表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/172

思い出のミルクティー

 大佐とは、わたしが現役の頃のときと同じように王立図書館で会った。


 もちろん、読書室や研究スペースで会ったわけではない。


 フリースペースで会ったのだ。


 そこでは、常識の範囲内での会話や水分補給は許されている。


 大佐とわたしは、つなぎのほとんどをそこで行っていた。


 そこでなら、周囲の状況が把握できる。つまり、怪しい奴がいればすぐに察知できる。


 だからこそ、わたしたちはあえてそういう公共の場で会ったのだ。



「血みどろの森」から出て王都に行くのも、人を見るのもひさしぶりすぎる。


 いまにも泣き出しそうな空の下、図書館近くの屋台でお気に入りのお茶を購入した。


 そこのミルクティーは、コクがあってすごく美味しいのだ。


 わたしだけではない。夫もそのミルクティーを気に入っていた。


 あまりにも気に入りすぎて、店主であるおじいちゃんに使用している茶葉やミルク、それから淹れ方のコツを教えて欲しいとお願いしたことがあった。内心では、「秘伝だから」とか「門外不出」とかで断られるだろうと思いつつ。しかし、おじいちゃんはすごくいいおじいちゃんだった。夫とわたしが「いつも購入してくれているから教えてあげよう」と言って快く教えてくれた。それどころか、茶葉やミルクを分けてくれた。


 さっそく、そのとき間借りしていた家の厨房で作ってみた。


 わたしたちは、仕事柄定住しない。任務に従事しているいていないに関わらず、家や部屋を持たず、つねに生活の場や環境をかえていた。


 それはともかく、そのとき間借りしていた家の厨房で作ったミルクティーは、残念ながらおじいちゃんのミルクティーとは違っていた。


 材料やコツをきいても、おじいちゃんのようには淹れることは出来なかった。


『ミルクティーにかぎらず、なんでもそうだろうな。熟練した腕や心が重要に違いない。あのじいさんなら、たとえ違う材料を使っても最高のミルクティーを淹れるだろう』


 夫は、わたしの淹れたイマイチなミルクティーを一口飲み、そう慰めてくれた。


『だが、きみの淹れたミルクティーも悪くはない。シヅ。これは、きみのオリジナルだ。これにはこれのコクがあって美味いよ』


 そして、そうも言ってくれた。


 それから、わたしを抱きしめ口づけしてくれた。


 ミルクの甘ったるさに負けず劣らず、甘くて熱い口づけをしてくれた。



 そんな思い出深いミルクティーを購入したが、店主はかわっていた。


 おじいちゃんは、二年前に倒れてそのまま息を引き取ったらしい。


 いまの店主は、おじいちゃんの孫息子だった。


 ミルクティーは、記憶にあるコクはなかった。


 夫の言う通りである。


 孫息子は、おじいちゃんのすべてを踏襲しているはずである。が、やはり違っていた。


 だけど、孫息子の淹れるオリジナルのミルクティーも悪くはなかった。


 それはそれでコクがあって美味しいミルクティーを飲みほしてしまってから、図書館に入った。


 ずっと監視されていることを鬱陶しいと思いつつ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ