油断、そしてミス
「きみの夫は、きみにわが国の事情を話さなかったのかな? 戦争ともなると隠しようもない。そうだろう? このことは、秘密でもなんでもない。ベイリアル王国だけでなく、近隣諸国は把握している。把握していて、どの国も傍観している。とくにベイリアル王国はね。一般庶民でさえ知っているのではないかな? 情報や噂が流れないような田舎や、あるいは隔絶された森の中でないかぎり」
ハッとした。同時に、自身のミスを悟った。さらには、この任務の失敗をも悟らざるを得なかった。
焼きが回った? 三年もの自堕落な生活で勘が鈍った?
当然、それらもある。
それらにくわえ、心のどこかで今回のこの任務をなめすぎていた。バカにしていた。余裕だとタカをくくっていた。
なにより、油断しすぎていた。
マクレイ国がベイリアル王国以外の国と戦争をしていることは、秘密にしようもない。極秘裏に戦争をするだどけっしてできない。カーティスの言った通りである。それなのに、わたしはそのことに気がつかなかった。わたしがそのことを知らなくて当然である。三年以上もの間、情報を得る機会がなかったのだから。わたし自身、故意に遠ざかっていたというのもある。だから、知らなかったのは当たり前のこと。そこは問題ではない。
問題は、大佐が教えてくれなかったこと。それから、資料にまったくなかったこと。
大佐もわたしが知っていて当然のことをわざわざ言うはずはない。一般的に知られていることは、資料には記載されない。
ほんとうの問題は、わたし自身にある。カーティスに言われた際に気がつけなかったこと。違和感を抱けなかったことなのだ。
だれもが知っていることか、あるいはカーティスが虚言を弄しているか。
そのどちらかでしかないということに、まったく気がつかなかった。
が、いまの場合、後者は意味がない。カーティスがバレバレの嘘をつくわけはないから。
ということは、瞬時に悟り、その対応をしなければならなかった。あるいは、うまくかわさねばならなかった。
それができなかったことが、わたし自身の最大の問題でありやらかしだ。
「シヅ、そんなに警戒しないでくれ」
カーティスのやさしい美貌にやさしい笑みが浮かんだ。
他の状況であれば、そのやさしい笑みに安堵しただろう。
が、いまは安堵したり癒されている状況ではない。
というか、そんな余裕はまったくない。




