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しあわせな親子の姿

 ニューランス伯爵家を案内してもらった。カーティスがやってくるまでにはまだ時間がある。


 伯爵家の屋敷は外観だけでなく屋敷内もまた、どこもかしこもピカピカ光り輝ききれいだった。


 わたしたちが到着した際、死んだはずの夫ベン、いや、カイルは、息子のニックを抱き、妻のエレノアの肩を抱いて出迎えてくれた。


 そして、いまも彼はニックを抱き、エレノアを側に連れて屋敷内を案内している。


 前を歩く親子をついつい見つめてしまう。


 カイルとエレノアは、ときおり顔を見合せてから微笑み合っている。


 その姿は、まさしくしあわせの象徴である。


 しあわせな夫婦の姿であり、親子の姿だ。


 ベンは、マクレイ国に潜入する直前にわたしに宣言した。


『生きて戻ってきてしあわせにする。おまえも子どもたちも』


 要約すれば、そのような内容だった。


 いま、彼は自分が宣言したことをちゃんと実践している。


 妻と子どもを愛し、守り、大切にしている。


 彼は、間違いなく妻と子をしあわせにしている。


 いいや。自分自身も含め、三人ともにしあわせのただなかにいる。


 彼といしょにしあわせのただなかにいるのが、わたしではないというだけのこと。


 ベンは、わたしではなくエレノアを選び、子をなし、しあわせを満喫している。


 ただそれだけのこと。


 嫉妬心なんてないはずだった。そんな醜い感情は、持っていないはずだった。


 しかし、それは違った。


 生まれて初めて嫉妬した。


 エレノアにたいして。それから、ニックにたいして。


 心の底にふつふつと沸き起こるのを感じる。


 顔から笑みが消え、それにかわって憎しみに満ちた表情になっているかもしれない。表情だけではない。口から言葉が飛び出しそうになっている。


 その言葉の数々は、当然だれにとってもいいものではない。


 自分で自分が抑えられそうにない。そう悟った瞬間、横を歩く大佐がそっと肩に手をまわしてきた。それから、彼の方に抱き寄せられた。


『任務中だぞ』


 彼は、警告をしてきた。


『わかっています』


 さりげなく大佐の腕から逃れた。


 が、大佐はしつこい。また抱き寄せようとしてきた。しかし、わたしにも意地がある。


 逃れ、抱き寄せの攻防。


 その攻防戦のお蔭か、いつの間にか前を歩く親子のことから気がそれていた。そして、伯爵家のルームツアーは終わった。


 そのタイミングで「将軍閣下が到着しました」と、伯爵家の執事がカーティスが来訪を伝えに来た。



 陽光に満ち溢れる中、カーティスは昨夜よりずっと光り輝いて見える。


 挨拶した後、彼とデリクとカイルと大佐は、カイルの執務室へこもってしまった。


 昨夜客殿では自己紹介をするということだったので、レディのわたしも同行できた。しかし、今日はさすがにそれはかなわなかった。


『レディはお茶でも飲んでおしゃべりでもしていろ』


 と、暗に言いたいのだろう。


 それならそれでかまわない。


 というわけで、エレノアとニックとわたしは、ニックの部屋で遊ぶことにした。


 二階には、エレノアとカイルの主寝室があり、その主寝室の続きの間がニックの部屋になっている。


 両親から溺愛されているニックの部屋は、さぞかし玩具やその他の物で溢れ返っているのかと追う蔵していた。しかし、その想像に反して玩具もその他の物もさほど多くはない。そのかわり、本棚がいくつもあり、そこには絵本や児童向けの本がたくさん並んでいる。



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