諜報員や工作員『ザ・エージェント』が集まる、エリート集団による最高峰の機関というわけだ」
「では、わが家の使用人たちも?」
「もちろん」
「ほんと、恐れ入りました」
なんかバカバカしくなってきた。
(で? もしかして、わたしを引き抜きたいとでも?)
そこまで考え、ハッとした。
死んだはずの夫ベンのことである。
(引き抜かれたのよ。ベンは、カーティスに引き抜かれたに違いない)
が、すぐに自分のその考えを恥じた。
わたしの夫が、ベンが裏切るはずがない。
彼がベイリアル王国を裏切るはずがない。それから、わたしのことを裏切るわけはない。
「シヅ、ここまではオーケーかな?」
なにが「オーケー」なのかはわからないけれど、とりあえず頷いておいた。
「きみはいま、なにを考えている? というか、推測している? 自分が引き抜かれるのでは? そのように考えているのではないのか?」
カーティスの問いに、再度頷いた。
その通りだけど、ふつうはだれでもそう推測するだろう。
というか、それ以外にないだろう。
「まぁ、あたっているといえばそうだろうな」
彼のその言い方に違和感を覚えた。
(ずいぶんと曖昧な言い方ね)
「そうだとすれば、ずいぶんと手がこんでいるのですね? 他の諜報員たちもこんなに手の込んだ方法で引き抜かれているのですか?」
「ハハハッ!」
カーティスは、わたしの問いに乾いた笑声を上げた。




