カミラとナンシーは完璧なメイド(役)ね
「奥様といっしょに、ブラックストン公爵家に行けばよかったわね」
「そうよね、カミラ。『奥様のことは、わたしたちがお手伝いします』といえば、クラリス様は許して下さったでしょうから」
「そうだったわね。あなたたちだけでなく、フィリップとサイモンもブラックストン公爵夫妻のもとで働いていたのよね」
そう。わが家の四人の使用人たちは、デリクの命令で大佐とわたしを監視するためにやってきたのだ。
「はい。わたしたち四人とも、ブラックストン公爵家ではけっこう古株だったのです。サイモンだけは、途中料理修行の旅に出ましたけれど」
「そうなのです。わたしたちは、ずいぶんと長くブラックストン公爵様とクラリス様にお仕えしていたのです。だからこそ、このたび旦那様と奥様のもとでそのスキルを役立てるようにと抜擢されました」
「ナンシー。もしかして、わたしたちって古株すぎて鬱陶しがられていたのかもしれないわね」
「だとすれば、カミラ。それはあなただけよ」
こんなふうにおしゃべりをしながらでも、ベテランのふたりは要領を心得ている。わたしはただ突っ立っているだけでサササッとドレスを脱がせてくれた。そのあと、洗面室に行って化粧を落として洗顔するよう言ってくれた。それから、すでに浴槽にお湯を準備してくれていたのでゆっくりつかり、体を洗ってぬくもった。それが終ると、やはり準備してくれていたシルクのガウンを着用した。
洗面室から出ると、ローテーブルにカモミールティーとひと口大のサンドイッチとオレンジが置いてあった。
「奥様。パーティーでは、料理を食べることができなかったでしょう?」
「ウエストも含め、体中をコルセットで締めまくったので食事どころではなかったはずです。いずれにせよ、パーティーでは食事はしにくいですから」
カミラとナンシーは、よくわかっている。
「そうなのよ。壁際に美味しそうな料理がたくさん並んでいたけれど、夢中になって食べたら夫に叱られそうだから。あっ、その夫は?」
大佐のことをすっかり忘れていた。
「ご心配なく。奥様が浴槽につかっている間に、旦那様の身の回りのことをお手伝いしました。もちろん、夜食も出しておきました」
「旦那様も『お腹が減った』と、美味しそう食べてらっしゃいましたよ」
カミラとナンシーはナイスすぎる。
「ほんとうに助かるわ。というか、わたしって自分のことばかりでダメダメね」
「奥様、それでよろしいのです。だからこそ、わたしたちがいるのですから」
「ナンシーの言う通りです。奥様にわたしたちの仕事を奪われたら、わたしたちはただの給金泥棒になってしまいます」
カミラが言い、三人で笑った。
夜食を準備をしてくれたサイモンもさすがすぎる。
ありがたく食べた。
ふたりが部屋を去った後、あらためて主寝室へと続く扉の前に立った。
(さぁ、いまから熱く激しい一夜をすごすのよ)
みんなのお蔭で、そこそこお腹を満たすことができた。だから、これからどれだけ長期戦になってもオーケーだ。
気合いとともに、主寝室へと続く扉を開けた。
しかも、ノックもせずに。
いまから夫に、というか大佐に夜襲をしかけるのだ。




