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正直、ランなんてどうでもいいのですが

「というわけで、ニューランズ伯爵家は、王家からランの管理と栽培と改良を任されているというわけだ。そして代々の伯爵たちは、王家の期待に充分応えてくれている。ランは、じつに繊細だ。管理や栽培、ましてや改良となると、それはもう忍耐と努力が必要になる」

「はぁ……」


 としか答えようがない。


 正直なところ、ランの話なんてどうでもいい。どうでもいいと思っているから、当然興味がわいてこない。


 正直なところ、カーティスのランの話が直接任務にかかわってくるとは到底思えない。


(ランの育て方や蘊蓄は、大佐やわたしとって貴重な情報になるかしら? あるいは、わたしたちが欲しいネタになりえるのかしら?)


 どちらもノーにきまっている。


「では、ニューランズ伯爵や伯爵夫人が管理や栽培をされているわけですか?」


 まったく、まーったく関心も興味も抱けないけれど、とりあえずだれもがするであろう質問をしてみた。


 さすがにカーティスに申し訳ないから。


 とはいえそう尋ねてみたものの、カイルやエレノアがみずからランの管理や改良をするとは思ってはいない。


「いや。ラン専門の学者、それから『ラン師』だ」

「『ランシ』?」


 乱視? 卵子? それっていったいなんなの?


「ニューランズ伯爵家に代々仕えるラン専門の栽培家だ」

「なるほど」


 またしてもどうでもいい情報である。


 この不毛な会話を打ち切り、みんなのところに戻りたい。


「ほんとうに美しいですね。ここにはいったい、どれほどの数のランがあるのですか?」


 イライラしてきた。もちろん、気配や表情にはいっさいださない。


 それがプロだから。


「ラン科には何百という属があってね。何万という種があるんだ。ここには、いまのところ既存の種が十三種。改良した新種が二種ある」

「そうですか」


 ふーん、としか思いようがない。


「まぁ、市場にはでまわらないがね。なにせ王家の象徴だから。それに、ランは非常に貴重な花だ。市場にでまわりでもしたら、トラブルのもとになりかねない」

「だから、この温室も厳重に管理されているのですね」


 たしかに、温室を施錠しているのは普通ではない。


 もっとも、それもまたわたしにとってはどうでもいいことだけど。


「ああ、その通り」


 カーティスは、懐中時計を内ポケットへ戻した。


 そのとき、彼と視線が合った。


 視線をそらすために、カーティスのやわらかい髪へと視線を上げた。


 わたしの剛毛とは違う。


 わたしの黒い短髪は、それだけで人の肌を貫通しそうなほどかたくてしっかりしている。


「わが国は、戦争中だ」

「はい?」


 どうやらランの話は終わったようだ。そのあまりの突然さに、視線をカーティスの瞳へと戻してしまった。


 彼の茶色の瞳にわたしがクッキリはっきり映っている。それがわかるほど、いまのわたしたちの距離は近い。


(急にどうしたわけ?)


 ある意味警戒してしまった。


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