いよいよ大佐と寝台の上で
わたしは、宙を舞っていた。
主寝室へと続く扉のノブから手を放す前に、その手をつかまれてしまった。そして、無理な姿勢にもかかわらず、そのまま投げ飛ばされた。
さすがは大佐。
彼は、扉の向こうでわたしの攻撃を待ち受けていたのだ。
わたしの殺気に気がついて……。
あっという間だったけれど、鍛え上げられた体は覚えている。
宙を舞いながらも体勢を整えた。そして、おおきな寝台の上に着地した。
そのときには、大佐が音もなく走ってきていて、寝台の上に片膝をついているわたしにのしかかろうとしていた。
が、わたしもそれを予測している。
大佐の全体重を受けた。そのまま彼の胸元をつかんでうしろにひっくり返った。右足を彼の腹にぶつけ、そのままうしろへ投げた。
大佐は、寝台を飛び越え壁までふっ飛んでいった。
(今度こそやったかしら?)
と思ったのも束の間、彼は壁に足をつくとそれをバネにしてこちらに飛んできた。
ひっくり返った姿勢から上半身を起こしたタイミングで、彼に押し倒された。
関節技の応酬へと移行する。
『いったいどういうことなのです?』
声に出さず、口の形だけで大佐に問う。
「ギシギシ」
「バシバシ」
寝台は、悲鳴にも似た音を上げる。
『それは、こちらの台詞だ。どういうつもりだ?』
『はぁ? なにをすっとぼけているのです? なにもかもです。知らされていないことばかりです。こんな任務、任務ではありません。ていうか、夫が、いえ、ベンが生きていて、いまも任務を続行しているんでしょう?』
そんなわけはない。
死んだはずの夫ベンをみたときの大佐の驚きっぷりは、たしかに演技ではなかった。
大佐は、夫が生きていることは知らなかった。
しかし、それ以外のことについては、知っているはず。そして、わたしはなにひとつ知らされていない。知らなくていいことだけでなく、知っておかなければならないことも含めて。
たしかに、大佐自身ここにきて知ったことや知らされたことはあるかもしれない。それを差し引いても、彼はわたしに隠し事をしすぎである。
それも気に入らない。気に入らないことは多々あれど、とりあえずそれが気に入らない。
たがいに関節技をきめる度に、寝台が激しく揺れ、音を立てる。
使用人たちは、大佐とわたしが熱く激しく、めくるめく一夜をすごしていると思うはず。
大佐が最初に望んでいたように。
もっとも、彼らの想像するような内容とはちょっと違うけれど。
それから、大佐が望む内容ではないというだけのこと。




